24/12/23:ゴルフ場だった世界遺産のホープウェル土塁群が遺跡として公開へ - ART+LOGIC=TRAVEL [旅を考えるweb]

世界遺産NEWS 24/12/23:ゴルフ場だった世界遺産のホープウェル土塁群が遺跡として公開へ

アメリカには1世紀以上もゴルフ場として使用されてきた世界遺産があります。

2024年に入っても会員は世界遺産の土塁群を利用したホールでゴルフを楽しむことができました。

 

世界遺産「ホープウェルの儀礼的土塁群」の8件の構成資産のひとつである「オクタゴン・アースワークス」です。

この場所には古代ホープウェル文化の遺構である土塁群があるのですが、1910年からゴルフ場として利用されてきました。

 

しかし、裁判と和解を経て、本年をもってゴルフ場としての使用を終了することになりました。

そして年明けの2025年1月1日より遺跡としての一般公開がはじまります。

 

From golf course to World Heritage site: Ohio’s Octagon Earthworks opens next month(Cleveland.com)

 

今回はこのニュースをお伝えします。

 

* * *

古代の北アメリカ大陸では土や砂・石を利用した「アースワーク "earthworks"」が盛んに築かれました。

特に多いのが円や多角形の形に盛った墳丘・墳墓で、これらは特に「マウンド "mounds"」と呼ばれます。

 

これらを築いた文化の一例がウッドランド文化(紀元前10~後9世紀)、アデナ文化(紀元前10~後1世紀)、ホープウェル文化(紀元前5~後5世紀頃)、ミシシッピ文化(9~16世紀)です。

先コロンブス期のこうした時代や文化群を「マウンド・ビルダー」と呼んだりもします。

 

世界遺産としてはミシシッピ文化の「カホキア墳丘群州立史跡 "Cahokia Mounds State Historic Site"」とホープウェル文化の「ホープウェルの儀礼的土塁群 "Hopewell Ceremonial Earthworks"」があります。

前者が英語でマウンド、後者がアースワークスになっているのがわかります。

これは後者に墳墓ではない細長い堤状の土塁が多いからだと思います。

 

アースワークスについて、ここでは固有名詞以外は日本語で「土塁」と訳すことにします。

 

土塁は円や多角形・直線といった幾何学図形からトリやヘビなどの動物形まで多彩で、墳墓として使用されたほか、なんらかの信仰を示すモニュメントと考えられています。

墳墓として使用された土塁、いわゆるマウンドは、1基から多数の人骨と副葬品が発見されており、単独の墓ではなく墓地だったようです。

 

副葬品はペンダントやネックレス、マスク、彫刻、レリーフ、宝石といった装飾品から陶器や石刃まで多彩で、それぞれ宗教的な意味を持っていたと思われます。

ロッキー山脈の黒曜石、ブルーリッジ山脈の雲母、メキシコ湾の貝殻やサメの歯といった遠方の産品も含まれており、アメリカ大陸各地を結ぶ交易ネットワークが存在したことを示しています。

 

土塁のいくつかはヘビのように形で信仰対象を示すものがある一方、冬至や夏至、太陽や月の出入りなどの方向を指しているものもあり、天体との関係も確認されています。

オクタゴン・アースワークス。少しわかりにくいですが、左下の円がグレート・サークル、右上がオクタゴン。これにライトと呼ばれる土塁群を含めて「ニューアーク・アースワークス」とも呼ばれています

 

ホープウェル文化はアメリカ北東部、オハイオ川周辺で栄えた紀元前5~後5世紀頃の文化です。

やはり土塁群を特徴としており、世界遺産「ホープウェルの儀礼的土塁群」はホープウェル文化を代表する8件の土塁群を構成資産としています。

 

構成資産のひとつがオクタゴン・アースワークスです。

細長い土塁で直径約370mの円を描くグレート・サークルと、約170mの直線の土塁8つで八角形を構成するオクタゴンというふたつの土塁を中心に数々の土塁群を含む遺跡地帯です。

特にオクタゴンは月の軌道傾斜のサイクルである18.6年周期を示しており、月観測施設であったと見られています。

 

非常に興味深い土塁群なのですが、実はここ、今年半ばまでゴルフ場となっており、会員はここでゴルフを楽しむことができました。

18ホールを完備しており、グレート・サークルやオクタゴンにいくつものホールがかかっています。

 

ただ、会員に限ってゴルフ場としての利用を認められており、一般には公開されていませんでした。

一応、庶民向けのゴルフ場をうたってはいましたが、それほどなじみあるものではなかったようです。

 

19世紀、オクタゴン・アースワークスは軍が管理していましたが、1910年にマウンドビルダーズ・カントリー・クラブというプライベート・ゴルフ・クラブの土地となり、ゴルフ場として整備されました。

この土地を州内の遺跡や博物館を管理するオハイオ・ヒストリー・コネクションが1933年に取得しましたが、リースという形でゴルフ場は存続し、1997年にリース契約が更新されて期間が2078年まで延長されました。

 

オハイオ・ヒストリー・コネクションは遺跡の重要性を鑑み、2018年にリース契約の停止を求めて提訴しました。

遺跡を祖先のものであるとするネイティブ・アメリカンのショーニー族もこの動きを支援し、その重要性を主張しました。

 

2022年にオハイオ州高位裁判所は「オクタゴン・アースワークスはストーンヘンジやマチュピチュに匹敵する価値がある」として原告勝訴の判決を下すと、ゴルフ・クラブは控訴を表明。

しかし、2024年8月に和解が成立し、ゴルフ場としての利用に終止符を打つことになりました。

 

この結果を受けて、一帯は年明け2025年1月1日より遺跡としての一般公開がはじまります。

当日にはオープンを祝う各種イベントが開催され、午前と午後のツアーが開始される予定です。

 

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ゴルフ場となっていた時代のオクタゴン・アースワークス
ゴルフ場となっていた時代のオクタゴン・アースワークス (C) Jubileejourney

「ホープウェルの儀礼的土塁群」が世界遺産リストに登録されたのは2023年のことです。

そうすると登録時も裁判が進行中で、ゴルフ場として使用されていたことになります。

 

上の動画を見ると、小さな円形の土塁の内部がグリーンになっており、中心にカップが設けられています。

世界遺産のグリーンなんていう、とんでもないことになっていたんですね。

 

 

[関連サイト&記事]

Hopewell Ceremonial Earthworks

世界遺産と世界史16.中南米の古代

世界遺産NEWS 23/09/21:速報! 2023年新登録の世界遺産!!

 


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