世界遺産NEWS 15/09/15:南アで人類の祖先となる新種発見

9月10日、南アフリカの世界遺産「南アフリカ人類化石遺跡群」近郊のライジング・スター洞窟で、現生人類が所属するホモ属(ヒト属)と、猿人と呼ばれるアウストラロピテクス属とをつなぐミッシング・リンク(失われたつながり。進化の過程の未発見種)を埋めうる化石が発見されたことが学術誌『eLife』で発表されました。

「南アフリカ人類化石遺跡群」はヨハネスブルクの北に位置する遺跡群で、1924年にオーストラリアの考古学者レイモンド・ダートがスタークフォンテン洞窟において人とも猿とも判別できない化石を発見してアウストラロピテクス(アウストラロピテクス・アフリカヌス)と名付けて以来、「人類のゆりかご」「人類発祥の地」と呼ばれ、400万年~250万年前に遡るさまざまな猿人の化石が発見されてきました。

 

アウストラロピテクスは猿人の名の通りかなり猿に近いもので、ぼくたちとは霊長目ヒト科ヒト亜科ヒト族ヒト亜族まで同じですが、その下でホモ属とアウストラロピテクス属に分かれています。

アウストラロピテクスの脳の大きさは300~500cc前後とチンパンジーと大差ありませんが、人類の特徴のひとつである直立二足歩行を行っており、ホモ属の祖先と考えられています。

 

ホモ属の発見は1960年、イギリスの考古学者ルイス・リーキーによってなされました。

タンザニアの世界遺産「ンゴロンゴロ保全地域」のオルドヴァイ峡谷で発見された化石がそれで、精巧な打製石器を使用していたことから「器用な人」を意味するホモ・ハビリスと名付けられました。

ホモ・ハビリスの化石や石器は「南アフリカ人類化石遺跡群」やエチオピアの「オモ川下流域」、ケニアの「トゥルカナ湖国立公園群」といった世界遺産でも発見されています。

今回発見されたのは300万年ほど前のものと見られる化石群で、洞窟の奥に少なくとも15体分、1,550以上の骨が集中していました。

15体は幼児から青年・女性・老人と幅広く、全身の骨がほぼ完全にそろっている個体も発見されています。


骨格の特徴ですが、下半身は現代人とほとんど変わりなく、立って歩くための骨格が備わっているのに対し、上半身は猿人に近く、木を握るために手の指が湾曲していたり、脳も500cc程度とアウストラロピテクスとあまり変わらないようです。

プロジェクトのリーダーを務める南アフリカの人類学者リー・バーガー氏は「アウストラロピテクス属とホモ属の転換期における新種と考えられる」と述べており、ライジング・スター(新星)という洞窟名にちなんで「星の人=ホモ・ナレディ」と名付けられました。


なぜ洞窟の奥に集まっていたのかは謎ですが、落盤によって閉じ込められたり殺されたりした跡がないことから動物に捕食されたり戦争が起こったわけではないようで、バーガー氏は「埋葬場所だったのではないか」と推測しています。

埋葬という人類特有の文化の成立に迫る発見でもありそうです。

ぼくは世界史の時間に、猿が猿人→原人→旧人→新人と進化してきたことを学びました。

ところが現在ではジャワ原人や北京原人、ネアンデルタール人といったアフリカ以外で発見された原人や旧人はすべて絶滅しており、私たちの直接の祖先ではないことが明らかになっています。

そしてまた猿→猿人、猿人→原人の断絶はあまりに大きく、数々のミッシング・リンクが存在するため進化論そのものを否定する人さえいたりします。

今回の発表はこうしたミッシング・リンクを埋めうるきわめて大きな発見と言えそうです。


実は今年5月28日にはエチオピアの世界遺産「アワッシュ川下流域」で新種の猿人=アウストラロピテクス・デイレメダが発見されたことが『Nature』誌上で発表されています。

人類の起源に迫る発見が今後も続きそうです。



[関連記事&サイト]

小顔のホモ属新種ホモ・ナレディを発見、南ア(NATIONAL GEOGRAPHIC 日本版)

世界遺産と世界史6.人類の夜明け



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