世界遺産と世界史4.生命の誕生:先カンブリア時代

<生物の誕生>

■生物の定義

生物ってなんでしょう?

 

生物の定義は難しくて厳密には定められません。

ですがだいたい以下のような特徴を持てば生物ということになっています。

 

○生物の定義の例

  • 身体を持つこと(外界と自分を隔てるもの=膜や壁や皮膚があること)
  • 身体を構成するものが入れ替わること(古いものと新しいものが入れ替わること=代謝があること)
  • 増えること(遺伝情報物質を使って分裂・複製したり、子孫を残したりできること)
  • 上記を満たしても変わらないこと(代謝したり子供を産んでも身体の特徴が変わらないこと)

 

たとえば雲や雨。

海の水が蒸発して雲を作り、雲が雨を降らせ、雨は川を作り、川は海に注ぎます。

水は増減し、循環を繰り返しますが、生物とはいいません。

 

たとえばある種のタンパク質が自分をコピーする機能を持っていて次々に増えていくとします。

いまのところタンパク質が増えるだけでは生物とは認められていません。

狂牛病(BSE)やクロイツフェルト・ヤコブ病の原因といわれるプリオンはそんな感じですが、生物ではなく無生物と解釈するのが一般的であるようです。

 

微妙なのがウイルスで、ウイルスは細胞を持たず、自分だけでは増殖もできません。

しかし、ゲノム(遺伝情報物質)として1本鎖のRNAあるいは2本鎖のDNAを持っていて、他の生物の細胞の中に入るとその中の素材を使って増殖します。

非細胞性生物といわれることもありますし、無生物とされることもあったります。

 

上のような条件を満たすタンパク質の集合体、つまり生物が現れたのはだいたい41億年前といわれています。

それらしい化石は35億年前以前のものが発見されています。 

 

■生物の誕生

約45億年前に地球が誕生し、やがて主として窒素と二酸化炭素、酸素、水素からなる大気ができました。

これらの分子からさらに水やアンモニア、メタンなどが生み出されました。

雷なのか隕石なのか火口なのか熱水噴出孔なのかわかりませんが、こうした物質になんらかの力が加わって炭素をベースとした有機化合物が誕生し、タンパク質が合成され、生物に成長したようです。

 

生物にとって水が決定的に重要なのは、物質を溶かし込んで反応させたり入れ替えたりすることができるからです。

SF映画では液体ではない鉱物生命体のようなものも着想されていますが、液体を介さなければ物質が入れ替わることで成立する増殖や代謝が難しいため、あまり現実的ではないようです。

世界遺産「西オーストラリアのシャーク湾(オーストラリア)」のストロマトライト
いまも成長を続けている世界遺産「西オーストラリアのシャーク湾(オーストラリア)」のストロマトライト。シアノバクテリアが粘液を出して海中の石灰質などを集めて固着したもので、毎日わずかずつ成長しています

単細胞生物・真正細菌の一種であるシアノバクテリア(藍藻)が誕生したのが35億~25億年前といわれています。

シアノバクテリアは光合成することによって酸素を吐き出し、地球の大気組成を大きく変えました。

「環境を変えて生きるのは人間だけ」なんてことは全然なくて、生物はつねに環境を変えながら生きています。

 

そしてシアノバクテリアは海底に集まって光合成を行い、その上に砂が堆積すると砂の上に出て砂を固めたあと、また光合成を再開します。 

このように固められた岩石をストロマトライトといいます。

 

オーストラリアの世界遺産「西オーストラリアのシャーク湾」では20数億年前に作られたと見られるストロマトライトが発見されています。

シャーク湾の塩分濃度はとても高く、そのためなのか天敵がいないからなのか、とにかく現在もシアノバクテリアによってストロマトライトは成長を続けています。

ストロマトライトは他にも世界遺産「ウォータートン・グレーシャー国際平和自然公園(アメリカ/カナダ共通)」や「グランドキャニオン国立公園(アメリカ)」などの古い地層でも化石が発見されており、先カンブリア時代(後述)には一般的な生物だったようです。

 

* * * 

 

<先カンブリア時代>

■地質年代

アンモナイトの化石
古生代に生きたアンモナイトの化石。生物が死に、泥などが積もり、身体が腐ったあとの空間に新たに砂や石や土が入ることで化石ができます。だから化石を構成しているのは鉱物であって、昔の動植物の体組織が残っているわけではありません

地面を掘って化石を集めていた科学者たちが、ふとあることに気づきました。

 

新しい地層の化石っていまと変わらんけどさ、古い地層の生き物って変なのが多くない?――

だよね。大昔にはトカゲがデカくなったような変な動物がいたっぽい――

でもさ、もっともっと古い時代になるとヘンテコな貝とか魚みたいなのばかりじゃん――

 

で、いま生きているような生物の化石が出る年代を「新生代」、その中間でトカゲの化け物=恐竜が集まる年代を「中生代」、ヘンテコな貝とか魚の年代を「古生代」と名づけることにした……

正確ではありませんが、おおよそそんな感じです。

 

18世紀、イタリアの地質学者ジョヴァンニ・アルドゥイノは化石が出土した南アルプスの地層の年代のうち、化石がほとんど出ない古い年代を第一紀、現代と違う動物の化石が出るやや古い年代を第二紀、現代と変わらぬ化石の年代を第三紀と名づけました。

おおよそ古生代・中生代・新生代に該当し、新生代が第3紀からはじまる由来になっています。

 

こうした区分けを地質年代と呼び、冥王代→太古代(始生代)→原生代→顕生代と分類されています。

冥王代・太古代・原生代の3代は古生代カンブリア紀の前の時代(5億4,000万年前以前)ということで「先カンブリア時代」とも呼ばれています。

 

○地質年代の区分

  • 冥王代:45億~40億年前。地球の形成から原子生命体の誕生まで
  • 太古代:40億~25億年前。第1次生命体(遺伝情報物質を収める核を持たない原核生物)の時代
  • 原生代:25億~5億4,000万年前。第2次生命体(核を持つ真核生物)が誕生した時代
  • 顕生代:5億4,000万年前~。第3次生命体(多細胞生物)が発達した時代

○顕生代の区分

  • 古生代:5億4,000万~2億5,000万年前。カンブリア紀→オルドビス紀→シルル紀→デボン紀→石炭紀→ベルム紀
  • 中生代:2億5,000万~6,600万年前。三畳紀→ジュラ紀→白亜紀
  • 新生代:6,600万年前~。古第三紀→新第三紀→第四紀

 

■エディアカラ生物群

エディアカラ生物群のCGアニメーション

先述したように、生物の形が大きく変わったことからこのような区分がなされることになりました。

「生物の形が変わる」というのは、古い生物が死に絶え、新しい生物が取って代わる「大量絶滅」が起こったということです。

つまり「○○代」とか「××紀」のような区分というのは生物の大量絶滅の記録であり、大量絶滅のたびに生物は複雑化し進化したことを示しています。

 

特に有名な大量絶滅が原生代、古生代、中生代、新生代を分ける境界で、これら3つの境界はそれぞれV-C境界、P-T境界、K-Pg境界と呼ばれています。

それぞれ大量絶滅が起こったことで知られています。

 

ではV-C境界、つまり原生代と顕生代の境、先カンブリア時代と古生代の間でいったい何が起こったのでしょうか?

 

多細胞生物が現れたのが10億年前以前。

そして6億年ほど前から古生代がはじまる5億4,000万年前辺りに栄えたのが上の動画にあるエディアカラ生物群です。

巨大な軟体動物の化石が世界各地で見つかっていますが、いずれも現代では見られない奇妙な生物ばかり。

しかも突如誕生し、突如絶滅したようです。 

 

ひとつの原因と考えられているのが、すべての海が凍りつき、地球全体が氷に覆われたという全球凍結(スノーボール・アース)仮説です。

約7億3,000万~6億4,000万年ほど前に全球凍結(マリノニアン全球凍結)が起こり、急激な環境の変化で大量絶滅が起き、エディアカラ生物群が誕生したようです。

 

なお、カナダの世界遺産「ミステイクン・ポイント」ではエディアカラ生物群の化石を多数産出しています。

 

■カンブリア爆発

世界遺産「ミステイクン・ポイント」
カナダ・ニューファンドランド島の世界遺産「ミステイクン・ポイント」で発見されたエディアカラ生物群の化石

しかし、原生代末にエディアカラ生物群は地球環境が激変して絶滅してしまいます。

この頃、超大陸の分裂が起こり、分裂した小大陸や亜大陸がぶつかり合ったりしていたようです。

大陸が分裂する際には地下からマグマが噴き出すことで放射線の影響を受けて進化が促され(茎進化)、また大陸が衝突することで生物種の交流が起こって新たな生物に進化していきました(冠進化)。

 

こうしたV-C境界の大量絶滅や茎進化・冠進化、さらには栄養分の増加、オゾン層形成による紫外線の減少、海水塩分濃度の低下などの影響を受けて、5億5,000万年ほど前から生物が急激に多様化し、現在の動物門のほとんどが出現します。

この爆発的な生物の広がりを「カンブリア爆発」といい、生物が顕(あらわ)れる時代=顕生代の先陣を切る古生代カンブリア紀がはじまります。

 

* * *

 

 次回は古生代から新生代に至る生命進化の歴史を紹介します。

 


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