世界遺産NEWS 20/02/27:奈良県が平城宮跡前の工場跡を購入・発掘して歴史公園へ
奈良県は2月中旬、世界遺産「古都奈良の文化財」の構成資産のひとつである平城宮跡前に広がる工場跡地について、県が全域を購入し、発掘調査を行って歴史公園として整備する方針を固めました。
平城京では中枢である平城宮の研究は進んでいますが、周辺の京域についてはほとんど未解明となっていますから、発掘に大きな期待がかかります。
■平城京の「中枢」へ 発掘調査にかかる期待(産経新聞)
今回はこのニュースをお伝えします。
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「古都奈良の文化財」は8件の構成資産を持つ世界遺産ですが、そのひとつに平城宮跡があります。
平城宮は奈良時代の首都である平城京の大内裏で、天皇の在所であり政治の中枢でもありました。
平城宮跡は国の特別史跡、平城宮東院庭園は国の特別名勝に指定されており、奈良文化財研究所が長きにわたって研究を進めてきました。
平城京は中国は唐の都・長安や洛陽を模して築かれたと考えられており、東西の大路「条」と南北の大路「坊」からなる碁盤の目状の条坊制を採用しています。
下の図を見てください。
平城京のおおよそのグリッドです。
普通の地図と同様に上が北、下が南、右が東、左が西となっています。
北の黄色部分が平城宮、平城宮の下の小さな茶色が正門・朱雀門、その下に走る太い道路が朱雀大路で、平城京の正門である羅城門に通じています。
朱雀大路の西を右京、東を左京、東に飛び出している部分を外京といいます。
そしてオレンジ色が薬師寺、その上の茶色が唐招提寺、黄緑が西大寺、東の青が元興寺、ピンクが興福寺、北東枠外の灰色が東大寺です。
平城京の中でも平城宮跡や現存する寺院・遺跡などでは研究が進められてきましたが、それ以外の右京や左京・外京といったいわゆる京域は住宅や商工業地帯であるため本格的な発掘調査はほとんど行われてきませんでした。
そこで今回のニュースです。
上の動画や下の地図でもわかりますが、平城宮跡の南に大きな工場跡が確認できると思います。
積水化学工業が所有する奈良事業所の跡地なのですが、2018年に移転し、現在はほとんど撤去されています。
面積は4.9haで、東京ドームの4.7haより少し大きなサイズです。
工場跡地は平城宮跡の真正面に位置し、通りを隔てて世界遺産のバッファー・ゾーン(緩衝地帯)に隣接し、朱雀門以北の資産(世界遺産登録範囲。プロパティ)もすぐそこです。
このエリアは景観を守る目的で独自に設定したハーモニー・ゾーン(歴史的環境調整区域)の一部でもあります。
世界遺産委員会は遺産周辺の景観に非常に敏感になっていることもあり、景観を乱すような開発は難しいと思われます。
そうしたこともあると思うのですが、2018年8月、この跡地の活用方法を検討するために積水化学工業、奈良県、奈良市が協議を持ち、包括連携協定を締結しました。
協定では平城宮跡歴史公園のにぎわい創出や来訪者の拡大に貢献することや、地域との調和を図ることなどといった方針が定められ、3者が連携・協力して取り組むことを確認しました。
もともと宅地開発や奈良市役所本庁舎の移転計画があったのですが、こうした計画は中止され、市役所は耐震改修で対応することになりました。
奈良県は2019年8月、2haを県が買収して平城宮跡と関係した施設を造り、残りをホテルや商業施設として民間に開放する計画を発表しました。
しかしながら同年12月、荒井正吾知事は跡地をすべて購入し、県営公園として整備する考えを明らかにしました。
そして2月中旬、奈良県は来年度予算で4.9haの跡地のすべてを購入する方針を固めたようです。
この跡地にいったい何があったのかまったくわかっていないため、荒井知事は発掘に意欲を見せているということです。
上の産経新聞の記事では大阪府立近つ飛鳥博物館の舘野館長の言葉として、「朱雀門に近く、朱雀大路に面した一等地。重要施設や重要人物の邸宅があった可能性は十分にある」と記しています。
工場跡地は朱雀大路にかかっているため、通りの構造なども明らかになる可能性があります。
発掘後は県有の歴史公園として整備する方針です。
国営の平城宮跡歴史公園と連携して一大歴史公園が誕生しそうです。
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ワクワクしますね!
ちなみに今年は平城京遷都に携わった藤原不比等没後1,300年に当たります。
さまざまなイベントも予定されていますから、下のホームページを確認してみてください。
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