世界遺産NEWS 19/08/01:文化審議会、再度「北海道・北東北の縄文遺跡群」を世界遺産推薦へ

7月30日、文化庁の文化審議会・世界文化遺産部会は2021年の第45回世界遺産委員会における世界遺産リストへの登録を目指し、北海道・青森・岩手・秋田4道県にまたがる「北海道・北東北の縄文遺跡群」の推薦を決めました。

9月の世界遺産条約関係省庁連絡会議で正式に決定する予定です。

 

今回はこのニュースをお伝えします。

 

* * * 

まず、日本における推薦物件の登録プロセスを確認しておきましょう。

日本では世界文化遺産は主に文化庁、世界自然遺産は主に環境省と林野庁が担当しています。

 

文化遺産については自治体が登録活動を主導し、毎年文化庁が各自治体から立候補を募ったうえで7月の文化審議会で推薦物件を1本化しています。

自然遺産については環境省や林野庁が候補地を選出し、自治体とともに登録活動を行っています。

 

文化遺産や自然遺産の候補地があがったのち、9月の世界遺産条約関係省庁連絡会議で最終的な推薦物件を決め、翌年1月に内閣が閣議了解したのち、登録推薦書を2月1日までにUNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)の世界遺産センターに提出します(前年9月までに暫定推薦書を送るとアドバイスを受けることができます)。

2018年の推薦分(2019年登録分)まで各国の推薦枠は2件ありましたが(ただし2件の場合、1件は自然遺産か文化的景観でなければなりません)、2019年の推薦から年1件のみに制限されています。

 

ここ数年、日本の文化遺産はこの推薦枠1件を巡って熾烈な競争を繰り広げてきました。

2012年以降の歩みを見てみましょう。

 

■日本の文化遺産の推薦枠争い

 ※「★」が選出された物件

 

○2012年の審議物件

  • 富岡製糸場と絹産業遺産群(群馬)★
  • 長崎の教会群とキリスト教関連遺産(長崎、熊本)

○2013年の審議物件

  • 北海道・北東北の縄文遺跡群(北海道、青森、秋田、岩手)
  • 百舌鳥・古市古墳群(大阪)
  • 九州・山口の近代化産業遺産群(岩手、静岡、山口、福岡、熊本、佐賀、長崎、鹿児島)★
  • 長崎の教会群とキリスト教関連遺産(長崎、熊本)

○2014年の審議物件

  • 北海道・北東北の縄文遺跡群(北海道、青森、秋田、岩手)
  • 金を中心とする佐渡鉱山の遺産群(新潟)
  • 百舌鳥・古市古墳群(大阪)
  • 宗像・沖ノ島と関連遺産群(福岡)
  • 長崎の教会群とキリスト教関連遺産(長崎、熊本)★

○2015年の審議物件

  • 北海道・北東北を中心とした縄文遺跡群(北海道、青森、秋田、岩手)
  • 金を中心とする佐渡鉱山の遺産群(新潟)
  • 百舌鳥・古市古墳群(大阪)
  • 宗像・沖ノ島と関連遺産群(福岡)★

○2016年の審議物件

  • 北海道・北東北の縄文遺跡群(北海道、青森、秋田、岩手)
  • 金を中心とする佐渡鉱山の遺産群(新潟)
  • 百舌鳥・古市古墳群(大阪)
  • 長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産(長崎、熊本)★

○2017年の審議物件

  • 北海道・北東北の縄文遺跡群(北海道・青森・秋田・岩手)
  • 金を中心とする佐渡鉱山の遺産群(新潟)
  • 百舌鳥・古市古墳群(大阪)★

○2018年の審議物件

  • 北海道・北東北の縄文遺跡群(北海道・青森・秋田・岩手)★
  • 金を中心とする佐渡鉱山の遺産群(新潟)

○2019年の審議物件

  • 北海道・北東北の縄文遺跡群(北海道・青森・秋田・岩手)★
  • 金を中心とする佐渡鉱山の遺産群(新潟)

 

「北海道・北東北の縄文遺跡群」は7年連続で立候補していたことがわかります。

また、2018年と2019年の審議物件が同じですね。

実は「北海道・北東北の縄文遺跡群」は2019年2月に推薦される予定だったのですが、推薦枠が2件から1件に減ったことで自然遺産候補地「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」とバッティングし、後者が優先されました。

今年はバッティングする自然遺産もないので9月の世界遺産条約関係省庁連絡会議で正式に推薦が決定する予定です。

 

* * *

「北海道・北東北の縄文遺跡群」構成資産のひとつ、大湯環状列石
「北海道・北東北の縄文遺跡群」構成資産のひとつ、大湯環状列石。手前から奥に伸びるラインが直径46mを誇る万座環状列石、中央右は日時計状組石

世界遺産候補地「北海道・北東北の縄文遺跡群」の概要を紹介しましょう。

以下、報道資料より抜粋です。

 

■「北海道・北東北の縄文遺跡群」概要

 

○暫定リスト記載年

2009年

○概要

北海道・北東北の縄文遺跡群は、紀元前13,000年頃から約1万年間にわたり、日本列島で成立・発展した縄文文化を具体的に示す日本を代表する17の考古学的遺跡群である。これらは、土器の使用開始による縄文文化の初期の様相を示す遺跡、成熟した社会や生活を具体的に物語る集落遺跡、環境や生業活動の内容を詳細に示す貝塚、祭祀や精神的な活動の拠点となった環状列石や周堤墓、有機質遺物が良好な状態で埋蔵されている低湿地遺跡などで構成し、縄文文化の顕著な遺構・遺物をすべて含んでいる。さらに、海岸部と内陸部の丘陵地帯、湖沼、河川流域などに立地し、多様な環境への適応の変遷と自然との共生の典型的な姿を示す。

○登録基準との合致

  • 評価基準(ⅲ):狩猟・採集・漁労を生業の基盤に定住を達成し、成熟した縄文文化へと発展を遂げた先史文化の様相を伝承する無二の存在

縄文時代と同時期の世界の他地域とは異なり、本格的な農耕と牧畜を選択せず、狩猟、採集、漁労を生業の基盤とし定住を達成。世界最古の一つの土器や漆工芸、日本独特の編組技術、縄文時代以降に影響を与えた竪穴建物構造、北海道・北東北の地で成立した大型竪穴建物、貯蔵穴の発達、土偶の出現や記念物の活発な構築は、物質的、精神的に成熟した縄文文化の発展を示す。堀(濠)や防御施設のない協調的、開放的な社会の継続的な形成は、社会的に成熟した縄文文化の発展を示す。

  • 評価基準(ⅴ):約1万年間もの長期にわたり、気候変動や環境変化に適応し持続可能な定住を実現した、自然と共生した人類と環境との関わり、土地利用の形態を示す顕著な見本 

完新世の温暖湿潤の気候のもと、世界的にも希な生物多様性に恵まれた生態系に適応し、約1万年間もの長期にわたって持続可能な定住を実現。ブナを中心とする落葉広葉樹が広がる自然環境に、クリやクルミ、ウルシなどの有用植物で構成する縄文里山と呼ばれる人為的生態系を成立させ生業を維持

人間が自然を大きく改変し特定の作物の収量を確保する農耕や牧畜を生業とする定住とは異なり、縄文里山の成立による持続可能で自然資源の巧みな利用による定住を実現。

○構成資産

  • 大船遺跡(北海道函館市)
  • 垣ノ島遺跡(北海道函館市)
  • キウス周堤墓群(北海道千歳市)
  • 北黄金貝塚(北海道伊達市)
  • 入江貝塚(北海道洞爺湖町)
  • 高砂貝塚(北海道洞爺湖町)
  • 三内丸山遺跡(青森県青森市)
  • 小牧野遺跡(青森県青森市)
  • 大森勝山遺跡(青森県弘前市)
  • 是川石器時代遺跡(青森県八戸市)
  • 亀ヶ岡石器時代遺跡(青森県つがる市)
  • 田小屋野貝塚(青森県つがる市)
  • 大平山元遺跡(青森県外ヶ浜町)
  • 二ツ森貝塚(青森県七戸町)
  • 御所野遺跡(岩手県一戸町)
  • 大湯環状列石(秋田県鹿角市)
  • 伊勢堂岱遺跡(秋田県北秋田市)

○選定理由

 昨年7月、文化審議会は、世界遺産一覧表への記載に向けて、「北海道・北東北の縄文遺跡群」を文化遺産の推薦候補として選定した。その後、政府として検討した結果、当該物件の昨年度の推薦が見送られたところ。

 このため、文化審議会としては、「平成31年度における世界文化遺産推薦候補の選定の基本的な考え方について(平成31年1月23日文化審議会決定)を踏まえ、昨年度の答申内容をそのまま引き継ぐことを基本としつつ、「世界文化遺産推薦書の準備状況を判断する際の観点」(平成29年4月24日文化審議会世界文化遺産部会決定)に照らして、あらためて「北海道・北東北の縄文遺跡群」について進捗状況の確認を行った。

 その結果、当該物件については、推薦書の提出までにさらなる充実を図る必要があるものの、顕著な普遍的価値が認められ得ると考えられ、かつ推薦内容の検討が進んでおり、また推薦後の審査・評価を推薦内容の見直しに反映させる余地が大きいと考えられることから、昨年度に引き続き、「北海道・北東北の縄文遺跡群」を今年度の候補として選定する。

 なお、昨年度に申請のあった「金を中心とする佐渡鉱山の遺産群」については、昨年度から一定の進捗が見られ、今後、関係自治体が推薦書案の準備をさらに進めていくことにより、引き続き、「北海道・北東北の縄文遺跡群」に次ぐ案件として、有力な推薦候補案件となり得るものと考える。

 

今後のスケジュールも確認しておきましょう。

 

■登録までのスケジュール

○2019年

  • 9月:世界遺産条約関係省庁連絡会議で日本の推薦物件を正式決定
  • 9月末日まで:可能なら暫定推薦書をUNESCO世界遺産センターへ提出

○2020年

  • 1月:内閣にて推薦を閣議了解
  • 2月1日まで:登録推薦書をUNESCO世界遺産センターへ提出
  • 夏~冬:ICOMOS(国際記念物遺跡会議)が現地調査を含む専門調査を実施

○2021年

  • 4~5月:ICOMOSが評価報告書を世界遺産センターへ提出、勧告の発表
  • 6~7月:第45回世界遺産委員会で世界遺産リストへの登録の可否が決定

 

* * *

 

推薦が1年先送りされた去年からこの推薦は固いと見られていました。

文化庁への推薦書もより充実しているようですし、期待が持てそうですね。

 

そして新潟県の「金を中心とする佐渡鉱山の遺産群」が再来年2021年推薦の有力候補となりました。

ただ、こちらはいま論争中の徴用工問題で韓国が反対を明言しています。

この辺りの動きも気になるところです。

 

とにかく、関係者のみなさん、おめでとうございます!

 

 

[関連記事]

※各記事にさらに関連の過去記事へのリンクあり

世界遺産NEWS 20/07/11:文化庁、新型コロナの影響で世界文化遺産候補選定を見送り(翌年)

世界遺産NEWS 19/01/25:奄美・沖縄2020年、縄文遺跡群2021年の登録を目指し推薦へ

世界遺産NEWS 18/11/03:2019年、「奄美大島、徳之島、沖縄島北部および西表島」を再推薦へ(前年)

世界遺産NEWS 18/07/19:文化審議会「北海道・北東北の縄文遺跡群」を世界遺産に推薦へ(前々年)

 


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『朝日新聞 世界の扉』記事執筆。『Fine』自然遺産特集執筆。『地球の歩き方 MOOK 世界のビーチBEST100』『ノジュール』に旅のスペシャリスト・達人として参加。『PEN』でアフリカの世界遺産執筆。『MONOQLO』世界遺産特集取材協力。『女性セブン』で日本の世界遺産を解説。エクスナレッジ『聖地建築巡礼 世界遺産から現代建築まで、73の聖地を巡る旅』、洋泉社ムック『負の世界遺産』執筆。RKBラジオ、FM TOKYOで世界遺産特集出演。その他企業・大学広報誌等。

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