たびロジー11:人のはじまり

科学が真理なら、社会を語るにも科学を極めなければならない。

でも、どうやら科学は万能でもないようだ。

 

世界遺産マラウイ湖国立公園のほとりの村。

あるとき人々は泣きながら歌を歌い、列を作って行進していた。

誰かが亡くなったのだという。

死因はマラリア。

みなが口を開け、鼻からミズを垂らしながら泣きじゃくっている。

しかし、同じ人々が翌日はカラリとして笑い、歌い、語り合っていた。

 

彼らにとって死は終わりではない。

体は大地へ返り、魂は神秘に帰る。

いつか自分も大地へ返り、神秘に帰る。

 

彼らの世界観が否定される論理的根拠はない。

彼らの世界観以上に科学が「正しい」と言える理由はない。

だから自然科学の立場からも社会科学の立場からも、彼らの生活に注文をつける資格はない。

 

彼らには彼らの宗教観がある。

宗教ってなんだろう?

信仰とその体系だ。

 

信仰ってなんだろう?

超常的なものを信じることだ。

 

超常的なものってなんだろう?

論理的根拠がないものだ。

 

科学が正しいことの論理的根拠は何か?

これを証明できないのなら、科学に対する信仰も宗教だ。

科学は一種の宗教だとも言える。

でも「正しさ」を作り上げ積み上げようという人類の壮大なロマンでもある。

 

わからないものはわからない。

わからないけれども、人は誰かを好きになるし、子供が生まれるし、子供が愛しいし、子供にはおいしいものを食べさせてあげたいし、人の子供が亡くなれば悲しさは共有できるし、そうやって人は命をつなぐ。

 

はるか昔、人はなんだかわからないけれども世界が愛しくて、あるいは世界が恐ろしくて、なんだかわからない偉大なものを畏敬して、「神」という名前をつけた。

太陽の力、月の美、海のリズム、命の誕生、あらゆるものに神を見つけ、讃え、祈った。


最古の壁画群と呼ばれるショーヴェやアルタミラ、ラスコーの洞穴壁画は、15,000~30,000年以上前に描かれた。

動物たちを描いたその絵は、牧畜の様子を描いたものでも狩猟の戦略を練るために描いたものでもない。

その絵には目的がない。

ただ描きたくて描いた。

 

意味はない。

その美しさや不思議に驚いて、ただ描いた。

 

この驚きは誰にでも共有できる。

全時代、全世界の、すべての人が共有できる。

すべての人が呼吸し、すべての人の心臓が動いていたと言うのと同じレベルで。

思想や信念や宗教は人によって違っても、考えたり感じたりする行為自体はすべての人に共通するからだ。

 

「天上に視線を及ぼし、地の底を探っても無駄である。学者の著書に諮って古代の暗い足跡をたどっても無駄である。知識の木の実は甘美で我々の手の届くところにあるが、そうした知識のいと麗しい木を見るには、言葉の遮蔽幕を取り除けるだけでよいのである」

(ジョージ・バークリー『人知原理論』岩波文庫)

 

美しさやおいしさ…感性は研ぎ澄まされてやがてアートになった。

神秘や不思議…知性は研ぎ澄まされて哲学になり、宗教や科学に発展した。

 

考えることと、感じること。

すべてはここからはじまった。

 

「ここにふたつのものがある……すなわち星を散りばめた空と、私の内なる道徳法則である」

(イマヌエル・カント『実践理性批判』岩波文庫)。


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