世界遺産NEWS 14/11/28:2014年新登録の無形文化遺産リスト

2014年11月、フランスのパリで開催された第9回無形文化遺産委員会で新たな無形文化遺産が誕生しました。

 

新登録は、代表リスト34件(拡大1件含)、緊急保護リスト3件、ベスト・プラクティス1件。

これで総数は、代表リスト314件、緊急保護リスト38件、ベスト・プラクティス12件になりました。

また、セルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、レバノン、北朝鮮、ブルンジ、モーリシャスに初の無形文化遺産が誕生しました。

 

日本に関しては2009年に登録されていた「石州半紙」が拡大され、「和紙:日本の手漉(てすき)和紙技術」として代表リストに登録されました。

拡大なので日本の登録数は22件のままとなっています。


なお、無形文化遺産の詳細については「UNESCO遺産事業リスト集 2.無形文化遺産リスト」を参照ください。

 

 * * *

さて、「和紙:日本の手漉和紙技術」の内容を見てみましょう(文化庁報道資料「和紙:日本の手漉和紙技術のユネスコ無形文化遺産代表一覧表記載に関する補助機関による勧告について」から抜粋)。


■定義

原料に「楮(こうぞ)」のみを用いる等、伝統的な製法による手漉和紙の製作技術


■構成

下記3件の国指定重要無形文化財「手漉和紙」により構成。


①石州半紙(せきしゅうばんし。島根県浜田市)

 石州半紙は、島根県西部の石見地方(石州)に伝承されてきた楮和紙の製作技術である。石見国では10世紀初めには既に製紙が行われ、江戸時代には、石州で漉かれる半紙という規格の紙が大坂商人たちの帳簿用紙として重用され、石州半紙の名が広まった。現在は、主に障子紙や書画用紙として用いられている。

 3年間育てた楮を原料に用い、我が国特有の「流し漉き」と呼ばれる製紙技法で紙を漉く。石州半紙の最大の特色は強靱な紙質であり、これは、楮のあま皮を残して用いる独特の原料処理方法に代表される、自然の素材を生かす伝統技法によって生み出される。


②本美濃紙(ほんみのし。岐阜県美濃市)

 本美濃紙は、岐阜県美濃市蕨生地区に伝承されてきた楮和紙の製作技術である。美濃の地域では早くから紙が漉かれ、大宝2(702)年の美濃国の戸籍用紙が正倉院に残る。江戸時代以来、本美濃紙は、最高級の障子紙として高く評価されてきた。現在は、主に、障子紙のほか文化財保存修理用紙として用いられている。

 入念な手作業で原料処理を行い、不純物をよく取り除いて楮の繊維のみを用い、良質な製作用具を使用して我が国特有の「流し漉き」で漉き、板に貼りつけて天日乾燥する。紙漉き操作は「縦ゆり」に「横ゆり」を加え、左右方向にも用具を動かして漉くため、繊維がむらなく整然と広がり、美しく漉き上がる。


③細川紙(ほそかわがみ。埼玉県小川市・東秩父村)

 細川紙は、埼玉県比企郡小川町及び秩父郡東秩父村に伝承されてきた楮和紙の製作技術である。江戸時代、紀州の細川村で漉かれていた細川奉書の製作技術が、大消費地であった江戸に近い武州男衾・比企・秩父3郡に伝えられて盛んになった。細川紙は、商家の大福帳などの帳簿用紙や記録用紙、襖紙などに用いられ、江戸の庶民の生活必需品として重用された。現在は、主に、和本用紙、版画用紙、文化財保存修理用紙として用いられている。

 細川紙の製作技法は、楮のみを原料に用い、我が国特有の「流し漉き」で漉くものであり、漉き上がった紙は、紙面が毛羽立ちにくく、強靱な性質をもつ。


 * * *

では、2014年新登録の無形文化遺産の全リストを紹介します。

正式名称は英語名で、UNESCOの公式サイトから抜粋しています。

地道に訳したものなので間違い等ありましたらご容赦ください。

 

○……代表リスト 34件(拡大1件含)

●……緊急保護リスト 3件

◎……ベスト・プラクティス 1件

 

<ヨーロッパ>

 

■イタリア

○パンテレリアのコミュニティに伝わる伝統的な農業習慣 “ヴィーテ・アド・アルベレッロ”[剪定されたブッシュ・ヴァイン]

Traditional agricultural practice of cultivating the ‘vite ad alberello’ (head-trained bush vines) of the community of Pantelleria

 

■エストニア

○ヴォロマーのスモーク・サウナの伝統

Smoke sauna tradition in Voromaa

 

■ギリシア

○ヒオス島における乳香生産のノウハウ

Know-how of cultivating mastic on the island of Chios

 

■セルビア

○スラヴァ、一家の守護聖人の祝い

Slava, celebration of family saint patron’s day

 

■トルコ

○エブル、トルコのマーブリング・アート

Ebru, Turkish art of marbling

 

■フランス

○グウォカ:グアドループのアイデンティティを示す音楽・歌・踊りと文化的習慣の典型

Gwoka: music, song, dance and cultural practice representative of Guadeloupean identity

 

■ブルガリア

○チプロフツィ・キリムのカーペット製作の伝統

The carpet-making tradition of Chiprovski kilimi

 

■ベルギー

◎カリヨン文化の保護:保存・伝達・交流・啓発活動

Safeguarding the carillon culture: preservation, transmission, exchange and awareness-raising

 

■ボスニア・ヘルツェゴビナ

○ツミヤジェ刺繍

Zmijanje embroidery

 

■ポルトガル

○カンテ・アレンテジャーノ、南ポルトガル・アレンテージョ地方の多声歌唱

Cante Alentejano, polyphonic singing from Alentejo, southern Portugal

 

■マケドニア

○コパチカタ、ピジャネク地方ドラムチェ村のソシアル・ダンス

Kopachkata, a social dance from the village of Dramche, Pijanec

 

<アジア>

 

■アゼルバイジャン

○ケラクハイの伝統芸術とシンボリズム、女性用絹製ヘッド・スカーフの制作・着用

Traditional art and symbolism of Kelaghayi, making and wearing women’s silk headscarves

 

■アルメニア

○アルメニアにおける文化的表現としての伝統的なパン・ラワシの調理・意義・外観

Lavash, the preparation, meaning and appearance of traditional bread as an expression of culture in Armenia

 

■インド

○インドのパンジャーブ州ジャンディアーラ・グルのタヘラスにおける真鍮や銅を使った家庭用品の伝統工芸

Traditional brass and copper craft of utensil making among the Thatheras of Jandiala Guru, Punjab, India

 

■ウズベキスタン

○即興芸術、アスキア

Askiya, the art of wit

 

■アラブ首長国連邦/オマーン共通

○アル・アヤラ、オマーンとアラブ首長国連邦におけるスルタンの伝統的舞台芸術

Al-Ayyala, a traditional performing art of the Sultanate of Oman and the United Arab Emirates

 

■カザフスタン

○ドンブラ・キュイのカザフ伝統芸術

Kazakh traditional art of Dombra Kuy

 

■カザフスタン/キルギス共通

○キルギスとカザフのユルト製作における伝統的な知識と技術 [テュルク民族の移動住居]

Traditional knowledge and skills in making Kyrgyz and Kazakh yurts (Turkic nomadic dwellings)

 

■韓国

○農楽[ノンアク]、大韓民国における共同体の楽団演奏・舞踊・儀式

Nongak, community band music, dance and rituals in the Republic of Korea

 

■北朝鮮

○朝鮮民主主義人民共和国におけるアリラン民謡

Arirang folk song in the Democratic People’s Republic of Korea

 

■日本

○和紙:日本の手漉和紙技術

Washi, craftsmanship of traditional Japanese hand-made paper、2009年

 

■ベトナム

○ゲティンのヴィとギアンの民謡

Vi and Giam folk songs of Nghe Tinh

 

■モンゴル

○モンゴルのナックル・ボーン・シューティング

Mongolian knuckle-bone shooting

 

■レバノン

○朗唱・歌唱詩、アル・ザジャル

Al-Zajal, recited or sung poetry

 

<南アメリカ>

 

■チリ

○バイレ・チーノ

Baile Chino

 

■ブラジル

○カポエイラ・サークル

Capoeira circle

 

■ベネズエラ

●先祖伝来の地に伝わるマポヨの口承とその記号的役割

Mapoyo oral tradition and its symbolic reference points within their ancestral territory

 

■ペルー

○プーノにおけるヒルヘン・デ・ラ・カンデラリア祭

Festivity of Virgen de la Candelaria of Puno

 

■ボリビア

○プリャイとアヤリチ、ヤンパラ文化の音楽と舞踊

Pujillay and Ayarichi, music and dances of the Yampara culture

 

<アフリカ>

 

■アルジェリア

○アルジェリアのジャネット・オアシスにおけるスビーバの儀式と作法

Ritual and ceremonies of Sebeiba in the oasis of Djanet, Algeria

 

■ウガンダ

●北ウガンダ中部、ランゴ地方における男子の浄化儀式

Male-child cleansing ceremony of the Lango of central northern Uganda

 

■ケニア

●ケニア西部、イスハとイダホの共同体におけるイスクチ・ダンス

Isukuti dance of Isukha and Idakho communities of Western Kenya

 

■ニジェール

○ニジェールにおける冗談関係の慣習と表現

Practices and expressions of joking relationships in Niger

 

■ブルンジ

○祭礼舞踊と王室のドラム演奏

Ritual dance of the royal drum

 

■マラウイ

○チョパ、南マラウイのホンウェの人々に伝わる聖なる舞踊

Tchopa, sacrificial dance of the Lhomwe people of southern Malawi

 

■マリ

○マルカラにおける仮面と人形の表現

Coming forth of the masks and puppets in Markala

 

■モロッコ

○アルガン・ツリーに関する慣習とノウハウ、アルガン

Argan, practices and know-how concerning the argan tree

 

■モーリシャス

○モーリシャスの伝統、セガ

Traditional Mauritian Sega

 

 

次回、第10回無形文化遺産委員会は2015年11月30日~12月5日にナミビアで開催されます。

日本の物件としては、2016年の無形文化遺産委員会で「山・鉾・屋台行事(Yama, Hoko, Yatai, the float festival of Japan)」の登録が審査される予定です。

 

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