世界遺産NEWS 17/01/01:うるう秒と古代遺跡

2017年、あけましておめでとうございます。

今年はさらに「ART+LOGIC=TRAVEL [旅を考えるweb]」を充実させていく予定です。

どうぞよろしくお願い申し上げます。

 

* * *

マケドニアの世界遺産「オフリド地域の自然遺産及び文化遺産」の聖ヨハン・カネオ教会
マケドニアの世界遺産「オフリド地域の自然遺産及び文化遺産」の構成資産、聖ヨハン・カネオ教会

 

ぼくはまだ幼かった頃、なぜだか冬になると毎日のように夜空を眺めていました。

星たちは本当にいろいろなことを教えてくれました。

 

大人になってたくさんの古代遺跡や宗教施設を訪れました。

ぼくがあのとき感じていたさまざまなことが見事に表現されていました。

震えました。

 

古代遺跡について、旅行ガイドや世界遺産の解説にはしばしば「高度な天文知識が……」「驚異的な天文技術によって……」なんてことが書かれています。

ぼくはこうした表現にいつも違和感を覚えていました。

 

本当に高度で驚異的なんだろうか?

そんなことよりもっと大切なことが表現されているのではないか?

 

* * *

 

本日1月1日、午前8時59分59秒と午前9時00分00秒との間に午前8時59分60秒が挟まれました。

この1秒の余分を「うるう秒」といいます。

 

4年に一度現れる2月29日の「うるう日」のように、基準となる時間との差を埋めるために「うるう○」をさし込んで調整しているわけです。

 

では、「基準」とはなんでしょうか?

 

その前に。

1年や1日っていったいなんのことかご存じですか?

 

太陽は毎日毎日昇ってきて、昼頃にいちばん高くなり、やがて沈んでいきます。

太陽がもっとも高くなる方角はいつも同じで、これを「南」と呼びます。

そして太陽が南に来る時刻が「12時」です。

 

太陽は冬には低く、夏には高く巡るわけですが、もっとも高く巡る日を「夏至」、もっとも低く巡る日を「冬至」といいます。

夏至の日の太陽はとても高く巡るので、この日の日の出は1年でもっとも北側から昇ることになります。

反対に、冬至にはもっとも南側から顔を出すことになるわけです。

(実は北回帰線以南ではそうならないこともあるのですが、本稿はすべて北回帰線以北に限定して話を進めていきます)

 

1年に一度のこの方向を特別なものとして多くのモニュメントが築かれています。

アイルランドの世界遺産「ブルー・ナ・ボーニャ-ボイン渓谷の考古遺跡群」のニューグレンジでは冬至の日の出の光が内部に入って部屋を照らします。

イギリスの世界遺産「ストーンヘンジ、エーヴベリーと関連する遺跡群」のストーンヘンジでは夏至の日、中心とヒールストーンを結んだ直線の先に日が昇ります。

ペルーの世界遺産「マチュピチュの歴史保護区」の太陽の門は、夏至と冬至の日の出の光が通過するように設計されています。

 

そして。

1日の中で、太陽は真南でもっとも高くなります(これを南中といいます)。

真南における太陽の位置はだんだん高くなっていって夏至で頂点に達し、だんだん低くなっていって冬至で最低点に至ります。

この1往復にかかる時間を「1年(太陽年)」と呼びます。

 

1年は恒星の位置でも表現することができます。

たとえばオリオン座は1月1日の21時頃、真南に浮かんでいます。

翌日の1月2日の21時に真南を見ると、オリオン座は少し西にズレて見えるでしょう。

毎日毎日ズレていき、翌年の1月1日の21時に1周回ってまた真南に戻ってきます。

この周期も1年(恒星年)です。

 

恒星が1日にズレる角度が「1度」で、1周=円が360度です。

本当は円の角度も1年と同じ365度にした方が正確なのですが、360は約数が多くて使い勝手がいいのでこちらに統一されています(時間に関する数字は12、24、60をはじめ360の約数が多くなっています)。

 

さて。

太陽が真南にある時刻が12時であるわけですが、そうすると場所(経度)によって時間が違ってしまいます。

それでは不便なので「標準時」が決められています。

日本では明石市を通る東経135度を基準として標準時を定めています。

つまり、明石市では太陽はつねに12時に南中します。

 

12時から次の日の12時までの時間が「1日」になるわけですが、実は1日の時間はほんの少しずつズレています。

このズレを放っておくとズレが積み重なって、1日の時間や12時という時刻、南の位置などが正確に表せなくなってしまいます。

これを調整するために「うるう秒」を設けているわけです。

 

うるう日ですが、こちらは高くなったり低くなったりする太陽の運動が365日周期ではなく、約365.242日周期であることに由来します。

このズレを調整するためにだいたい4年に一度、うるう日を入れて調整しているわけです(うるう日がある年をうるう年といったりします)。

 

* * *

アイルランドの世界遺産「ブルー・ナ・ボーニャ-ボイン渓谷の考古遺跡群」のニューグレンジ
アイルランドの世界遺産「ブルー・ナ・ボーニャ-ボイン渓谷の考古遺跡群」の構成資産、ニューグレンジ

 

毎日星を見ていると、星が同じ方角でもっとも高くなることや、少しずつズレていくことに気づきます。

不思議だなーと思います。

 

そして星の位置はぼくたちの生活にも影響しています。

オリオン座は1月1日の21時頃、真南に浮かんでいると書きましたが、同じ時刻に西に沈む4月1日頃にはとても暖かな陽気になっていて、桜が咲いたりして春を感じることができるでしょう。

 

星の動きが気候や動植物に影響を与え、ぼくたちの人生にも直接的な影響を及ぼしているのです。

星の動きが人生を左右するこの神秘!

古代文明において、天文学と宗教はこうして結び付いたのです。

 

星が戻ってくる時間や夏至・冬至の日の出の方向を知ることはそんなに難しいことではありません。

それらをおおよそ知ることができる小さな施設を造るのはさほど困難でもなかったのではないでしょうか。

 

しかし、ニューグレンジやストーンヘンジやマチュピチュとなると話は違います。

あんなに大規模で正確な施設をああした素材で造ることはたいへんな技術と労力・時間を必要としたはずです。

 

なぜ、あれほどのものでなければならなかったのでしょうか?

ここにこそ、古代人の思いが込められているはずです。

 

それは現代を生きるぼくたちにも共通するとても素朴で根源的なものなのではないかと感じています。

 

あらためて。

あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いいたします。

 

長谷川 大

 

 

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