世界遺産NEWS 16/06/22:セルー・ゲーム・リザーブのゾウが絶滅の危機
WWF(世界自然保護基金)は6月上旬、アフリカ最古の野生動物保護区であるタンザニアの世界遺産「セルー・ゲーム・リザーブ」について、緊急に対策がとられなければ2022年までに同地のアフリカゾウが絶滅する可能性があるとの分析結果をまとめました。
今回はセルー・ゲーム・リザーブで起きている出来事の概要をお伝えしましょう。
■Elephants could disappear from Tanzania World Heritage site within six years
国内のアフリカゾウの生息数について、タンザニア政府は2009年に109,051頭と推定していましたが、2014年の推定値は43,330頭で、激減している状況が明らかになりました。
その原因は象牙を目的とした密猟です。
象牙の取り引きはワシントン条約(絶滅の恐れのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)で禁止されていますが、タンザニアにはアフリカ最大の象牙密輸ルートがあって、2009年以降に限っても45t以上の象牙が輸出されたと見られています。
主な輸出先はアジア、特に中国です。
中国では象牙の彫刻作品や漢方薬の人気が非常に高く、すぐれた彫刻作品になると1点数百万~数千万円という高値で取り引きされています。
実際にタンザニアでは中国へ送られる寸前の象牙が押収されたり、象牙を隠し持っていた中国人が逮捕されるといった事件が相次いでいます。
たとえば2015年10月にはタンザニアで707本の象牙を所有していた中国人女性に懲役30年、2016年3月には706本の象牙を持っていた中国人男性ふたりに懲役35年の実刑判決が言い渡されています。
タンザニアのブラックマーケットではゾウ1頭から採れる象牙2本で3,000ドル以上の値が付くといいます。
平均月収は諸説ありますが100~250ドル程度(あるいはそれ以下)とされていますから、ゾウを1頭倒すだけで数十か月分の収入になるわけです。
仕事がなくてスラムで暮らしているような人もいるわけですから、大きな魅力となっているのでしょう。
アフリカゾウの密猟はタンザニア全土で行われていると見られていますが、特に被害が大きいのがルアハ国立公園とセルー・ゲーム・リザーブです。
ルアハ国立公園では2009年に約35,000頭が生息していましたが2014年には8,000頭に減り、セルー・ゲーム・リザーブではこの40年で約110,000頭から15,000頭に激減しています。
こうした状況からWWFは2022年までにゾウが絶滅する可能性があるという発表を行ったわけです。
これに対してタンザニア政府は反発を強めています。
WWFは産業化した密猟を問題視したわけですが、ヘリコプターでゾウの群れを特定し、ハンターがバイクで急行して射殺したのち4WDで象牙を回収するといった組織的な密猟は、近年の取り締まりによって過去のものとなり、ここ数年は行われてはいないと主張しています。
アフリカゾウの数についても安定してきており、増加に転じている場所もあるということです。
実際に世界遺産「セレンゲティ国立公園」では2009年→2014年にかけて約3,000頭→6,000頭と倍増しています。
ただ、密猟者に追われたゾウたちがセレンゲティに逃げ込んでいるのではないかと考える学者もいて、楽観視できるような状況ではなさそうです。
それ以前に、タンザニア政府はこれまで密猟に対して国際的な非難を浴びながら十分な対策を取らず、状況を改善することができませんでした。
こうした信頼性のなさも影響しているようです。
それは世界遺産委員会でも指摘されており、そのためセルー・ゲーム・リザーブは2014年に危機遺産リストへ記載されています。
アフリカゾウのみならずアジアゾウも激減が報告されており、いずれもIUCN(国際自然保護連合)のレッドリスト(絶滅の恐れがある野生生物のリスト)で絶滅危惧種に分類されています。
こうした影響で動物園やサーカスからゾウが徐々に姿を消しつつあります。
2016年5月26日、東京の井の頭自然文化園のアジアゾウ、はな子が亡くなりました。
同園では新しいゾウを飼育する予定はないということです。
これまで横浜の野毛山動物園や札幌の丸山動物園などでもゾウを飼育していましたが、いまでは見られなくなってしまいました。
密猟の影響はこれほど大きいものなのですね。
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