世界遺産NEWS 20/07/02:ストーンヘンジ周辺のダーリントン・ウォールズで英国最大のヘンジを発見

6月下旬、イギリスの複数大学が参加したストーンヘンジ埋没遺跡探査プロジェクトは、ストーンヘンジの北東3kmほどにある古代遺跡ダーリントン・ウォールズでイギリス最大となる巨大なヘンジ(環状遺跡)を発見したことを発表しました。

ヘンジの直径は約2kmですが、ストーンヘンジで直径110m、それまで最大とされていたダーリントン・ウォールズで約500mですから、いかに巨大かわかります。

 

Archeologists Just Discovered the UK’s Largest Ceremonial Site Buried Right Next to Stonehenge. Call It ‘Holehenge’(artnet news)

 

今回はこのニュースをお伝えします。

なお、今回発見されたものを除いて、以下に登場する遺跡のほとんどはイギリスの世界遺産「ストーンヘンジ、エーヴベリーと関連する遺跡群」の構成資産となっています。

 

* * *

上はダーリントン・ウォールズのCGです。

直径約500mでC字形の少し特殊な形をしているのがわかります。

 

これらは2015年に地中探査機によるレーダー・スキャンで発見されたもので、地中に巨石と見られる数多くの影が見つかりました。

当初は巨石が30個、崩れているものも含めると90個ほどが埋まっていると考えられていました。

 

しかし、その後の調査で石は埋まっておらず、探査機が発見した影は柱を立てるための柱穴であることが明らかになりました。

このような柱穴を中心とした環状遺跡を「ホールヘンジ」というそうです。

 

上のCGの石も柱に変更する必要がありそうです。

ただ、柱穴といっても柱自体は発見されておらず、なぜかすべて抜き去られているようです。

上の動画はウッドヘンジです。

上部構造は推測です。

 

ダーリントン・ウォールズのC字形ヘンジのすぐ南に位置するホールヘンジで、直径50mほどの楕円の中に六重同心円を描く形に168もの柱穴が穿たれています。

穴の深さは最大2mにもなり、7~8mもの柱が立ち並んでいた可能性が指摘されています。

 

ダーリントン・ウォールズの内部にもふたつのホールヘンジが発見されているのですが(最初の動画に映っています)、この辺りでは石のヘンジよりも木のヘンジが一般的だったようです。

 

そして今回の発見です。

今回のプロジェクトはイギリスの複数の大学が参加して行う "Stonehenge Hidden Landscape Project" と呼ばれる埋没遺跡の探査プロジェクトで、地中探査機などを用いたリモート・センシング(遠隔探査)によって調査を行いました。

その結果、ダーリントン・ウォールズとほぼ同心円を描き、ウッドヘンジをも取り囲む形で直径2kmに及ぶ巨大なヘンジの存在が明らかになりました。

 

こちらもホールヘンジですが、直径も巨大なら柱穴も巨大で、直径10m・深さ5mに及びます。

こんな柱穴が少なくとも20並んでいるのが発見されました。

当初は自然の穴と考えられましたが、意味のある配列と柱穴の調査から人工的なものと結論されました。

 

周囲の堆積物を放射性炭素同位体法で年代測定したところ、約4,500年前の紀元前2500年頃という結果が出ました。

この頃、掘られたものと推定されるそうです。

 

ストーンヘンジは紀元前3000~前1500年頃に建設された複合的な遺跡ですが、ふたつの主要なストーン・サークルは紀元前2600~前2400年頃に立てられたと考えられています。

ダーリントン・ウォールズは紀元前2800~前2100年、ウッドヘンジは紀元前2500~前2000年頃の建造で、完成後も数百年は使用されていたようです(年代については諸説あり)。

 

ということは、この巨大なホールヘンジとダーリントン・ウォールズ、ウッドヘンジ、ストーンヘンジはいずれも同時期に使用されていたことになります。

周辺にはさらにストーンヘンジ・アベニュー、コリーベリーヘンジ、レザーカーサス、グレーター・カーサスなどの遺跡がありますが、これらもいくつかは同時代に並行して使用されていたのかもしれません。

 

これについてプロジェクト・チームは、ストーンヘンジが死者の遺跡であるのに対し、ダーリントン・ウォールズは生者の遺跡であり、今回発見されたホールヘンジはその境界や聖域を示しているのではないか、と推測しているそうです。

 

* * *

ウッドヘンジ。現在は柱穴にコンクリートの柱を立てています
ウッドヘンジ。現在は柱穴にコンクリートの柱を立てています

この発見にはたくさんの驚きが詰め込まれています。

 

もう捜索され尽くしたと考えられていたストーンヘンジ周辺での新たな発見。

これまでと比較にならない巨大な遺跡。

そして同時代にいくつもの遺跡が並行して存在していた事実。

 

特に同時代に巨大な石や柱が立ち並ぶ遺跡がいくつも並んで存在していたのだとしたら、さぞや壮観だったことでしょう。

しかし、この中でも小規模な遺跡であるウッドヘンジでさえ、1本の柱の重さは数tで、それが168本も必要です。

これらを建造したその執念はいったい何に由来するのでしょうか?

 

興味と謎は尽きません。

 

 

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