世界遺産NEWS 18/02/19:チベット・ラサの聖地ジョカン寺で火災
2月17日、チベット自治区の首府ラサにあるチベット仏教の聖地ジョカンで火災がありました。
中国の国営メディアは死傷者はなく、火もまもなく鎮火したと伝えていますが、火災関係の情報を検閲して削除するなど情報の規制を行っているようです。
今回はこのニュースをお伝えします。
* * *
「ラサのポタラ宮歴史地区」はラサにあるポタラ宮、ノルブリンカ、そしてトゥルナン寺(大昭寺)の3件を構成資産とする世界遺産です。
ポタラ宮は観世音菩薩の化神とされるダライ・ラマの居城にしてチベット政府ガンデンポタンの所在地で、ノルブリンカは夏の離宮です(現在ダライ・ラマ14世とガンデンポタンはインドに亡命しています)。
いずれも行政の中心であるわけですが、それに対してチベット仏教寺院トゥルナン寺、特に本堂であるジョカンはチベット仏教徒が生涯一度は訪ねることを悲願する聖地中の聖地です。
ぼくは「聖地」と呼ばれる場所の空気感が好きで世界中の聖地を訪ね歩いていますが、ジョカンはその中でも特に印象深い場所でした。
もうもうと立ち込めるサンと呼ばれるお香と少し獣臭を感じるバター・ロウソクの香りの中で、色とりどりの民族衣装に身を包んだチベット人たちが立ち上がっては寝そべり、寝そべっては立ち上がって祈りを捧げています。
この独特の礼拝法を「五体投地」と呼ぶのですが、なかにはこの五体投地を繰り返し、何か月もかけてチベットの山々を越えて巡礼する人もいるそうです。
↓がジョカン前で行われている五体投地の映像です。
2月17日18時40分前後、このジョカンで火災が発生しました。
一時は屋根が燃える様子が市内各所から確認できたようですが、中国の国営メディアによると、自治区の共産党委員会書記が自ら消火の指揮に当たり、放水による消火活動が奏功してまもなく鎮火したということです。
前日2月16日はチベット正月「ロサル」で、そのため17日は一般には開放されていませんでした。
それもあって人は少なく、死傷者も確認されていないそうです。
また、文化遺産に対する被害もほとんどなく、混乱も起きていないと伝えています。
しかしながら政府はSNSやメディアの検閲を行っているようで、火災に関するツイートや写真の削除・アクセス規制等が行われているようです。
現地警察がメディアに対して火災の写真の掲載を禁じているとの情報も伝わっています。
↓のニュースではSNSにアップされた火災の動画を流用していますが、日中も夜間も大きな炎が確認できます。
本当に被害が小さければよいのですが。
中国の情報統制は年々厳しくなっていると言われます。
香港など一部を除き、中国国内からGoogleやFacebook、Twitter、LINE、Instagramなどにアクセスできないのは有名ですが、昨年秋からYahoo!も規制の対象となったようです。
在住者や旅行者はVPN(ある種の仮想ネットワーク)を使ってFacebookやTwitterにアクセスしているのですが、そのVPNサービスすら規制を厳格化しはじめていると聞きます。
ぼくも年一度ほど中国を訪ねていますが、いつもこの点では苦労させられます。
特にチベットや新疆ウイグルなどの自治区に対する規制が強まっているという話もよく聞きます。
一昨年、新疆ウイグル自治区のウルムチを訪ねましたが、カザフスタンへ抜ける国境でカメラのデータを一枚一枚チェックされました(全員ということはないようですが)。
チベットに対する弾圧への抵抗として、いまでも時折チベット僧焼身自殺のニュースが流れます。
特に2008年に起こったチベット独立デモに対する弾圧(チベット騒乱)以来、自殺者は増えており、同年以降100~150人が亡くなっているとの報道もあります。
こうした事件に対する報道も規制されていて実際の状況はよくわかっておりません。
火事の前日はチベット正月ロサルだったと先述しましたが、2018年は亡命60周年で、チベット騒乱10周年を迎える節目でもあります(ダライ・ラマ法王日本代表部公式サイトより)。
思いは複雑ですが、とにかく平和的解決を祈ります。
[関連記事’サイト]
チベットハウス・ジャパン(ダライ・ラマ法王日本代表部事務所)
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