UNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)は11月3日、世界遺産の氷河と気候変動に関する報告書を発表しました。
報告書は、現在50の世界遺産に約18,600の氷河が確認されており、今後の対策にかかわらず2050年までに1/3が消滅すると予想しています。
そして標準的なシナリオでは2100年までに約半分が失われる可能性があるとしています。
■UNESCO finds that some iconic World Heritage glaciers will disappear by 2050(UNESCO)
今回はこのニュースをお伝えします。
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氷河は気候変動のバロメーター――
以前からこう言われていました。
これまでもIPCC(気候変動に関する政府間パネル)やIUCN(国際自然保護連合)などが氷河に関するレポートを発表しており、産業革命前と比較して4度以上の気温上昇があった場合、地球上のすべての氷河が消滅するとしてきました。
そして今回、UNESCOはIUCNと協力して「世界遺産氷河 -気候変動の指標 "World heritage glaciers - sentinels of climate change"」と題する報告書を作成し、11月3日に公表しました。
なお、ここでいう氷河は氷床や氷帽・雪原といったものも含んでいます。
代表的な世界遺産の氷河には以下のような例があります。
なお、氷河が存在する46件の世界遺産については最後にリンクを張った「世界遺産NEWS 19/05/03:2100年までに世界遺産の氷河の半数が消滅の危機」を参照してください。
こちらはIUCNによる前回の報告書です。
この報告書によると、50の世界遺産に約18,600の氷河が確認されており、その面積はおよそ66,000km²に及びます。
これは地球の氷河の約10%に相当します。
少ないように思うかもしれませんが、いずれの国にも属さないため世界遺産リストに登録することができない南極氷床を含んでおらず、デンマークのグリーンランド氷床についてもほんの一部が世界遺産「イルリサット・アイスフィヨルド」に含まれているだけであることが大きいです。
そして、これらから毎年平均で約580億tの氷が失われており、2000~20年に観測された海面上昇の5%、約3.22mmを上昇させた原因となっています。
気候変動のシナリオはいくつかあるのですが、シナリオにかかわらずこれらの1/3が2050年までに失われると予想しています。
また、標準的なシナリオでは2100年までに約半分の氷河が消滅する可能性を指摘しています。
氷河や雪原は地球の気候システムの維持に重要な役割を果たしており、これらが太陽光を反射することで地球を冷却する役割を果たしています(アルベド効果)。
このため氷河や雪原が消滅すると太陽光の吸収率が上がり、加速度的に温暖化が進むことになります。
また、氷河や雪原から流出する融解水は生態系の維持に不可欠であり、海洋の循環にまで影響を与えています。
したがって氷河や雪原の消失は陸だけでなく海の生態系にも多大な影響を与えることになります。
初期段階において、融解水は増加しつづけますが、あるところで減少に転じます。
たとえばヒマラヤでは2050年までは増加を続けて洪水などの被害をもたらし、その後に減少に転じて渇水や紛争の原因になりうると考えられています。
そして報告書は、氷河の消滅を防ぐためのもっとも重要な施策が温室効果ガスの排出量を減らすことであるとしています。
気候変動に対する具体的な政策を話し合った画期的な会議が1992年にブラジルのリオデジャネイロで開催された「環境と開発に関する国連会議」、いわゆる地球サミットです。
ここで気候変動枠組条約が締約され、毎年COP(国際連合気候変動枠組条約締約国会議)を開催することになりました。
そして2015年のCOP21(パリ会議)でパリ協定が合意され、以下が決定されました。
昨年のCOP26(グラスゴー会議)では目標を2度以下から1.5度以下に修正しています。
この報告書では、気温上昇を産業革命前と比較して1.5度以内に抑えることができれば2/3の氷河を救うことができるとしています。
そして11月6~18日にはエジプトのシャルム・エル・シェイクでCOP27が開催されます。
UNESCOのオードレ・アズレ事務局長はCOP27に対する期待を示しつつ、この報告書について「行動を求める報告書である。温室効果ガスの迅速な削減のみが氷河とそこに生息する生物の多様性の保護を可能にする」と語っています。
[関連サイト&記事]
UNESCO finds that some iconic World Heritage glaciers will disappear by 2050(UNESCO)
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