22/07/16:干上がるフェルテー湖/ノイジードラー湖と対応策を巡る議論 - ART+LOGIC=TRAVEL [旅を考えるweb]

世界遺産NEWS 22/07/16:干上がるフェルテー湖/ノイジードラー湖と対応策を巡る議論

オーストリア・ハンガリー国境にはハンガリー語でフェルテー湖、ドイツ語でノイジードラー湖と呼ばれる非常にユニークな湖が横たわっています。

一帯は「フェルテー湖/ノイジードラー湖の文化的景観」という名称で両国共通の遺産として世界遺産リストに登載されていますが、この湖の水位が下がって干上がりつつあります。

 

Austria and Hungary fight nature to stop lake vanishing(Phys.org)

 

これに対して両国でドナウ川の水を流入させる計画が立ち上がっていますが、多くの批判を浴びています。

今回はこのニュースをお伝えします。

 

なお、本稿ではハンガリー側の記事が多いのでフェルテー湖と表記します

 

* * *

フェルテー湖はとてもユニークな湖です。

 

面積は約32,000haと琵琶湖の半分弱ですが、最大水深は2mに満たず、面積の半分以上は葦(アシ/ヨシ)に覆われた葦原となっています。

ヨーロッパ最大の塩湖で、流出する川を持たないヨーロッパ最大の湖であり、ユーラシア大陸最西端のステップ(草原)湖でもあります。

 

新生代新第三紀(2,300万~260万年前)まで海だったこともあって一帯の土壌には塩分やミネラル分が含まれており、こうした成分が雨水や川に溶けて湖に流れ込んでいます。

しかし、湖から流れ出る川がないため濃縮され、塩分濃度0.2%程度のアルカリ塩湖となっています。

 

上に面積を書きましたが、実際は水位によって大きく変動し、1~2世紀に1度は干上がっているともいわれます。

最近だと1860年代に湖が消滅し、1867~68年には完全に干上がって湖底が畑になっていたそうです。

世界遺産「フェルテー湖/ノイジードラー湖の文化的景観(オーストリア/ハンガリー共通)」の葦原
世界遺産「フェルテー湖/ノイジードラー湖の文化的景観(オーストリア/ハンガリー共通)」の葦原

そして今回のニュースです。

 

この2022年、ヨーロッパの降水量が非常に少なく、特に6~7月、イタリアやスペイン、フランス、オーストリア、ハンガリー、ルーマニアなどで猛暑と干ばつの被害が広がっており、一部では非常事態宣言が発令されています。

 

フェルテー湖については1965年の観測開始から最低の水位を記録しており、平均より37cm低く、1996年の最高水位から70cmも下回っています。

平均水深が1m程度で湿地も多いことから湖の相当量が失われており、干上がった港や湖底の土が乾燥して割れている様子が伝えられています。

 

これに対してハンガリー側とオーストリア側、双方で対策が練られており、ドナウ川と運河を結んで水を引く計画が進められています。

 

オーストリア側では全長12km・幅14mの運河を引く計画が関係の自治体から支持されています。

湖の水位を1cm上げるためにはおよそ300万立方mの水が必要ですが、この運河によって年3,000万立方mの水を供給可能としています。

ハンガリー側では大規模な港湾開発プロジェクトが進行中ですが、これに伴う運河の計画が持ち上がっています。

 

これらに対してWWF(世界自然保護基金)やグリーンピースのような環境保護団体や多くの学者が反対を表明しています。

理由は、ドナウ川の化学的・生物学的組成がフェルテー湖のものと異なるため、塩分の濃度が下がったりミネラル分の種類が変化したり、新しい生物の流入によって湖の生態系が変わってしまうという懸念です。

そのうえで干上がることは自然のサイクルのひとつであり、それによって現在の環境が維持されているとしています。

 

それに対して、現在の猛暑や干ばつは自然のサイクルではないという主張も唱えられています。

 

オーストリア側のノイジードラー湖=ゼーヴィンケル国立公園の所長によると、周辺には100以上の湿地が点在していましたが、水位の劇的な低下によって60の湿地が不可逆的に失われている可能性があると指摘しています。

現在の温暖化や干ばつは地球規模の気候変動によるもので、気温の上昇・降水量の減少・蒸発量の増加の割合はこれまで以上に大きくなっているようです。

加えて現在の農業の規模は過去に例のないものであり、これも拍車をかけています。

 

経済的なダメージも拡大しています。

周辺では年12万tの作物生産がありますが、フェルテー湖の水位低下が影響を及ぼしているうえに、数百万人を呼び寄せる観光業にも影響しています。

このため多くの自治体が運河の建設を歓迎しています。

 

ハンガリーではフェルテー湖に限らず中央ヨーロッパ最大の湖であるバラトン湖をはじめ、多くの湖が水位の低下に直面しています。

ある程度の水位低下は定期的なものといえますが、完全に干上がった場合、不可逆的な生態変化につながる恐れもあるということで判断が非常に難しくなっています。

 

また、ハンガリーでは以前の記事「世界遺産NEWS 21/06/17:UNESCO、ハンガリー政府にフェルテー湖の開発中断を要請」で紹介したように、南西部のフェルテラーコシュという町で大型の港湾開発プロジェクトが進められています。

UNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)やICOMOS(イコモス=国際記念物遺跡会議)も世界遺産の真正性と完全性を損なう可能性があると懸念しているプロジェクトです。

 

こちらについて、現在資金調達に苦慮しており、計画は進んでいません。

また、グリーンピース・ハンガリーなどが投資を阻止するために提訴しており、開発中止を要求しています。

一方で、このプロジェクトに絡めた運河建設計画なども立案されているようで、予断を許しません。

 

 

[関連記事]

フェルテー湖/ノイジードラー湖の文化的景観(世界遺産データベース)

世界遺産NEWS 21/06/17:UNESCO、ハンガリー政府にフェルテー湖の開発中断を要請

世界遺産NEWS 23/04/20:干ばつと不法耕作に揺れるスペインのドニャーナ国立公園

世界遺産NEWS 23/03/06:水の都ヴェネツィアの運河が干上がる

 


トップに戻る パソコン版で表示