オーストラリアの世界遺産「西オーストラリアのシャーク湾」で世界最大の植物が発見されました。
もしかしたら世界最大の生物かもしれません。
それは海草のポシドニア・オーストラリスで、同じ遺伝子を持つ個体が少なくとも180kmにわたって広がっていました。
■Scientists Discovered The World's Largest Known Plant, And It's Over 100 Miles Long(ScienceAler)
今回はこのニュースをお伝えします。
* * *
世界最大の生物はなんでしょうか?
諸説ありますが、よく言われるのがアメリカ・オレゴン州のマルール国有林に生息するオニナラタケと呼ばれる菌類、簡単にいえばキノコです。
このオニナラタケは菌糸を伸ばして巨大な菌糸体を作っており、その範囲は9.65平方km(東京ドーム約206個分)、重さは544tに及ぶ可能性が指摘されています。
ただ、実際に同じ菌糸体であるのか否かは確認されていません。
植物ではアメリカ・ユタ州のフィッシュレイク国有林にあるアメリカヤマナラシが挙げられます。
アメリカヤマナラシは地下茎から芽と根を出すことで新たな幹を生み出すことができ、これを繰り返して「パンド」と呼ばれる地下茎で結ばれた同一個体の森を形成しています。
最大のものは0.43平方km(東京ドーム約9個分)のパンドの中に47,000本もの木々が生い茂っています。
そして今回の発見です。
西オーストラリア大学、フリンダース大学、キングス・パーク・サイエンスなどのチームが6月1日に『ロイヤル・ソサイエティ』の "Proceedings B" という科学ジャーナルで発表したところによると、西オーストラリア州のシャーク湾で世界最大の植物を発見しました。
植物は海草のポシドニア・オーストラリスで、シャーク湾の約18,000の遺伝子マーカーを調べたところ、同一の遺伝子を持つ個体が少なくとも180kmにわたって広がっていました。
ポシドニア属は海草ですが、海藻ではありません。
つまり、藻類ではなく種子植物です。
もともと陸上の草だったと考えられており、海中で花を咲かせて種子を作ります。
しかし、こうした有性生殖とは別に、アメリカヤマナラシと同様に地下茎から芽と根を出してクローンを作ることで繁殖することができるのです。
この結果、地下茎で結ばれた巨大な個体が誕生し、推定200平方km(東京ドーム約4,277個分)という膨大な広がりを持つことになりました。
規模と成長速度から、この個体は約4,500年前に誕生し、なおも成長中であるようです。
「世界最大の植物」と報道されていますが、少なくとも広さではオニナラタケを圧倒していますから、「世界最大の生物」ということになるかもしれません。
これほどの大きさの個体が同じ遺伝子を持っているわけですが、それは脆弱性につながらないのでしょうか?
特にシャーク湾は塩分は高いものの養分は少なく、光量は過剰で温度変化が大きいなど、植物の生育環境としては厳しいものとなっています。
この疑問に対し、チームはそれぞれのクローンの細胞に小さな遺伝的変化が起き、それが局所的な多様性を生んでいるのではないかという仮説を提起しています。
非常におもしろいですね。
シャーク湾にはこうしたポシドニア属の巨大な草地があり、またコンブをはじめ大型の海藻類からなるケルプ林が広がっています。
このような海の植物たちは二酸化炭素の吸収・固着に大きく貢献しており、気候変動という点でも注目を集めています。
さまざまな意味で注目に値する研究であるようです。
[関連記事]
※各記事にさらに以前の関連記事へリンクあり
Extensive polyploid clonality was a successful strategy for seagrass to expand into a newly submerged environment(The Royal Society: Proceedings B)
世界遺産NEWS 19/02/11:世界遺産シャーク湾で加速する生態系の変化
世界遺産NEWS 21/07/09:グレートバリアリーフの危機遺産リスト搭載回避を図る豪政府
世界遺産NEWS 20/10/24:グレートバリアリーフのサンゴが25年で半減