22/02/20:ポーランド、ビャウォヴィエジャの森を二分する国境壁の建設を開始 - ART+LOGIC=TRAVEL [旅を考えるweb]

世界遺産NEWS 22/02/20:ポーランド、ビャウォヴィエジャの森を二分する国境壁の建設を開始

1月25日、ポーランド政府はベラルーシ国境に伸びる国境壁の建設を開始しました。

目的は移民の阻止で、壁の全長は186kmに及ぶ予定です。

 

建設予定地には両国にまたがって広がる世界遺産「ビャウォヴィエジャの森」も含まれており、動物が頻繁に行き来する原生林が二分される危機に陥っています。

 

NGOs ask EU to stop Poland building border wall in primeval forest(REUTERS)

 

今回はこのニュースをお伝えします。

 

* * *

このところポーランドとベラルーシ国境が危険な状況に陥っています。

 

ベラルーシのルカシェンコ政権は現在のウクライナ危機を見てもわかるように親ロシアです。

2020年8月の大統領選挙で勝利した結果ですが、この選挙が不正であるとしてEU(欧州連合)は幾度もの制裁を行っています。

そしてそれに対するベラルーシの対抗手段のひとつが移民政策であるといわれています。

 

イラクやシリア、イエメンをはじめとする中東からやってきた移民の多くは経済的に豊かなEU諸国を目指しています。

ベラルーシはEUに加盟していませんが、隣国のポーランドは加盟国です。

両国の国境がEUの境界線となり、またベラルーシは移民の移動に便宜を図る旨を表明していたため多くの移民が集まることになりました。

 

しかし、実際には移民を国境に集めてポーランドとの国境に広がる森に誘導して追放しているといわれています。

国境を越えた移民の一部は、ベラルーシ当局によって緩衝地帯に集められ、金品を奪われたうえに食料も与えられず、電気銃やイヌを使って追い払われたと答えています。

森のポーランド側で立ち往生して救出された移民もおり、冬に入ってからは低体温症や栄養失調で亡くなる移民も少なくないと見られています。

 

これに対してポーランドは2021年9月に非常事態を宣言し、ベラルーシ国境付近について住民以外の立ち入りを禁止。

移民も認めず森に追い返したため、いずれの国にも戻れず、数千人が森に釘付けになったといわれます。

ただ、ジャーナリストの取材も認められていないため、実態は明らかになっていません。

 

ポーランドは2021年8月頃から国境に高さ2mの鉄条網を設置し、移民を阻止しています。

鉄条網はビャウォヴィエジャの森にもかかっていると見られ、動物が犠牲になっているという報道もあったりします。

世界遺産「ビャウォヴィエジャの森(ベラルーシ/ポーランド共通)」の湿地帯
世界遺産「ビャウォヴィエジャの森(ベラルーシ/ポーランド共通)」の湿地帯

ポーランドとベラルーシ共通の世界遺産である「ビャウォヴィエジャの森」は中央ヨーロッパに見られるさまざまな低地の森林タイプを網羅する貴重な原生林として知られています。

生物多様性に富んでおり、ハイイロオオカミやオオヤマネコ、ヒグマ、アカシカ、カワウソといった哺乳動物も豊富で、特にヨーロッパバイソンについては世界最大の生息地となっています。

 

こうした動物たちは森の中を自由に移動し、ポーランドからベラルーシを経てウクライナまで行き来を繰り返しています。

両国を分断する鉄条網はこの移動を阻止するもので、世界遺産に対するダメージも非常に大きなものになると思われます。

 

さらにポーランドは1月25日、鉄条網に代わるものとして全長186m・高さ5.5m・地下0.5mという本格的な国境壁の建設を開始しました。

ビャウォヴィエジャの森も含む予定ですが、国境壁は単に壁を造るだけでなく、その過程で土地を整地して道路のような舗装路を建設することになるため、世界遺産に対する不可逆的な影響が懸念されます。

 

これに対してWWF(世界自然保護基金)や国際環境NGOグリーンピースをはじめ25か国・150以上の人権団体や環境保護団体が反対を表明し、一部の組織や科学者らは欧州委員会に介入を求めています。

UNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)世界遺産センターの関係者もこれを非難し、少なくとも環境評価が済むまで建設を遅らせるべきだとしています。

 

これに対してポーランドは動物が抜けることのできるアニマル・パスウェイを20か所以上設ける計画で、問題はないという立場です。

現在は冬で雪に覆われていることもあり、ベラルーシも移民を送り込んでいないようですが、春を待っているとの噂や、ウクライナの情勢次第で別の移民が流入する可能性もあり、ポーランドは警戒を強めています。

 

欧州委員会は以前、ビャウォヴィエジャの森の伐採に対して中止を求めて欧州司法裁判所に提訴したことがあります。

伐採はヤツバキクイムシの被害拡大のためでしたが、2017年にこの訴えが認められたためポーランドは伐採を中止しました(詳細はリンクを参照)。

今回も提訴の可能性がありますが、国境壁の建設はすでにはじまってしまっています。

 

ビャウォヴィエジャの森を巡るこの問題、中東の政情不安やロシア=ウクライナ問題、ベラルーシの反EU的な政策、ポーランドの移民問題、移民の人権問題等々、さまざまな問題が絡んで非常に複雑です。

そんな中で世界遺産条約に何ができるのか、試されているようです。

 

 

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