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世界遺産NEWS 20/06/20:ノネコ・ウサギの根絶後マッコーリー島の生態系が順調に回復

オーストラリアの世界遺産「マッコーリー島」はオーストラリア大陸と南極大陸のほぼ中央に浮かぶ孤島で、独特の地形や生態系で知られます。

19世紀以降、人が持ち込んだノネコやウサギ、ネズミが繁殖して大きな問題になりましたが、20世紀後半からこれらの根絶計画が進められ、2014年に無害化が宣言されました。

 

2020年5月、ワタリアホウドリの繁殖状況がここ10年で最良であることが確認され、また2013年に再発見されたナンキョクヤエムグラという草が新たに3つの場所で発見されました。

 

Critically endangered herb thriving on Macquarie Island after seven-year feral animal eradication program(The Guardian)

 

今回はこのニュースをお伝えします。

 

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マッコーリー島がオーストラリア人によって発見されたのは1810年とされています。

全長35km・幅5kmの無人島で、強い風と痩せた地盤のため樹木は育ちませんが草原が広がっており、海岸には多数の海鳥やペンギン、アザラシが生息しています。

 

発見後まもなく島では毛皮と脂肪を狙ってアザラシやオットセイ、ペンギンが狩られ、近海での捕鯨や南極探索のための基地が設置されました。

この過程で船からネズミが入り込み、ネズミ対策にノネコが持ち込まれ、飼育用にウサギが導入されました。

 

ノネコやネズミは成鳥や雛・卵を襲い、ウサギは主だった草を根こそぎ引き抜いてしまいます。

ノネコは年間60,000羽もの鳥を狩り、ウサギは草原を荒地に変え、ナンキョクヤエムグラなどの草を地域絶滅に追いやりました。

 

1933年に野生生物保護区に指定されて保護がはじまりましたがこれらの繁殖は収まらず、1970年代にはノネコが数千匹、ウサギが15万~30万羽まで増えてしまいました。

これを受けて1985年からノネコとウサギの駆除が開始されました。

ウサギについては捕穫の他に兎粘液腫という感染症を引き起こすミキソーマウイルスに感染したウサギを放つ方法で根絶を目指しました。

 

ノネコについては約2,500匹が駆除され、2000年に根絶に成功しました。

しかしウサギについては捕食者であるノネコがいなくなったうえにウイルスに対する耐性をつけて繁殖が再開され、13万羽まで増えてしまいました。

 

2007年にオーストラリアとタスマニア州政府は史上最大規模の根絶計画を立案し、翌2008年に実行に移されました。

主な方法は毒入りエサの空中散布と、兎ウイルス性出血病を引き起こすカリシウイルスを感染させたウサギの放出、猟犬による狩りです。

 

ウサギを補食するトウゾクカモメが大量に死ぬなど毒入りエサによって在来種にも被害が出て一時中断されたものの、エサを配布する場所を再考するなど対策を講じて再開され、ウサギは2011年を最後に発見されなくなりました。

2012年にウサギとネズミが根絶され、2014年の確認を経て島の無害化が宣言されました。

 

同様の方法はオーストラリアの世界遺産「ロード・ハウ諸島」やニュージーランドの「ニュージーランドの亜南極諸島」のアンティポデス島、エクアドルの「ガラパゴス諸島」をはじめ、多くの島で採用されています。

2020~21年にはイギリスの世界遺産「ゴフ島及びインアクセシブル島」のゴフ島でもネズミ根絶のために毒エサの散布が行われる予定です。

 

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マッコーリー島ではそれまでにない規模で根絶計画が進められたため、環境への影響も懸念されていました。

 

その後の調査で、地面に穴を掘って巣を作るミズナギドリについて個体数の増加が確認されました。

生息域が被っていたウサギがいなくなったことによる直接的効果と見られます。

 

ワタリアホウドリについてはここ数十年で絶滅が危惧されるほど個体数を減らしていますが、ノネコやネズミによる被害は確認されておらず、気候変動やエサとなる魚類の減少の影響と考えられています。

しかし、この夏発見された巣の数は10とここ10年で最大数を記録しており、昨シーズンはたった3つしか確認されていない卵もすでに8つ確認され、6つが孵化しているそうです。

50~60年の寿命を持つワタリアホウドリにとってこの数はかなり大きいものであるようです。

これについて研究者は、ウサギがいなくなったことで土壌の状態が改善され、草が増えて巣が作りやすくなったためと考えています。

 

草について、ワタリアホウドリの巣をパトロールしていたレンジャーがナンキョクヤエムグラの3つの個体群を確認しました。

ナンキョクヤエムグラは最大50mmほどの草花で、1980年代にマッコーリー島を含む亜南極地方では地域絶滅したと考えられていました(南アメリカでは生息が確認されています)。

2013年にマッコーリー島西部の湖で再発見されましたが、今回は3つの個体群ということで定着が期待されます。

このレンジャーは同様に長く確認されていなかったヒカゲノカズラの一種やバケツランの一種も発見しており、草原も確実に増えているようです。

 

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毒のエサををまき散らしたり、ウイルスを感染させたウサギを放ったり、ノネコを殺すということについて倫理的に抵抗のある人も少なくないと思います。

下のリンクに張ったように、世界遺産候補地である奄美大島のノネコの減少計画についても根強い反対の声が上がっています。

 

一方ニュージーランドでは "the Predator Free 2050 initiative"(捕食動物根絶2050イニシアチブ)というプロジェクトが進行中で、2019年までに主だった220の島のうち117島でノネコやネズミといった害獣駆除を行っています。

 

確実に効果は出ているようですが、死生観や倫理観を含めて考えさせられる問題です。

 

 

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