6月5日、ウガンダの世界遺産「カスビのブガンダ王国歴代国王の墓」で神殿とされる建物のひとつが焼失しました。
この世界遺産は2010年にメインとなるムジブ・アザーラ・ムパンガ "Muzibu Azaala Mpanga" と呼ばれる建物が全焼し、日本の援助を得て再建が進んでいるところでした。
再度の火災ということになります。
■Devastating fire at the Tombs of Buganda Kings at Kasubi(UNESCO世界遺産センター)
今回はこのニュースをお伝えします。
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上の写真はウガンダの「カスビのブガンダ王国歴代国王の墓」の聖地ムジブ・アザーラ・ムパンガの2010年以前の姿です。
直径約30m・高さ約15mの円形の木造茅葺き建築で、ブガンダ王国の王宮であり、国王の4つの墓を収めた墓地でもありました。
2010年3月16日、放火によってこの建物は全焼してしまいました。
内部の墓をはじめとする聖域は無事でしたが、中心的な建物が失われたことから世界遺産リストからの抹消の可能性さえ指摘されました。
同年の第34回世界遺産委員会で危機遺産リストへの搭載が決定。
ムセベニ大統領は再建を発表し、日本が65万ドルの資金提供と技術支援を行って2014年に再建が開始されました。
当初は2016年の完成を予定していましたが工事の延期が続いており、現在も危機遺産リストに搭載されたままとなっています。
放火の原因はわかっていませんが、現地ではウガンダ政府による放火であるという噂が広がりました。
ウガンダ共和国は1962年にガンダ族の国であるブガンダ王国を中心とした連邦国家としてイギリスから独立しました。
しかし、まもなく連邦制は破棄され、社会主義・独裁制・内戦を経て1986年にムセベニ政権が成立し、すでに34年が経過しています。
ガンダ族には連邦制や王政・独立の支持者もおり、ウガンダ政府はこれらを反政府勢力として弾圧してきました。
世界遺産「カスビのブガンダ王国歴代国王の墓」はブガンダ王国の象徴でもあるので、政府としては国の重要な文化財であると同時に疎ましい存在でもあるわけです。
実際、火災の前年にも付近で政府に対するデモや暴動が起きており、火災の翌日に視察に訪れたムセベニ大統領の訪問中にも暴動が発生して死傷者が出ています。
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さて、今回のニュースです。
6月5日13時頃、アバロンゴ・バ・ブガンダ(ブガンダの双子)と呼ばれる精霊がすむという神殿が焼失しました。
ムジブ・アザーラ・ムパンガの前にはオルギャと呼ばれる大きな中庭があり、その周辺を3つの神殿をはじめとする9棟の建物が取り囲んでいます。
アバロンゴ・バ・ブガンダはその内の1棟で、土壁から茅葺き屋根を架けた壁立式の建物です。
政府発表によると、火災は軽微であり、消防隊の迅速な消火活動によって内部に収められていた神器などはすべて無事で、破壊されたものはないということです。
また、周辺の建物や再建中のアバロンゴ・バ・ブガンダにも影響は見られないとしています。
しかしながら上の動画を見ても明らかなように、屋根は完全に焼け落ちています。
火災の際、周辺住民はもちろんジャーナリストをも完全に閉め出して消火活動が行われ、周辺は騒然としていたようです。
UNESCO世界遺産センターは「壊滅的な火災」と書き、政府と密に連絡を取って対応するとしています。
原因については警察が調査中で、まだ特定されていません。
ただ、2010年の火災では特別調査委員会が出した結論は政府によって非公開とされてしまいました。
いまのところ暴動やデモなどは起きていないようですが、前回はさまざまな騒動を起こして陰謀説さえ唱えられましたから、今回は政府の適切な対応を期待したいところです。
[関連時期&サイト]
世界文化遺産カスビ王墓再建プロジェクト(文化遺産国際協力コンソーシアム)
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