世界遺産NEWSではたびたび気候変動の影響を受けている世界遺産を紹介しています。
多くは自然遺産に関するものですが、文化遺産についてもその影響は小さくないようです。
太陽王と呼ばれた絶対君主・ルイ14世が17~18世紀に築いたフランスの世界遺産「ヴェルサイユの宮殿と庭園」。
その絢爛豪華な庭園は近年、気候変動の影響を受けて植生を変えつつあるようです。
■Climate Change Is Devastating the Lush Gardens of Versailles(Bloomberg。英語)
今回はこのニュースをお伝えします。
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ヴェルサイユ宮殿がある場所はもともと王家の狩猟場で、不毛の荒野が広がっていたといいます。
ルイ14世はセーヌ川に「マルリーのポンプ」と呼ばれる汲み上げ装置を造らせ、水道橋を架けて水を引きました。
そして木々を伐採し、起伏をならし、土地を直線で区切って広大な平面幾何学式庭園を完成させました。
現在見られるヴェルサイユ宮殿の敷地面積は約1,000ヘクタールで東京ドーム220個分以上、当時はこの10倍の広さがありました。
庭園は中央の十字形のグラン・カナル(大運河)を中心に区画整理されており、区画ごとにテーマを設けてそれにふさわしいデザインと植物が配されています。
たとえば北花壇はスイセンやチューリップなど花々を絨毯のように敷き詰めた毛氈花壇(もうせんかだん)です。
宮殿から見下ろすオランジェリーには四角い鉢に植えられたオレンジが整然と立ち並んでおり、一転して水の舞台は湿地を思わせます。
プティ・トリアノン(小トリアノン宮殿)はボックスウッドで作られた垣根で整理されており、ル・アモーは自然を目指して川や池や植物をランダムに配した風景式庭園となっています。
このヴェルサイユ庭園には数千種類の植物が生えていますが、その植生が気候変動のため変わりつつあるようです。
この夏、ヴェルサイユ宮殿はヨーロッパの他の地域と同様、記録的な熱波に襲われました。
もともと涼しい地域で生育する品種が多く、シデやシラカバ、ブナ、クリ、カバノキ、ニレなどの一部が枯れてしまいました。
温暖化は熱による直接の影響だけでなく、害虫被害や乾燥化をもたらします。
一例がキクイムシですが、カナダやアメリカなどでは高温に強いキクイムシが高温に弱い森を食い尽くす現象が起きており、被害はフランスを含め世界中に拡散しています。
降水量については暴風雨の際の豪雨と長期に渡る干ばつが繰り返されて植物に大きなストレスを与えており、土壌が流れ出して庭園の保水力も低下しています。
いまでは新たな苗木を植えても1年以内に半数が枯れてしまうそうです。
そのため高温に強い品種に変えたり、比較的乾燥しているパリ南西部のロワール渓谷の種子を用いたりと研究と実験が行われています。
ただ、こうした施策が庭園の景観に変化をもたらし、17世紀から保たれてきた生態系を変えてしまう可能性があるため慎重に検討されています。
フランスの林野庁は海外の専門家と提携し、植物や昆虫・土壌といった要素をデータベース化して生態系の数値化を進めています。
気候変動に伴うシミュレーションを行うソフトウェアの開発も進めており、庭園管理を最適化する方法を探っています。
といっても庭園の予算は宮殿予算の5%未満と少なく、問題の深刻さに比べて著しく不足しており、問題解決の道は遠いようです。
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ヴェルサイユ宮殿と同様の問題はヨーロッパのあらゆる庭園や森林で持ち上がっています。
ヨーロッパ全域の温暖化は疑いようがなく、それに伴うジェット気流の変化で雲の動きも大きな影響を受けています。
これが暴風雨や乾燥化をもたらしているわけですが、もはや一国でどうこうできる問題ではなくなっています。
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