オーストラリアの世界遺産「ウルル=カタ・ジュタ国立公園」の巨大なモノリス(一枚岩)、ウルル。
これまで登山が認められていましたが、先住民アボリジニの聖地中の聖地ということで、地元のアボリジニ・アナング族の人々は登山をしないでほしいと訴えつづけてきました。
多くの論争がありましたが国立公園の管理委員会は2017年11月に登山の禁止を決定し、今年2019年10月26日より閉鎖される予定です。
ところがこれを受けて登山需要は一気に加速し、特に最近は禁止直前ということで駆け込み客が殺到し、アナング族の人々を悩ませているようです。
■Tourists are rushing to climb Uluru before ban takes effect(The Guardian。英語)
今回はこのニュースをお伝えします。
* * *
砂漠の荒野に不意に立ち上がる周囲9.4km・高さ348mの真っ赤なモノリス・ウルル、通称エアーズ・ロック。
6億~5億年前の造山活動で誕生した堆積層で、7,000万年ほど前に風雨の浸食を受けて世界で2番目に大きな一枚岩になったと考えられています。
アボリジニの伝説によると、ドリーム・タイムと呼ばれる世界創世時代に10の精霊が創造した大地の中心で、創造を終えた精霊たちはこの岩の下で眠りに就いたとされています。
岩のあちらこちらに精霊たちの爪跡が残されており、1万年ほど前までさかのぼるペトログラフ(岩絵)やペトログリフ(線刻)がその様子を伝えています。
現在でもウルルには聖なる力が宿っており、触れるだけで加護が得られるとされています。
1985年10月26日、オーストラリア政府は99年のあいだ政府にリースし共同管理することを条件に、ウルルの所有権をアボリジニに返還しました。
それ以前からウルルの登山については禁止を求める声も上がっていたのですが、登山から得られる収益が大きかったことから禁止には至りませんでした。
この頃、ウルル登山は観光の目玉となっており70~80%の観光客が登山を行っていました。
しかし、登山を控えてほしいというアナング族の訴えは徐々に広がり、2000年代後半には30~40%に半減しました。
2010年、管理局は登山者の割合が20%を下回った場合は登山を禁止する計画を発表します。
収益への影響も危惧されましたが、観光客へのアンケートでは登山禁止によってウルル訪問を断念するという回答は全体の3%程度のものでした。
2012年に登山者は約20%となり、2015年には16.2%まで低下。
こうした結果を受けて2017年11月、国立公園管理委員会は全会一致で登山禁止を決定し、2019年10月26日をもってウルル山頂は閉鎖されることになりました。
* * *
登山禁止を受けてか、2018年にウルルの訪問者は20%も増加しました。
登山者についてもそれまで減りつづけていましたが、増加に転じています。
現在、ウルルは閉鎖前3か月ということで登頂を目指す駆け込み客でごった返しています。
2017年には1日140人程度だった登山者が、現在は約500人に及ぶといいます。
登山はツアーに限られているのですが連日盛況で、ルート上にはアリのような列ができています。
ルールを守らない登山者も増えており、違法キャンプやゴミの不法投棄が相次ぎ、なかにはルートを外れて登山する者や無許可でキャンプファイヤーをする者もいるようです。
また、トイレは麓の1か所にあるのみでルートや山頂にないため、隠れて用を足す人が後を絶たないということです。
聖地として敬うために登山を禁止するはずが、聖地を冒涜する行為の数々にアナング族の人々の反発が広がっているようです。
[関連記事]
※各記事にさらに過去の関連記事へリンクあり
世界遺産NEWS 21/04/04:多数の滝に彩られたウルルの絶景と豪州の洪水被害
世界遺産NEWS 16/04/09:WWF、産業の脅威にさらされた114の世界遺産