世界遺産委員会の諮問機関で世界自然遺産の調査や評価を行っているIUCN(世界自然保護連合)は4月30日、世界遺産に存在する氷河の半数近くが気候変動による気温上昇によって今世紀中に消滅する可能性があるとした報告書を発表しました。
■Almost half of World Heritage sites could lose their glaciers by 2100(IUCN公式サイト。英語)
今回はこのニュースをお伝えします。
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IUCNは今回、世界遺産46件の中に19,039の氷河があることを確認しました。
地球上の全氷河の9%を占めているにすぎませんが、これは最大の氷床がある南極大陸がまったく含まれておらず、巨大な氷床や氷河のあるグリーンランドやカナダ、ロシアなどの北極圏周辺も一部を占めているにすぎないためです。
実は他にアメリカの「イエローストーン国立公園」も調査しているのですが、こちらはすでに2000年代に消滅しています。
その46件が以下です。
<氷河が存在する46件の世界遺産>
そしてそれぞれの世界遺産について、3つの温暖化ガスの排出シナリオに沿って氷河の量を予想しています。
排出シナリオはRCP(代表的濃度経路)シナリオと呼ばれるもので、以下4つがよく知られています。
○RCPシナリオ
RCP2.6はIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が目標に掲げている産業革命以降の気温上昇を2度以内に抑えるためのシナリオですが、条件的にはかなり難しいことで知られています。
RCP4.5は二酸化炭素濃度が2100年に、RCP6.0は2250年前後に安定するもので、RCP8.5はなんの対策もせずに悪化していくシナリオです。
資料ではRCP6.0を除いた3つのシナリオを表示しています。
これらによると、46件の世界遺産の総氷量は気温上昇によって2017年と比べて33~60%まで減り、どのようなシナリオであっても8件の世界遺産で消滅し、RCP8.5では21件で消滅するとしています。
ぼくの印象ですが、表を見る限り、上に★印を打った12件については消滅あるいはほぼ消滅が避けられないように思えます。
消滅が予想されているのは小さな氷河が多く、大氷河のある「スイス・アルプス ユングフラウ-アレッチ(スイス)」や「イルリサット・アイスフィヨルド(デンマーク)」「ロス・グラシアレス国立公園(アルゼンチン)」などは含まれていません。
たとえば「スイス・アルプス ユングフラウ-アレッチ(スイス)」に含まれているアルプス最大の氷河・アレッチ氷河ですが、19世紀半ばと比べてすでに25%以上が溶けており、今世紀中に66~96%が失われるとしています。
ロス・グラシアレス国立公園は30~80%の消失が予想されています。
ちなみに、例外的に氷量が増えると予想されているのが「ハード島とマクドナルド諸島(オーストラリア)」です(RCP8.5以外の場合)。
上にリンクしたサイトではPDFやWordファイルの資料をダウンロードすることができます。
それぞれの世界遺産についての表も載っているので参照してみてください。
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氷河とサンゴは気候変動のバロメーターといわれています。
世界遺産NEWSでもしばしば取り上げてきましたが、いよいよ待ったなしといった感じですね。
2020年からパリ協定の履行がはじまる予定ですが、パリ協定では以下2つの目標を掲げています。
これを行っても8件の世界遺産では氷河の消滅が不可避ということですが、とにかくまずは履行を達成したいところです。
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