10月上旬、超大型ハリケーン・ワラカがアメリカのハワイ諸島を襲いました。
その影響で世界遺産「パパハナウモクアケア」に登録されているイースト島が消滅したことが確認されました。
■This Remote Hawaiian Island Just Vanished(Honolulu Civil Beat。英語)
今回はこのニュースをお伝えします。
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9月29日にハワイ諸島のはるか南西で発生したハリケーン・ワカラは急速に勢力を伸ばし、10月2日には最大レベルを示すカテゴリー5に成長しました。
ハワイ島など人口の多い島々からは1,500~2,000kmほど離れていたため人や町に対する被害はほとんどありませんでしたが、ハリケーンは世界遺産「パパハナウモクアケア」に登録されている全長約1,931kmを誇る環礁群を南から北へと縦断していきました。
FWS(アメリカ魚類野生生物局)は付近の島に7人の研究者を送り込んでいましたが、10月1日にアメリカ沿岸警備隊の救助を受けて人員を避難させました。
ハリケーンは4日には勢力が衰えて熱帯低気圧に移行し、9日に消滅しましたが、FWSが衛星写真で確認を行うと、フレンチ・フリゲート礁と呼ばれる巨大な環礁内にあった砂州のひとつ、イースト島がほぼ消滅しているのが発見されました。
上のリンク先の記事や動画に5月と10月の衛星写真の比較画像がありますが、白い陸地がほぼなくなっているのがわかります。
周囲のサンゴ礁の形が砂などによって変形していることから、島は波によって洗い流され、周囲に飛散してしまったようです。
フレンチ・フリゲート礁は全長32kmに及ぶ三日月型の美しいサンゴ礁で、イースト島は全長1km・幅120mを誇る礁内で2番目に大きな砂州でした。
ハワイモンクアザラシやアオウミガメの重要な繁殖地で、特にIUCN(国際自然保護連合)のレッドリストで絶滅危惧種に指定されているハワイモンクアザラシの16%がフレンチ・フリゲート礁におり、そのうち30%がイースト島に生息していました。
礁や島にあった巣の多くが破壊されたと見られており、生態系への影響が懸念されています。
NOAA(アメリカ国立海洋大気局)の研究者らは、気候変動がこのような悲劇に影響を与えていると見ています。
フレンチ・フリゲート礁の砂州は海面上昇によって毎年その数を減らしており、ハリケーン到来前の2か月で2つの島を失っています。
また、海水温の上昇がハリケーンの増加と激化をもたらしており、イースト島もこれらの影響でいずれ消滅するだろうとは考えられていたようです。
そして、こうした悲劇は今後ハワイ諸島全域に拡大しうると警告しています。
現在、FWSはNOAAと協力して実態調査を進めています。
風や潮の流れを受けてふたたびイースト島が形成される可能性もあり、人工島や護岸を建設するなどして自然回復を促す方策も検討されているようです。
島の消滅はもちろんですが、砂州が減りつづけているという事実も衝撃的ですね。
加えて海中のサンゴ礁も白化が大きな問題となっており、海上も海中も危機的な状況であるようです。
世界の平均気温が4度上昇した場合、地球上から氷河が消滅して海水面が大幅に上昇し、また海の平均水温が5度上昇した場合、世界中のサンゴが死滅すると言われています。
氷河や環礁は地球環境のバロメーターと言われるゆえんで、これらを守ることの重要性がわかります。
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話はまったく変わりますが、文化庁は10月24日、日本が推薦していた無形文化遺産候補「来訪神:仮面・仮装の神々」が登録勧告を受けたことを発表しました。
登録の勧告が覆された例はほとんどないため、内定と考えていいと思います。
関係者の方、おめでとうございます!
正式には11月26日~12月1日にモーリシャスのポートルイスで行われる第13回無形文化遺産委員会(無形文化遺産保護条約政府間委員会)で決定します。
韓国・北朝鮮のレスリング・シルムやジャマイカのレゲエ音楽、バングラデシュのリクシャ(リキシャ/力車)など45件の登録勧告が出ていますが、決定したら全リストを公開します。
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