リビアの世界遺産「サブラータの考古遺跡」の周辺で戦闘が行われており、テアトルム(ローマ劇場)などで被害が出ているようです。
これに対してUNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)のイリーナ・ ボコバ事務局長は戦闘の停止と遺跡の保護を呼び掛けています。
今回はこのニュースをお伝えします。
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2011年2月、チュニジアのジャスミン革命が飛び火してリビアで大規模な反政府デモが派生し、アメリカやNATO(ナトー=北大西洋条約機構)の介入もあって42年間続いたカダフィ政権が倒れました。
以来リビアは分裂状態にあり、西部の暫定政権と東部のリビア国民軍を中心に、各地の民族・部族の組織からIS(イスラム国)やムスリム同胞団といった組織まで、さまざまな勢力がしのぎを削る内戦状態に陥っています。
リビアには世界遺産が5件ありますが、こうした状況では遺跡の保全が難しく、戦闘や遺物の密売の恐れがあるということで2016年にそのすべてが危機遺産リストに掲載されています。
サブラータは首都トリポリの西65kmほどにある都市で、郊外にはローマ帝国の遺跡である世界遺産「サブラータの考古遺跡」があります。
同市では2011年に政府軍と反乱軍の戦闘が行われ、それ以降は複数の勢力が町を支配しており、特に海岸沿いは武装勢力の影響下にあってヨーロッパに移民を送り出す一大密輸基地になっています。
つい先日、9月21日にもサブラータを出発した移民を乗せたボートが沈没して35人が救出され、8人が溺死し、約90人が行方不明になる事件が起きています。
9月中旬の1週間だけでリビアでは3,000人以上、イタリアでは2,000人以上が救出されているということです。
この密輸はリビアのみならずシリアやイラク、スーダン、チャド、ニジェールといった国々から逃れてくる人々をボートなどでイタリアをはじめとするヨーロッパ諸国に送り出すもので、トルコやギリシャといった国々が移民を制限して以来、移民の主要なルートのひとつになっています。
それだけでなく、こうした国々からイスラム原理主義組織をはじめとする武装勢力や傭兵も流入しており、武器も行き来しています。
おかげでリビアでは半ば無法地帯となっている地域も少なくなく、首都トリポリでさえ人身売買や誘拐が頻発している状態で、そのため支援を行うNGOなどが相次いで撤退しています。
このところサブラータでは密輸を行う武装勢力と暫定政権軍との間で激しい戦闘が行われているようです。
数十人に上る民間人被害者も出ているようで、赤新月(イスラム圏における赤十字)や国連の支援チームは無差別な攻撃を非難し、停戦を呼び掛けています。
一時は停戦協定が結ばれましたがすぐに破棄されてしまったようです。
「サブラータの考古遺跡」にもロケット弾が打ち込まれ、テアトルムが被弾したようです。
これに対してUNESCOのイリーナ・ ボコバ事務局長は1954年ハーグ条約(武力紛争の際の文化財の保護に関する条約)などの立場からすべての勢力に戦闘の停止を求め、リビアのみならず人類全体の誇りであるサブラータの遺跡の保護を求めています。
リビアでは来年春に大統領選が行われる予定で、それぞれの勢力の活動も活発化しています。
安定した政権が誕生するまでにはまだまだ紆余曲折が予想されます。
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