17/03/02:人類はいつアメリカ大陸へ渡ったのか? - ART+LOGIC=TRAVEL [旅を考えるweb]

世界遺産NEWS 17/03/02:人類はいつアメリカ大陸へ渡ったのか?

カナダのブルーフィッシュ洞窟群を調査していたモントリオール大学の考古学チームは1月上旬、人類は30,000~25,000年ほど前には北アメリカで生活をはじめていたという仮説を打ち出しました。

 

First humans arrived in North America 10,000 years earlier than believed

 

人類がアメリカ大陸に到達した年代は30,000~1万数千年前まで諸説あって定まっていませんが、大きな一石を投じることになりそうです。

今回はこのニュースをお伝えします。

 

* * *

 

人類はいつアフリカを出発して各大陸に到達したのでしょうか?

 

化石として発見される化石人類としては猿人・原人・旧人・新人が知られています。

このうち猿人はアフリカ大陸でのみ、原人と旧人はアフリカ大陸とユーラシア大陸でのみ発見されています。

数十万~10万年前の段階で、原人や旧人のいくつかのグループがアフリカを発ったようですが、この時代にアフリカを出たグループはすべて絶滅してしまいました。

ですから北京原人やジャワ原人といったユーラシア大陸の原人は、ぼくたちとはまったく血がつながっていません。

 

現在のぼくたちにつながる人類は10数万~50,000年ほど前にアフリカを出て、旧人であるネアンデルタール人やデニソワ人と交流・闘争しながら世界中へと広がっていったようです。

その年代は諸説あるのですが、下の動画ではオーストラリア大陸に渡ったのが50,000年前、ヨーロッパに広がったのが40,000年前としています。

動画では、人類は15,000年前にベーリング地峡(現在のベーリング海峡)を渡って北アメリカ大陸に到達したとしていますが、実際には諸説あって決定的な説があるわけではありません。

ただ、14,000~8,000年前ほどの人類の痕跡、いわゆるクローヴィス文化の証拠は数か所で発見されているので、この時代に人類が暮らしていたことは間違いなさそうです。

 

問題は「いつまで遡れるのか?」ですが、アメリカ大陸において15,000年以上前の確たる証拠はほとんど存在しないのが現状です。

では、最初に「人類がアメリカ大陸に到達した年代は30,000~1万数千年前まで諸説あって」と書きましたが、15,000年より以前とする仮説はいったい何を根拠に唱えられているのでしょうか?

 

20世紀後半、アメリカ大陸における人類史を書き換えるのではないかと言われたのがブラジルの世界遺産「セラ・ダ・カピバラ国立公園」です。

ここで発見された焚き火跡と見られる炭化物で放射性炭素年代測定を行った結果、48,000~35,000年前という結果が出ました。

その後の測定では60,000年以前にまで遡る結果も出ていますが、他の遺跡とかけ離れた年代であることから年代測定に疑問を呈したり、炭を自然由来のもので人類と無関係であると主張する学者もいます。

 

世界遺産ではありませんが、カナダのブルーフィッシュ洞窟群も20,000年以前に遡る人類の痕跡が出土したことで話題になりました。

洞窟内で人類によって解体されたと見られるマンモスやアメリカバイソン、ウマ、カリブーといった動物の骨が発見されたのですが、こちらも放射性炭素年代測定の結果、25,000年前まで遡ることが明らかになりました。

しかし、これらが本当に人類によって狩られたものなのかについては疑問が残されており、定説となるには至りませんでした。

そして今回の発表です。

 

モントリオール大学人類学部のアリアーン・バーク教授のチームはブルーフィッシュ洞窟群から発掘された36,000もの骨片を2年間にわたって分析し、人類による痕跡と見られる証拠を発見したと発表しました。

一例がウマの下顎骨についた線状、あるいはV字状の跡で、石器でウマの舌を切り裂いた際につけられたものとしています。

他にも皮をカットする際につけられたものなど15の骨片から石器の痕跡が発見されており、放射性炭素年代測定によると24,000~23,000年前のものであるようです。

 

発表された教授の仮説によると、この辺りには30,000年ほど前に人類が到達しており、24,000~15,000年前ほどにかけて、北アメリカ北部やロッキー山脈周辺の氷床の間に位置するこの地がオアシスのような無氷地帯となっており、数千人の住人が暮らしていたということです。

そして住人の一部がやがて南アメリカ大陸まで南下し、居住域を大陸全域に広げていったとしています。

 

古気候学では、人類がアメリカ大陸に渡ったのは、氷河が増えて海水面が低下してユーラシア大陸とアメリカ大陸が陸続きになった25,000~12,000年前のどこかと考えられています。

ただ、やがて北アメリカ北部全域が氷に閉ざされてしまっていることから、人類は一瞬のタイミングをついて無氷回廊を渡ったようです。

 

これまで15,000~14,000年前がそのタイミングであるとする説が有力視されていたのですが、教授たちの仮説は10,000年以上も前倒しする結論を導き出しています。

 

* * *

ブラジルの世界遺産「セラ・ダ・カピバラ国立公園」
ブラジルの世界遺産「セラ・ダ・カピバラ国立公園」の奇岩。最古の壁画は25,000年前まで遡ると言われる

 

人類はいつアメリカ大陸へ渡ったのでしょうか?

この問題、さまざまな仮説があって非常に興味をそそられます。

 

以前、チリのモンテ・ヴェルデ遺跡で出土した食料と見られる海藻類が14,000年前のものであることが明らかになりました。

南北アメリカ大陸で最古の可能性が高まったのですが、それが南米のチリであったことから、人類は太平洋を船で渡って北米より先に南米に到達したのではないかとする説が注目を集めました。

 

しかし、太平洋横断は15~16世紀の大航海時代でも困難で、19世紀に日本に開国を迫った黒船のペリーでさえ大西洋を横断してインド回りで日本に来ています(他にも理由はあるのですが)。

島を伝って来ようにも、ハワイ島やイースター島辺りから東3,500~4,000kmほどには連続した島の連なりがほとんど存在しませんから、1万数千年前の航海が成功する確率は0に近いと考えざるをえません。

それに、島々でその時代の遺跡も発見されていません。

 

となると、やはりベーリング地峡を渡ってきたとする説を採りたいところで、今回の発見はそれを裏付けることにもなりそうです。

モンテ・ヴェルデ遺跡については測定結果に疑問を呈する学者もいますが、ペルーやチリでは近年10,000年以上前のものと見られる遺跡の発見が続いています。

といっても、ブラジルの「セラ・ダ・カピバラ国立公園」の測定年代はやはり異質です。

 

おそらくこの先数年で新たな発見が続くと思います。

どのような結論に至るのか、非常に楽しみですね。

 

 

[関連記事]

世界遺産NEWS 21/10/22:カナダのヴァイキング遺跡ランス・オ・メドーの木片伐採年を特定

世界遺産と世界史6.人類の夜明け

世界遺産と世界史16.南北アメリカ大陸の古代文明

 


トップに戻る パソコン版で表示