1月16~19日にかけてUNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)の緊急調査団がシリアのアレッポに入り、被害状況の調査を行いました。
それによると旧市街の60%が破壊され、30%がほぼ全壊しているということです。
■UNESCO reports on extensive damage in first emergency assessment mission to Aleppo
今回はこのニュースをお伝えします。
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特に大きな被害が報告されているグレート・モスクの現状
アレッポに関する前回の記事「世界遺産NEWS 16/12/22:アレッポ解放とパルミラ再占領」で書いたように、アサド大統領率いるシリア政府軍とプーチン大統領が派遣しているロシア空軍は昨年12月、長らく反政府勢力の拠点だったアレッポ東部に対して徹底的な空爆を行いました。
一連の空爆は「虐殺」と報道されるほど凄惨を極め、人道上問題があるといわれるクラスター爆弾や白リン弾のほか化学兵器を使用した疑いもあり、国連の潘基文(パンギムン)事務総長が「この世の地獄」との声明を出しています。
東部地区の様子は同記事にドローンによる空撮動画を添付してあるのでご覧ください(下にリンクあり)。
もっとも世界遺産がある旧市街についてはこの空爆のずっと以前から内戦による被害が出ていました。
2012年9月には数千年の歴史を誇るスーク(市場)の店舗約1,000軒が焼失し、2013年4月には世界最古のモスクのひとつであるグレート・モスクのミナレット(塔)が破壊され、同年に「古代都市アレッポ」は危機遺産リストに登載されています。
12月の空爆を経てシリア政府がアレッポ全域を制圧したということで、UNESCOは政府の協力のもと緊急調査団を派遣して被害状況の予備調査を行いました。
調査団のレポートによると、アレッポ城やグレート・モスク、スークをはじめとする旧市街の建物はきわめて広範囲にわたって破壊されており、約60%は深刻なダメージを受け、30%についてはほぼ完全に破壊されているということです。
教育施設についても調査したようですが、こちらも筆舌に尽くしがたい被害を受けていると報告しています。
UNESCOのイリーナ・ ボコバ事務局長は、「シリアの遺跡を破壊することはシリアの人々を2度殺すことに等しい。歴史を忘れることはそこに込められた価値や権利を否定することに他ならない」と述べ、復旧・修復に全力で協力する旨を表明し、同時にあらゆるグループに文化遺産や教育施設をターゲットにしないことを呼び掛けています。
以前の生活を取り戻そうというシリアの人々の意欲は非常に強く、すでに約20の学校が再会したほか、遺跡についても関係者やNGOによる応急処置が進んでいるようです。
アレッポは過去、アレクサンドロス帝国、ローマ帝国、ビザンツ帝国、アラブ帝国、イスラム帝国、十字軍、モンゴル帝国、オスマン帝国、フランス植民地帝国等々、数多くの大国の攻撃・支配を受けながら、そのたびに再興してきた歴史を持っています。
こうした歴史が破壊され忘れ去られることが事務局長のいう「シリアの人々を2度殺す」ということなのでしょうけれど、人々は今回もまた力強く立ち上がろうとしているようです。
[関連サイト&記事]
世界遺産NEWS 19/09/25:復興が進まないシリア・アレッポの現状(続報)
世界遺産NEWS 16/12/22:アレッポ解放とパルミラ再占領(アレッポに関する前回の記事)
世界遺産NEWS 17/01/22:ISIL、パルミラをふたたび破壊(パルミラに関する最新記事)
※それぞれにさらに過去の記事へのリンクがあります