1月13日、バングラデシュのシュンドルボンで1,000t級の貨物船が沈没しました。
大量の石炭や石油を積んでおり、環境汚染が心配されています。
今回はこのニュースをお伝えします。
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バングラデシュ-インド国境には、ガンジス川を中心にプラマプトラ川やメグナ川など数々の川とベンガル湾が作り上げる世界最大規模のデルタ地帯が広がっています。
バングラデシュ側でシュンドルボン、インド側でスンダルバンスと呼ばれる湿地帯で、その一部は世界遺産にも登録されています。
マングローブ林やジャングルの中にはベンガルトラ、ヒョウ、サイ、ワニ、イルカといった大型動物から鳥類・昆虫まで多様な生物が生息しており、動植物の楽園として知られています。
1月13日、バングラデシュ側シュンドルボンのパシュール川河口付近で1,000t級のタンカー、MV Aijgati号が沈没しました。
当時13人いた乗組員は全員無事に救助されましたが、積荷である1,000t以上の石炭と数百ガロンの石油が船体とともに沈みました。
船底に亀裂が発見されていることから座礁が原因と見られています。
急激な汚染の報道はないので石炭や石油の多くは船内に留まっているようです。
ただ、ある程度は流出しているでしょうし、今後悪化の可能性もあり、また石炭がカドミウムや水銀・鉛などの重金属を多量に含んでいると見られることから汚染が懸念されています。
実はシュンドルボンでは2014年からこれまでに、2014年5月10日、2014年12月9日、2015年10月28日、2016年3月19日、2017年1月13日と5隻の貨物船が沈没しています。
たとえば2014年12月9日の沈没では36tの重油、2015年5月10日には200tの化学肥料が流出し、2016年3月19日の事件では今回と同様に1,245tの石炭を抱えたまま沈んでいます。
石油流出の際には石油フェンスなどの対策がとられ、迅速な回収が行われたため被害は少なかったとされていますが、長期的な影響はまったく未知数と言われています。
事故が多発する原因としてずさんな運行管理が指摘されています。
航路の指定や速度制限・情報提供・悪天候時や夜間の航行禁止措置といった管理はほとんどなされておらず、それぞれの船が独自に判断して航行しているようです。
UNESCO(ユネスコ=国連教育科学文化機関)やIUCN(国際自然保護連合)はバングラデシュ政府に対して改善を求めていましたが、効果がないまま今に至っています。
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問題はこれだけではありません。
ここ数年、UNESCOやIUCNが憂慮しているのがランパル石炭火力発電所の建設です。
これはバングラデシュとインドのジョイント・ベンチャーであるBIFPC(バングラデシュ-インド友好電力社)によって建設が進められているプロジェクトで、完成すると132万kwの火力発電所が誕生します。
場所がまた問題で、世界遺産「シュンドルボン」から13km、バッファー・ゾーン(緩衝地帯)からわずか4kmという地点です。
排煙や排水の問題だけでなく、地下水のくみ上げによる地盤沈下や、石炭運搬船が毎日運行されることによる影響も懸念されています。
この発電所で1日に燃焼される石炭はなんと1.3万t(3.5万tとする報道もあります)。
今回沈没した船が1,000t級ですから、このレベルの船が毎日13隻も往復もすることになるわけです(ダンプカーにすると毎日4,000台弱)。
複数の環境保護団体がUNESCOに対して「シュンドルボン」を危機遺産リストに掲載するよう請願書を提出しており、UNESCOはこれまでに何度も懸念を表明し、昨年も調査団を派遣して建設現場や石油流出地の現地調査を行っています。
UNESCOは昨年末にバングラデシュ政府が提出した状況報告書なども参考に、今年の夏にポーランドのクラクフで開催される第41回世界遺産委員会の場でこの問題を審議する予定です。
このままでは危機遺産リストに登載されるのも時間の問題かもしれません。
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※各記事にさらに関連の過去記事へのリンクあり
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