1月20日、シリア政府によると世界遺産「パルミラの遺跡」の最大の見所のひとつであるテトラピュロン(四面門)とテアトルム(ローマ劇場)が破壊されたことが確認されました。
シリア北部の都市アレッポは昨年12月に政府軍とロシア軍によって解放されていますが、パルミラについてはISILの再占領を許し、報復による破壊が懸念されていました(下のリンクの過去記事参照)。
上の動画の中で紹介されている衛星画像を見ると破壊された遺跡の様子がよくわかります。
4本の柱で立っている門柱4基からなるのがテトラピュロンですが、4×4=16本の柱のうち12本が破壊されています。
テアトルムについては舞台部分の壁面や壁龕、中央の列柱が失われています。
破壊の規模と様子から爆弾によって爆砕されたものと見られます。
テトラピュロンは3世紀にローマ帝国によって築かれたモニュメントですが、本当に美しい遺跡で、夕陽を受けて荒野の中にぽっかりと浮かび上がる様子がいまでもふと頭に浮かぶことがあります。
ぼくにとって世界でもっとも印象的な景色のひとつであっただけに本当に残念です。
世界遺産の破壊といえばタリバンによる「バーミヤン渓谷の文化的景観と考古遺跡群」のふたつの大仏が思い出されますが、爆破・粉砕されたモニュメントの修復は不可能といわれています。
再現する場合は同じ意匠・素材・工法で造り直すことになるわけですが、そうした復元の是非についてはさまざまな議論があります。
いずれにしてもオリジナルはもう蘇ることはないでしょう。
ISILはこれまでバール・シャミン神殿、ベル神殿、ローマ記念門、塔墓群の一部などを破壊していますが、まとめて破壊しようとはしていません。
少しずつ破壊することで政治的・心理的な効果を狙っているのでしょうか。
UNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)のイリーナ・ ボコバ事務局長はこれが「文化洗浄 "cultural cleansing"」であり、「シリア市民から過去と未来を奪うもの」で「新たな戦争犯罪」であると強く非難しています。
特にシルクロードの交易を支えたテトラピュロンは「出会いと開放性の精神を体現した考古学的象徴」であるとし、それゆえ破壊の対象になったとの見解を述べています。
そのうえで、シリア市民だけでなく「人類全体にとって計り知れない損失」であるとし、国際社会に協調と支援を呼び掛けています。
現在パルミラにはISILの兵士4,000人が展開していると見られています。
政府の中には、支配態勢を確立せずにパルミラから撤退した政府軍を非難する声もあがっているということで、空爆や再占領を求める声も高まっているようです。
パルミラについて↓のようにたくさんの記事を書いてきました。
早急な平和・安定を願わずにはいられません。
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