今回は世界遺産「古都奈良の文化財」の構成資産である東大寺と薬師寺の東塔に関するニュースをお届けします。
東大寺の東塔は現存しませんが、幻の七重塔は日本の歴史上もっとも高い塔のひとつと言われています。
一方、薬師寺の東塔は美的価値の非常に高い三重塔で、「凍れる音楽」との異名を誇ります。
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8世紀半ばに創建された東大寺には東塔と西塔があったことが知られています。
焼失して現存していませんが、いずれも七重塔で総高70~100mを誇ったと伝えられています。
現在、日本でもっとも高い木造の多層塔は世界遺産「古都京都の文化財」の東寺(教王護国寺)の五重塔で54.84m、鉄筋コンクリートのものでも福井県勝山市の清大寺五重塔で75mですから、当時いかに桁外れの建物だったか想像できます。
この東塔の再建を目標に、2015年より鏡池の東にある跡地の本格的な発掘調査が開始されました。
その結果、鎌倉時代に再建された塔の基壇は約27.0m四方、最初に建造された奈良時代の基壇は約24.2m四方だったことが明らかになりました。
また、奈良時代の塔は平清盛による1180年の南都焼き討ちで焼失したと見られていますが、創建時の基壇の階段跡や束石の一部、焼け焦げた痕跡なども発見されたということです。
これらの成果を元に描かれたのが、昨年12月下旬に発表された奈良時代の東塔のイメージ図です。
上の動画のイラストですね。
その高さはなんと100m!
高さについては議論の余地があるようですが、あの巨大な金堂(大仏殿)の東西にこれほどの塔があったとしたら本当に驚きですね。
なお、西塔についても今年、調査が開始される予定です。
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一方、薬師寺では2009年から唯一創建当時の姿を留める34.1mの東塔の解体修理が進められています。
解体自体110年ぶりということですが、2014年には8世紀に現在の位置に建ってから約1,300年ではじめて心柱が取り外されました。
心柱は腐食やシロアリの被害によって底部に高さ2.7m、直径60~70cmの空洞が発見されましたが、腐食部分を切除し、補材を注入するなどして創建当時の木材をできる限り活用する形で修復されました。
この1月9日にはその心柱を心礎の上に据え直す立柱式が行われています。
上の動画は木槌で心柱を打つ根固めの儀の様子です。
この心柱、最上段の屋根の頂部と接続されていますが、それ以外の層とはまったく接触することがありません。
そのため地震が起きたときに各層の揺れと異なる周期で動き、結果的に揺れを打ち消し合うものと考えられています。
下は法隆寺五重塔の免震モデルですが、こちらでイメージできると思います。
東京スカイツリーにも心柱が採用されていますが、昔の人々のアイデアに驚かされますね。
薬師寺東塔は三重塔ですが、三層の屋根の間に裳階(もこし)が備え付けられているため六重に見えます。
大きく出っ張る屋根部と小さく出っ張る裳階がなんともいえないリズムを生み出していることから「凍れる音楽」と評されており、もっとも美しい多層塔のひとつとして知られています。
修復の完了は2020年。
いっそう美しい姿でよみがえってくれることでしょう。
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