16/05/09:インドの世界遺産でサイの密猟が急増中 - ART+LOGIC=TRAVEL [旅を考えるweb]

世界遺産NEWS 16/05/09:インドの世界遺産でサイの密猟が急増中

5月6日、インド・アッサム州の世界遺産「マナス野生生物保護区」でインドサイが殺害されているのが発見されました。

インドサイは「一角犀(いっかくさい)」といわれるように立派な角に特徴があるのですが、この角が取られた状態で殺されていました。

同地でインドサイが密猟の犠牲になったのは2年ぶりということです。

 

Poachers kill a rhino in Assam's Manas national park(The Times of Indiaより)

 

先月4月13日にはイギリスのウィリアム王子とキャサリン妃が同州の世界遺産「カジランガ国立公園」を訪れてインドサイの赤ちゃんにエサやりを行い、密猟に対する取り組みを学んだりしていました。

ところがその前後の11日と15日に、自動小銃AK-47で射殺されたインドサイが見つかっています。

いずれも角目的の密猟であるのは確実で、王子夫妻も衝撃を受け、たいへんに憤っているということです。

サイの赤ちゃんにミルクをあげる王子夫妻

 

インドサイはIUCN(国際自然保護連合)のレッドリスト(絶滅の恐れがある野生生物のリスト)に「危急種(絶滅の危険が高く危急の保全が必要な種)」として掲載されている動物です。

インド、ネパール、パキスタンの草原や熱帯雨林・湖沼地などに生息しているのですが、自然開発や密猟・スポーツハンティングによって激減し、20世紀はじめには200頭ほどまで減少してしまいました。

その後、生息地の保護地化や密猟の取り締まりなどが奏功して生息数は増加に転じ、現在は2,500頭を超えていると見られています。

 

中でも最大の生息地がカジランガ国立公園です。

ここはインドの自然保護の先駆けで、当時インドを支配していたイギリス領インド帝国の総督が1905年に保護区としたことからインドサイの保護がはじまりました。

この頃は十数頭まで減って絶滅の危機に瀕していたようですが、狩猟を禁じ、立ち入りさえ制限するなど厳しい保護を進めた結果、現在1,800頭以上が集中するインドサイの楽園となっています。

1974年には国立公園となり、1985年には世界遺産リストにも掲載されています。

 

一方、マナス野生生物保護区は1928年に保護区となっています。

鳥類の宝庫であると同時にベンガルトラやインドゾウ、インドサイの重要な生息地として知られ、1985年にはこちらも世界遺産リストに登録されました。

しかしながら民族紛争地でもあるため軍の侵入によって荒廃し、あるいは食料として多くの野生動物が狩猟の対象となり、1992年に危機遺産リスト入りしてしまいました。

危機が去ったということで2011年に解除されていますが、インドサイについてはほとんどが殺されて、現在は約30頭を残すのみとなっています。

 

このようにカジランガ国立公園でもマナス野生生物保護区でも19世紀に比べれば環境保護が進んで狩猟も大きく減りました。

ところが20世紀に入って自動小銃などを用いて秘密裏に狩りを行う密猟は増加しており、21世紀もその傾向が続いているようです。

 

ナショナルジオグラフィック2010年8月号の特集「野生の王国カジランガ」によると、カジランガ国立公園では1985~2005年の20年間で447頭のインドサイが犠牲になったそうです。

また現地の報道によると、アッサム州のインドサイ年間密猟数について史上最悪を記録したのは2013年で、カジランガ国立公園で27頭、マナス野生生物保護区で5頭が殺害されたそうです。

2016年については約4か月でそれぞれ8頭と1頭の犠牲ですから、ペースが減っていないことがわかります。

今回マナスで殺害された1頭は2013年以来の犠牲ですが、たった30頭の中での話で、しかも管理下にあったわけですから、その衝撃は非常に大きいものとなっています。 

カジランガ国立公園

 

なぜ密猟者たちはサイの角を欲しがるのでしょうか?

もちろん、高く売れるからです。

 

密猟者が売るサイの角の値段は数百万円といわれています。

インドではいまだに多くの人が月収1万~2万円程度で暮らしていますから、数百か月分の給料ということになります。

日本人の感覚だと数千万~1億円の価値になるでしょうか。

そして密猟された角の多くは中国やベトナムに運ばれて、漢方薬や観賞用あるいは投資を目的に数億円という異常な高値で取り引きされているようです。

 

インドサイに限らず、5種いるサイはすべてIUCNのレッドリストに掲載されており、絶滅が危惧されています。

そしていずれも密猟者の標的となっており、インドと同様、密猟数は増え続けているようです。

 

密猟の問題は20世紀後半から盛んに叫ばれており、1975年に発行したワシントン条約(絶滅の恐れのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)でもサイの角は当然取り引きが禁止されています。

ところが密猟数は増え続けているわけですから、根の深さがうかがえます。

 

実はいま南アフリカのプレトリアでワシントン条約の会合が開催されています。

南アフリカがサイの角の取引合法化を提案するのではないかといわれていましたが、どうやら見送ったようですね。

 

南アフリカの主張によると、合法化によって透明性を確保して適切にコントロールすれば最終的に密猟は減らせるということでした。

しかしながら合法化して密猟が増えたビクーニャの例もありますし(需要が増えて密猟が増加した)、一時解禁した象牙の取り引きでは合法的な象牙と密猟による象牙の区別がつかない等々の問題も明らかになっていますから、合法化の効果も未知数であるといえそうです。

 

密猟の問題は南北格差や国内格差・商取引の国際的なコントロール等々といった非常に難しい問題をはらんでいます。

残念ではありますが、長いスパンで付き合わなくてはならない問題であるといえそうです。

 

 

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