この4月中旬、ISIL(いわゆるイスラム国)はニネヴェの古代都市遺跡に進入し、その一部を破壊して持ち去ったようです。
この遺跡はイラクの世界遺産暫定リスト(世界遺産登録の準備を行っているサイトの一覧)に「古代都市ニネヴェ "The Ancient City of Nineveh"」の名で記載されています。
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ニネヴェはティグリス川の東岸に建てられた古代都市です。
街ができたのは紀元前7000年より以前といわれており、やがてメソポタミア文明を代表する都市国家に発展しました。
紀元前700年頃に史上はじめてオリエント(エジプトとメソポタミア)を統一した大帝国アッシリアの首都となり、二重の城壁に囲まれた城郭都市として繁栄しました。
城壁の内部には豪壮な宮殿や史上初といわれる図書館が建設され、大いに賑わったと伝えられています。
しかし紀元前7世紀頃、ニネヴェは新バビロニアやメディアの攻撃によって破壊され、アッシリアは滅亡に追い込まれました。
以来ニネヴェが再建されることはありませんでしたが、人々は川の西岸に移って都市を築きました。
これがモスルです。
2014年6月にISILはモスルを占領しました。
2015年2月にはモスルのニネヴェ博物館で彫刻や陶器を破壊する動画を公開し(下の動画がその一部)、モスル大学の研究室や近郊の世界遺産「ハトラ」の一部をブルドーザーで破壊しました。
当然、対岸のニネヴェの遺跡にも目を付けて、一部を破壊して彫刻などを盗み出したということです。
不幸中の幸いだったのは、ISILが占領する前にオリジナルの多くがバグダードに退避させられていたことです。
そして4月13日、イギリスの "INDEPENDENT" やシリアの "ARA News" の報道によると、ISILはふたたびニネヴェの遺跡に侵入し、「神の門」の異名で知られるマシキ門やナガル門、城壁の一部を破壊したということです。
破壊後に遺構を運び出し、売却しているという情報もあるようです。
イラク当局もこれを否定せず、状況把握に全力を尽くしている模様です。
ISILがこうした古代遺跡を破壊するのは、偶像崇拝を禁じるイスラム教の教義に反するとか、イスラム教成立前の遺跡の存在がイスラム教を冒涜するためなどといわれています。
しかしながらニネヴェ博物館の破壊においても、破壊されたのはすべてレプリカではないかとも指摘されており、転売して活動資金にするのが目的だとする学者もいたりします。
実際、ヨーロッパでイラクの遺構が発見されるという事件もありました。
結局、ISILには宗教的な教義があるわけではなくて、イスラム教と他の宗教との対立を煽り、その中で利益を得たいということのようです。
3月31日の記事ではシリア政府軍がISILからシリアの世界遺産「パルミラの遺跡」を奪還したことをお伝えしました。
ところがイラクではふたたび破壊が進んでいます。
ISILの狙いにはまり、憎しみの連鎖に巻き込まれないよう気をつけたいところです。
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