16/04/13:ショーヴェ洞窟で人間とクマが共生!? - ART+LOGIC=TRAVEL [旅を考えるweb]

世界遺産NEWS 16/04/13:ショーヴェ洞窟で人間とクマが共生!?

世界最古の洞窟壁画で知られているショーヴェ洞窟※。

13種以上の動物を生き生きと描き出した壁画は人類最初期の芸術作品と考えられています。

今月上旬に発表されたAnita Quiles氏率いる国際チームの報告によると、これらの作品を描いた人類はクマとの闘争、あるいは共生を経てこの作品を完成させたようです。

※世界遺産「ショーヴェ=ポン・ダルク洞窟として知られるアルデシュ県ポン・ダルクの装飾洞窟」構成資産

 

The incredible history of Chauvet-Pont d'Arc: Radiocarbon dating reveals early humans 'shared' the painted cave with BEARS more than 30,000 years ago(mail Onlineの記事)

 

ちなみに下の動画はショーヴェ洞窟の発見を描いた2012年公開のヴェルナー・ヘルツォーク監督作品『世界最古の洞窟壁画 忘れられた夢の記憶』の予告編です。

ショーヴェは1994年に発見された洞窟です。

色鮮やかな動物たちの絵で話題になりましたが、2001年に木炭などの顔料を放射性炭素同位体法(炭素14年代測定法)※で測定した結果、30,000年前のものであるという結果が出て大騒ぎになりました。

※生物が死ぬと身体を構成する有機物中の炭素の放射性同位体=炭素14が半減期に沿って減ることを利用した年代測定法

 

それまで知られていたスペインのアルタミラ洞窟①やフランスのラスコー洞窟②が10,000~20,000年ほど前のものと考えられていましたから、それらより大幅に古いものであることになります。

このため顔料の化学変化の可能性などを指摘して反対する学者も少なくありませんでした。

※①世界遺産「アルタミラ洞窟と北スペインの旧石器時代の洞窟画」

 ②世界遺産「ヴェゼール渓谷の先史遺跡群と装飾洞窟群」

 

年代を特定するひとつの手掛かりとなったのがクマの存在です。

壁画の中にはクマを描いたものもあり、クマの爪による引っかき傷も残っています。

これは当時、周辺にクマが住んでいて、壁画の完成後にクマが洞窟に侵入して壁画を傷つけたことを意味しています。

 

このクマはホラアナグマと考えられていますが、ホラアナグマは1万年以上前に死に絶えた絶滅種です。

ホラアナグマの化石は周辺の洞窟でも発見されているのですが、測定の結果、これらが29,000~37,000年前のものであることが明らかになっています。

また、ミトコンドリアDNAの解析結果から、ホラアナグマの集団が非常に小さかったこともわかっています。

これらから、この辺りのホラアナグマは25,000~30,000年ほど前に絶滅し、ショーヴェ洞窟の年代もそれ以前と推測することができそうです。

 

クマは年代を測定するために役立った半面、洞窟内から人間が狩ったとは考えられないクマや他の野生動物の骨が発見されていることから学者たちの頭を悩ますことにもなりました。

というのは、それらの動物の生存時期が壁画が描かれた時期と重なることから、人間と動物が共生していたことになってしまうからです。

今回、Anita Quiles氏が率いるIFAO(フランス・オリエント考古学研究所)とLSCE(気候環境科学研究所)を中心とした国際考古学チームは250以上の放射性同位体の測定結果を精査し、壁画が37,000年前~33,500年前の間と、31,000年前~28,000年前の間の二度の時期に描かれていることを突き止めました。

特に前者の期間にほとんどの絵が描かれたということです。

 

一方で、クマの絶滅を33,000年前と推測しています。

ということで、37,000年前~33,000年前の間、人間はクマと一緒に暮らしていたことになりそうです。

 

もっとも、人間とクマが同時に洞窟にいたと断定しているわけではありません。

追い出しては追い出されといった関係が続いていたのかもしれません。

もしかしたら壁画の爪痕は人間とクマが争った跡なのかもしれませんね。

 

なお、ショーヴェ洞窟はその後落盤によって入口が塞がれて、動物たちは進入することができなくなってしまいました。

これが壁画の保存に役立ち、発見の遅れにもつながりました。

この記事ではその時期を29,400年前と見ているようです。

そして1994年に発見されたのは先述の通りです。

 

動物の呼気や体温などが壁画に影響することから、現在一般には公開されておらず、立入禁止となっています。

その代わり昨年4月にレプリカ洞窟が完成しており、好評を博しているようです。

その様子は以下の記事で解説しているのでご参照ください。

 

世界遺産NEWS 15/04/11:ショーヴェ洞窟にレプリカ完成

 

それにしても考古学というのは日進月歩ですね。

ショーヴェ洞窟が発見されたのはほんの二十数年前ですが、ここまで特定されているとは。

ネアンデルタール人が造ったなんていう説もありますが、この辺りの解明も待ち遠しいところです。

 

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