16/01/09:シリア内戦で古代都市ボスラが損壊 - ART+LOGIC=TRAVEL [旅を考えるweb]

世界遺産NEWS 16/01/09:シリア内戦で古代都市ボスラが損壊

12月下旬、シリア文科省は世界遺産「古代都市ボスラ」の一部が戦闘で破壊されたことを発表しました。

 

ボスラはシリア南部の町で、メソポタミア文明の時代以来、3,000年以上の歴史を誇る古代都市。

皇帝トラヤヌスに征服され、ローマ帝国の版図に組み込まれてからはアラブ属州の州都として発達し、円形劇場や神殿などを備えたローマ都市として整備されました。

その後もビザンツ帝国(東ローマ帝国)、ウマイヤ朝(アラブ帝国)、アッバース朝(イスラム帝国)、モンゴル帝国等々、宗主国を変えながら東西のさまざまな文化の影響を受け、種々の建築様式が融合した多文化都市として発展しました。

 

ボスラ(Googleマップ)

シリアでは2011年にはじまった内戦の激化(シリア騒乱)により、世界遺産が直接攻撃を受けたり、政府の勢力圏が大幅に減って保護・保存の手が届いていないことから、2013年に6件の世界遺産のすべてが危機遺産リストに登録されました。

 

■シリアの世界遺産

 

これまでにアレッポの市場やモスクが砲撃され、クラック・デ・シュヴァリエが空爆を受け、パルミラが爆破されるなどしています。

そして今回、ボスラが攻撃を受けました。

 

シリア文科省は破壊の規模やどの勢力による攻撃であるかといった詳細は明らかにしていませんが、どうやらランドマークである円形劇場の一部が損壊したようです。

辺りで活動を行っているイギリス系の人権監視団はアサド政権側のヘリコプター攻撃によるものとしているそうです。

ボスラの周辺では政権側と反政府勢力の間で戦闘が行われており、今回ISIL(イスラム国)は無関係であるようですね。

 

UNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)のイリーナ・ボコバ事務局長は非難声明を発表し、ただちに戦闘を止め、国際法や合意に従って遺跡の破壊を停止するよう呼び掛けています。

そして安全が確認され次第、修復を行うために専門家の派遣を行う意向を表明しました。

事務局長は遺跡が破壊されるたびにこうした声明を発表していますが、残念ながらこれまでのところ効果を発揮していません。

 

* * *

 

一方、こうした遺跡の破壊によって遺跡に含まれているさまざまなデータが失われないように、遺跡をスキャンしてデジタルデータの形で保存する活動も進められています。

下はイラクのバビロン遺跡・イシュタル門の3Dアニメーションですが、遺跡をレーザースキャンしたデータをもとに作成されています。

これは2003年にモスル出身のイラク系アメリカ人、ベン・カシーラ氏が設立した非営利法人"CyArk" によるものです。

 

氏は2001年のタリバンによるアフガニスタンの世界遺産「バーミヤン渓谷の文化的景観と考古遺跡群」の磨崖仏(まがいぶつ)の破壊に心を痛め、また小さな頃から目にしていたニネヴェやニムルドといった遺跡が破壊の危機に直面するにあたってこの事業の立ち上げを決意しました。

現在、世界遺産も含めて500の文化遺産のスキャンを進めています。

最下段にリンクを張っておいたので、ぜひ公式サイトを確認してみてください。

さまざまな遺跡のデータやアニメーションを見ることができておもしろいですよ。

 

少しバビロンの紹介もしておきましょう。

バビロンは5,000年以上前に誕生した古代都市で、紀元前6世紀頃には新バビロニアの首都となり、世界七不思議にも数えられる空中庭園を備えた華麗な都市として繁栄しました。

都市はその後打ち捨てられて廃墟となりましたが、廃墟になっても美しいたたずまいで人々を魅了してきました。

 

イラク戦争による米軍の駐留や戦争に続く内戦で被害を受けましたが、ISILの勢力圏から離れていたことから深刻な破壊には至りませんでした。

このためスキャンできたわけですが、残念ながらイラクの世界遺産「ハトラ」や古都ニムルドはISILによって一部が破壊されてしまいました。

 

一度破壊されてしまうと元通りの修復は非常に困難です。

「せめてスキャンされていたら……」と思うわけですが、そうならないための活動であるわけです。

 

バビロン(Googleマップ)

レーザーによるスキャニング技術はイラクやシリアの技術者に伝えられており、さらなるスキャン計画が進められています。

破壊活動が停止されることが第一ですが、せめてデジタルデータだけでも残ってほしいものです。

 

なお、イラク政府はバビロンの世界遺産化を進めており、2016年夏の世界遺産委員会で登録の可否が決まる予定です。

 

 

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