UNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)が、戦争で破壊された文化遺産をまとめた写真資料をアップしています。
それぞれの世界遺産の戦前の様子と戦後の様子が写真で比較されていて、なかなか見応えがあります。
たとえばボスニア・ヘルツェゴビナの「モスタル旧市街の古橋地区」は戦争の傷跡を残す負の遺産であると同時に、世界各国が団結して橋を修復した国際協力の見本として例に出される世界遺産です。
その修復の様子がよくわかります。
■World Heritage Sites Attacked DuringWar
ただ、いまこの瞬間もマリやシリアでは世界文化遺産が破壊されつつあります。
イントロダクションにあるように、他宗教・他民族・他文化の象徴を破壊することは敵の「心」を大きく傷つけることができるだけでなく、世界に向けた大きなメッセージになるからです。
でも、UNESCOはこう言います。
「世界遺産には普遍的な価値があります。それは全人類が所有するものであり、したがって人類全体で守らなければならないのです。単に文化財を守るという話ではなく、私たちの価値や個性や在り方に関わる話なのです」
* * *
一方で。
もう数年続けられている中国の世界遺産「武当山の古代建築物群」の遇真宮の移転作業がほぼ終了したようですね。
武当山は道教四大名山のひとつで、道教の寺院である道観が立ち並ぶ聖地。
中国拳法・武当拳でも有名で、世界遺産「河南登封の文化財”天地之中”」登録の嵩山少林寺と並び称されています。
1412年に建てられた遇真宮は武当拳誕生に大きく関わった道観ですが、丹江口ダムとそれに伴う水路が近郊を通過することから、洪水や水没が懸念されていました。
そこで遇真宮の土台の下に12台のジャッキを敷き、15m持ち上げてしまおうという計画です。
世界遺産「アブシンベルからフィラエまでのヌビア遺跡群」の救出活動を思い起こさせますね(アブシンベルやイシス神殿は水没したあと切り刻まれて移転されました)。
山門ひとつで約1,100t。
本殿を含めると約4,600tにもなるそうです。
ちなみに、本殿は2003年に全焼して再建されたものです。
その様子は以下で見ることができます。
もっとも、世界遺産に影響する場所にダムを造る計画自体どうなのよという気もします。
ダムと世界遺産の問題は以前からあって、現在も中国の「雲南三江併流の保護地域群」上流のダム計画や、コスタリカ/パナマ共通の「タラマンカ地方-ラ・アミスター保護区群/ラ・アミスター国立公園」付近で進んでいるダム建設の影響が懸念されています。
また、イラクの「アッシュール(カラット・シェルカット)」、セネガルの「ニオコロ=コバ国立公園」はダム計画のおかげで危機遺産に登録されてしまっています。
世界遺産は文化活動ではなく、いまや政治であることがよくわかります。