世界遺産NEWS 24/09/09:文化審議会、2026年の世界遺産登録を目指し「飛鳥・藤原の宮都」を推薦候補に選定
文化庁の文化庁審議会・世界文化遺産部会は9月9日、2026年の世界遺産登録を目指して「飛鳥・藤原の宮都」を文化遺産の推薦候補に選定したことを発表しました。
同遺産はこれまで3度の立候補→選定失敗を経験してきましたが、4度目にして選定を勝ち取りました。
今後は内閣による閣議了解などを経て、2025年2月1日までに推薦される予定です。
■「飛鳥・藤原の宮都」を26年の世界文化遺産国内候補に決定…日本の古代国家形成の過程示す(読売新聞オンライン)
今回はこのニュースをお伝えします。
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奈良県 飛鳥・藤原の宮都とその関連資産群(奈良県世界遺産室)
現在、世界遺産リストへの推薦は原則として1国につき年1件のみとなっています。
日本において、文化遺産については文化庁が推薦候補を募集しており、文化審議会の世界文化遺産部会が選定を行っています。
自然遺産については環境省や林野庁が担当しています。
そして推薦物件は外務省が主催する世界遺産条約関係省庁連絡会議によって正式に決定されます。
その後、内閣による閣議了解を受け、世界遺産登録を目指す年の前年2月1日までにUNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)の世界遺産センターに登録推薦書を提出します。
ただ、通常は登録推薦書を送る前年9月30日までに暫定推薦書を世界遺産センターへ提出し、書類の不備等を審査してもらいます。
そして「飛鳥・藤原の宮都」です。
文化庁の文化庁審議会・世界文化遺産部会は9月9日、2026年の世界遺産登録を目指して「飛鳥・藤原の宮都」を文化遺産の推薦候補に選定したことを発表しました。
奈良県知事を会長とする世界遺産「飛鳥・藤原」登録推進協議会はこれまで2020年・21年・22年と3年連続で立候補を行い、文化庁に推薦書素案を提出していました。
しかし、「佐渡島の金山」に敗れたり、構成資産の妥当性や大和三山の管理が問題視されたり、一部が地権者の同意を得られず文化財登録が行われないなど、種々の問題で選定から漏れていました。
推進協議会は国内外の専門家を招くなどして対策を行い、2024年4月15日に新たな推薦書素案を提出しました。
今回の決定はこれに対応するもので、4度目にして選定を勝ち取りました。
【飛鳥・藤原】短編映画『Boy Meets…』(奈良県世界遺産室)
選定理由を文化庁の報道資料から抜粋しましょう。
■「飛鳥・藤原の宮都」概要
本資産は、中国大陸及び朝鮮半島との緊密な交流のもと、日本列島においてはじめて生まれ、後代にも文化的影響を与えた古代国家の宮都の考古学的遺跡群等である。東アジアの古代国家形成期において、中央集権体制が誕生・成立した過程を、2つの連続する時代の宮都の変遷から示すことができる唯一無二の資産であり、人類にとって顕著な普遍的価値を持つ。
■「飛鳥・藤原の宮都」選定理由
今年度に世界文化遺産への推薦を希望する物件は、「飛鳥・藤原の宮都」であった。
本物件については、令和5年度の文化審議会意見において、「世界遺産登録の要件となる資産の保護(文化財等指定)が進められているものの、必ずしも十分でない状況であり、引き続き取り組むべきである。また、資産の管理・整備に係る関係省庁・関係自治体等による包括的な体制の構築、全体方針の策定、国際的な理解を得るための価値の説明の精査・充実等について更に取り組むべきである。」とされた。
文化審議会では、今年度、改めて「飛鳥・藤原の宮都」について進捗状況等の確認を行ったところ、①藤原宮跡について資産の保護措置をより完全なものにすること、②推薦書提出までにより明確な表現となるよう推薦書案の記述内容について修正していくことといった課題はあるものの、全体として顕著な普遍的価値が認められ得ると考えられ、かつ、基本的には構成資産は十分な保護措置を受けていることなどから、今年度推薦することが適当と思われる世界文化遺産の候補物件として、本物件を選定する。
喫緊の自然遺産候補はないため、今後は世界遺産条約関係省庁連絡会議と内閣によって正式に推薦が決定・了解される見込みです。
今後のスケジュールは以下となっています。
■「飛鳥・藤原の宮都」今後のスケジュール
- 2025年
1月:内閣にて推薦を閣議了解
2月1日まで:登録推薦書をUNESCO世界遺産センターへ提出
夏~冬:ICOMOS(イコモス=国際記念物遺跡会議)が現地調査を含む専門調査を実施
- 2026年
4~5月:ICOMOSが勧告を含む評価報告書を世界遺産センターへ提出
6~7月:第48回世界遺産委員会で世界遺産リストへの登録の可否が決定
「飛鳥・藤原の宮都」の内容を確認しましょう。
以下は世界遺産「飛鳥・藤原」登録推進協議会の報道資料からの抜粋です。
★「飛鳥・藤原の宮都」概要
※世界遺産名について、推薦書素案では「飛鳥・藤原の宮都とその関連資産群」となっていましたが、今回「飛鳥・藤原の宮都」に改められました
■価値の概要
- 東アジアの東端の日本列島中央に位置する「飛鳥・藤原」は、中国の律令制度を模範とした中央集権体制に基づく宮都が日本ではじめて誕生した証拠です
- 東アジアが前例のない国際的な緊張関係にあった時期7世紀に、積極的に中国大陸や朝鮮半島からの渡来人を受け入れた日本列島と東アジアとの政治的・文化的な交流によるものです
- 飛鳥の宮都では、天皇の居住する飛鳥宮に政治権力が集中し、徐々に宮殿を中心に官衙・統治機能が宮殿の周辺に展開していきました
- 藤原の宮都は、中国の律令制度を模範とした中央集権体制を具現化するために計画的に造営されました。官衙機能も内包した藤原宮が、宮都の中心に配置されました
- 飛鳥の宮都から藤原の宮都への変遷は、日本列島における中央集権体制に基づく初の宮都の形成過程を示しています
■顕著な普遍的価値
- 登録基準(ii):重要な文化交流の跡 → 「飛鳥・藤原」は、建築・土木などの分野における価値観の交流の所産であり、その後の日本の古代宮都に多大な影響を与えました
- 登録基準(iii):文化・文明の稀有な証拠 → 「飛鳥・藤原」は、古代宮都の形成過程を端的に示すことができる証拠です
■構成資産 22件
○飛鳥の宮都
- 1. 飛鳥宮跡
- 2. 飛鳥京跡苑池
- 3. 飛鳥水落遺跡
- 4. 酒船石遺跡
- 5. 飛鳥寺跡
- 6. 橘寺跡
- 7. 山田寺跡
- 8. 川原寺跡
- 9. 檜隈寺跡
- 10. 石舞台古墳
- 11. 菖蒲池古墳
- 12. 牽牛子塚古墳
○藤原の宮都
- 13. 藤原宮跡
- 14. 大和三山:香具山
- 15. 大和三山:畝傍山
- 16. 大和三山:耳成山
- 17. 大官大寺跡
- 18. 本薬師寺跡
- 19. 天武・持統天皇陵古墳
- 20. 中尾山古墳
- 21. キトラ古墳
- 22. 高松塚古墳
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文化庁の文化審議会・世界文化遺産部会は2023年7月に「彦根城」についてプレリミナリー・アセスメントと呼ばれる事前評価制度を利用した推薦を行い、「飛鳥・藤原の宮都とその関連資産群」については推薦を見送ることを発表しました。
プレリミナリー・アセスメントによる推薦・登録は少なくとも4年ほどの期間を必要とするため、「彦根城」の推薦は最短で2026年、世界遺産登録は2027年ということになります。
ということは、通常の登録プロセスで推薦を行う「飛鳥・藤原の宮都」の方が「彦根城」より先に世界遺産リストに登録される可能性があるわけですね。
ちょっとややこしい話です。
これらの詳細は以下にリンクを張った過去記事を参照してください。
[関連サイト&記事]
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