2019年夏に開催される第43回世界遺産委員会で世界遺産リストへの登録を目指す世界遺産候補地のリストが公表されました。

 

今回はこのリストを紹介します。

 

※2019/05/21追記

　世界遺産候補地の調査・評価をしているICOMOSとIUCNによる勧告結果が出たので以下をアップしました。

　■世界遺産NEWS 19/05/21：2019年、世界遺産候補地の勧告結果

 

※2019/07/08追記

　登録地が決まりましたので以下の新記事をアップしました。

　■世界遺産NEWS 19/07/08：速報！ 2019年新登録の世界遺産!!

 

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ミャンマーが誇る仏教都市バガンの絶景

 

簡単にこのリストの概要を解説しておきましょう。

まだ2018年の世界遺産委員会もはじまっていないのに、なぜ2019年の世界遺産候補地のリストが公表されているのでしょうか？

 

世界遺産リストに物件を登録するためには、登録を目指す年の前年２月１日までにUNESCO（ユネスコ＝国際連合教育科学文化機関）の世界遺産センターに登録推薦書を送らなければなりません。

2019年の登録を目指す場合2018年２月１日が〆切で、本リストはその時点で立候補の表明があった物件ということになります。

 

ただし、以前の世界遺産委員会で「情報照会」の決議を受けた物件（３年以内に情報を提出した場合は再審査が可能）や、緊急的登録推薦（明確に顕著な普遍的価値を持ち、危機的状況にある物件の例外的な緊急推薦）の物件が入ってきたりすることがあるため、このリスト外から審議される物件もあったりします。

また、毎年書類の不備等から審査に及ばない物件や、推薦を取り下げる物件も相当数出てきます。

 

第43回世界遺産委員会までの日程は下記のようになっています。

なお、世界遺産委員会の諮問機関であるICOMOS（イコモス＝国際記念物遺跡会議）は文化遺産、IUCN（国際自然保護連合）は自然遺産、複合遺産は両組織が調査・評価を行います。

 

○2018年

• 夏以降：ICOMOS、IUCNが現地調査を含む専門調査を実施

○2019年

• ４～５月：ICOMOS、IUCNが評価報告書を世界遺産センターに提出
• ６～７月：評価報告書を参考に世界遺産委員会で登録可否を決定

 

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いくつか注目の物件を紹介していきましょう。

 

日本からは「百舌鳥・古市古墳群」が推薦されています。

百舌鳥（もず）エリア23基、古市（ふるいち）エリア26基、計45件49基の古墳からなる物件です。

文化庁の報道資料より概要と構成資産を抜粋しましょう。

 

○「百舌鳥・古市古墳群」遺産概要

百舌鳥・古市古墳群は、古墳時代の最盛期であった４世紀後半から５世紀後半にかけて、当時の政治・文化の中心地のひとつであり、大陸に向かう航路の発着点であった大阪湾に接する平野上に築造された。世界でも独特な、墳長500メートル近くに達する前方後円墳から20メートル台の墳墓まで、大きさと形状に多様性を示す古墳により構成される。墳丘は葬送儀礼の舞台であり、幾何学的にデザインされ、埴輪などで外観が飾り立てられた。本資産は、土製建造物のたぐいまれな技術的到達点を表し、墳墓によって権力を象徴した日本列島の人々の歴史を物語る顕著な物証である。

 

○構成資産45件49基

ルワンダ、ムランビ虐殺記念館（閲覧注意）

 

海外の物件としては、モナコとルワンダが初登録に挑戦します。

 

世界遺産条約を締約していて世界遺産を持っていない国は26か国ありますが、ヨーロッパではモナコだけとなっています。

今回モナコはイタリア、フランスとともに３か国共通のトランスナショナル・サイト（複数国による物件）として推薦しています。

 

ルワンダの「虐殺記念サイト」は100万人とも言われる犠牲者を出した1994年のルワンダ虐殺の４つの記念館を構成資産としています。

ぼくはこの内のムランビ（上の動画）とギソチの記念館を訪れていますが、経験したことのないほどの衝撃を受けました。

積み上がった数千の遺体が凄惨であるだけでなく、ぼくらと変わらず普通に暮らしていた人々が殺し・殺されたという事実があまりにも受け入れがたいものでした。

ただこの物件、建物に価値があるわけではないので史跡ということになりますが、これをICOMOSや世界遺産委員会がどのように判断するのか注目したいところです。

 

世界遺産最多保有を争うイタリアと中国は今回も２件ずつ推薦しています。

現在各国の推薦枠は年２件（２件の場合、１件は自然遺産か文化的景観でなければなりません）なので、フル活用して首位攻防戦に臨んでいる形です。

2020年の世界遺産委員会（2019年２月１日推薦〆切）より推薦枠は各国年１件に縮小されるので、２件の推薦も最後になるかもしれません。

 

全体的に、先史文明の遺跡、産業遺産、文化的景観、20世紀建築が目立ちます。

これらは1994年の「世界遺産一覧表における不均衡の是正及び代表性・信頼性の確保のためのグローバルストラテジー」以降、新たに目を向けるべき遺産ジャンルとして指摘されているもので、その流れが続いています。

メソポタミア文明のバビロン、ディルムン、長江文明の良渚、ラオスの巨石文化、日本の古墳群など、古代遺跡はやはりワクワクしますね。

一方でイギリスのジョドレル・バンク天文台は1950年代以降の設備で非常に対照的です。

 

アルバニアの「オフリド地域の自然遺産及び文化遺産」はすでに世界遺産リストに登録されているマケドニアの同名世界遺産の拡大です。

オフリド湖は国境をまたいでいるため以前から両国共通のトランスバウンダリー・サイト（国境をまたがる連続した物件）にして保護を進める必要性が指摘されていました。

実は2014年にオフリド湖と上流のプレスパ湖が両国共通のユネスコエコパーク（生物圏保存地域）となっており、こうした努力が実ったものと思われます。

 

個人的に思い入れがあるのはミャンマーのバガンとラオスのジャール平原です。

バガンは世界遺産であるアンコールやボロブドゥールと並んで世界三大仏教遺跡に数えられているもので、東南アジアではもっともフォトジェニックな場所のひとつでしょう。

ここがすばらしいのは遺跡であるだけでなく、いまだに聖地として崇められている点です。

数千のパゴダ（仏塔）が林立する様が美しいだけでなく、托鉢を行う僧たちや祈りを捧げる人々の姿がなんとも言えない神々しさを醸し出しています。

ミャンマーのバガンやラオスのジャール平原の登録活動には日本も支援を行っています。

 

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イギリスのジョドレル・バンク天文台

 

★2019年に世界遺産登録を目指す物件一覧表

 

それでは2019年の世界遺産候補地49件（範囲変更２件含）のリストです。

内容は、文化遺産36件、自然遺産10件、複合遺産３件となっています。

 

順番は文化遺産→自然遺産→複合遺産で、それぞれヨーロッパ→アジア→オセアニア→北米→南米→アフリカ、さらに国別五十音順です。

日本語名は私が適当に訳したものです。

勘違い等あるかもしれませんがご容赦ください。

正式な推薦名称は英語の表記になります。

名称や登録基準は今後変わる可能性があります。 

 

 

＜文化遺産36件＞

 

■ジョドレル・バンク天文台

Jodrell Bank Observatory

イギリス、文化遺産(i)(ii)(iv)(vi)

 

■グロースグロックナー山岳道路

Großglockner High Alpine Road

オーストリア、文化遺産(i)(ii)(iv)

 

■ローマ帝国の国境線－ドナウ・リーメス

Frontiers of the Roman Empire – The Danube Limes

オーストリア／スロバキア／ドイツ／ハンガリー共通、文化遺産(ii)(iii)(iv)

 

■プリオラート－モンサン－シウラナ、地中海のモザイク状文化的農業景観

Priorat-Montsant-Siurana, Mediterranean mosaic, agrarian cultural landscape

スペイン、文化遺産(v)(vi)

 

■グラン・カナリア文化的景観のリスコ・カイドと聖なる山々

Risco Caido and the Sacred mountains of Gran Canaria Cultural Landscape

スペイン、文化遺産(iii)(v)

 

■エルツ／クルスノホリ鉱山地区

Erzgebirge / Krušnohoří Mining Region

チェコ／ドイツ共通、文化遺産(ii)(iii)(iv)

 

■クラドルビ・ナド・ラベムにおける儀式用馬車馬の飼育・訓練の景観

Landscape for Breeding and Training of Ceremonial Carriage Horses at Kladruby nad Labem

チェコ、文化遺産(ii)(iv)(v)

 

■アウクスブルクの水管理システム

Water Management System of Augsburg

ドイツ、文化遺産(ii)(iv)(vi)

 

■ムドゥルヌの歴史的ギルド都市：アクヒスムの証言

Historic Guild Town of Mudurnu: Testimonies of Akhism

トルコ、文化遺産(iii)(vi)

 

■1944年のノルマンディー上陸ビーチ

Landing beaches, Normandy, 1944

フランス、文化遺産(iv)(vi)

 

■ホゲ・ケンペンの農業－産業変遷の景観

Hoge Kempen Rural-Industrial Transition Landscape

ベルギー、文化遺産(iv)

 

■クルゼミオンキの先史時代縞状フリント鉱山地区

Krzemionki prehistoric striped flint mining region

ポーランド、文化遺産(i)(iii)(iv)

 

■マフラの王宮－宮殿、教会、修道院、セルコ庭園及び狩猟公園［タパダ］

Royal Building of Mafra – Palace, Basilica, Convent, Cerco Garden and Hunting Park (Tapada)

ポルトガル、文化遺産(i)(ii)(iv)(vi)

 

■ブラガのボン・ジェズス・ド・モンテの聖域

Sanctuary of Bom Jesus do Monte in Braga

ポルトガル、文化遺産(ii)(iv)

 

■トゥルグ・ジウのブランクーシ記念建造物群

Brâncusi Monumental Ensemble of Târgu Jiu

ルーマニア、文化遺産(i)(ii)(iv)(vi)

 

■古代プスコフの建造物群

Monuments of Ancient Pskov

ロシア、文化遺産(ii)(iii)(iv)

 

■シャルジャ：トルーシャル・オマーンへの玄関口

Sharjah: the Gateway to the Trucial States

アラブ首長国連邦、文化遺産(ii)(iii)(vi)

 

■バビロン

Babylon

イラク、文化遺産(iii)(vi)

 

■イラン横断鉄道

Trans-Iranian Railway

イラン、文化遺産(ii)(iv)

 

■ジャイプール市、ラジャスタン

Jaipur City, Rajasthan

インド、文化遺産(ii)(v)(vi)

 

■栄光のカカティーヤ朝寺院群と関門－ルドレシュワラ［ラマッパ］寺院、パランペット、ジャヤシャンカール・ブーパルパリー地区、テランガーナ州

The Glorious Kakatiya Temples and Gateways – Rudreshwara (Ramappa) Temple, Palampet, Jayashankar Bhupalpally District, Telangana State

インド、文化遺産(i)(ii)(iii)

 

■サワルントのオンビリン炭鉱遺産

Ombilin Coal Mining Heritage of Sawahlunto

インドネシア、文化遺産(ii)(iv)

 

■シルクロード：ザラフシャン回廊

Silk Roads: Zarafshan Corridor

ウズベキスタン／タジキスタン共通、文化遺産(ii)(iii)(iv)(v)(vi)

 

■ソウォン［書院］、韓国新儒教学院

Seowon, Korean Neo-Confucian Academies

韓国、文化遺産(iii)(iv)

 

■サウジアラビア・アスィール地方におけるリジャル・アルマの歴史村落

The Historic Village of Rijal Almaa in Asir Region of Saudi Arabia

サウジアラビア、文化遺産(iii)(iv)(v)

 

■良渚の考古遺跡群

Archaeological Ruins of Liangzhu City

中国、文化遺産(iii)(iv)

 

■百舌鳥・古市古墳群

Mozu-Furuichi Kofun Group: Mounded Tombs of Ancient Japan

日本、文化遺産(iii)(iv)

 

■ディルムン古墳群

Dilmun Burial Mounds

バーレーン、文化遺産(iii)(iv)

 

■バガン

Bagan

ミャンマー、文化遺産(iii)(iv)(vi)

 

■シエンクワンにおけるジャー状巨石遺跡群－ジャール平原

Megalithic Jar Sites in Xiengkhuang - Plain of Jars

ラオス、文化遺産(iii)

 

■ブジ・ビムの文化的景観

Budj Bim Cultural Landscape

オーストラリア、文化遺産(iii)(v)

 

■ライティング・オン・ストーン／アイシナイピ

Writing-on-Stone / Áísínai'pi

カナダ、文化遺産(i)(iii)(iv)(vi)

 

■ポート・ロイヤルの水没都市－残存と継続の文化的景観

Sunken City of Port Royal – A Relict and Continuing Cultural Landscape

ジャマイカ、文化遺産(iii)(v)(vi)

 

■植民時代のパナマ地峡横断ルート

※「パナマのカリブ海沿岸の要塞群：ポルトベロとサン・ロレンソ」「パナマ・ビエホの考古遺跡とパナマ歴史地区」の統一・範囲拡大

Colonial Transisthmian Route of Panamá

パナマ、文化遺産(ii)(iv)(v)(vi)

 

■古代鉄冶金遺跡群

Ancient ferrous metallurgy sites

ブルキナファソ、文化遺産(iii)(iv)(vi)

 

■虐殺記念サイト：ニヤマタ、ムランビ、ギソチ、ビセセロ

Sites mémoriaux du génocide : Nyamata, Murambi, Gisozi et Bisesero

ルワンダ、文化遺産(iii)(vi)

アイスランド、ヴァトナヨークトル氷河の絶景

 

＜自然遺産10件＞

 

■ヴァトナヨークトル国立公園－炎と氷のダイナミックな自然

Vatnajökull National Park - dynamic nature of fire and ice

アイスランド、自然遺産(viii)

 

■シーラ森林生態系

Sila Forests Ecosystems

イタリア、自然遺産(ix)(x)

 

■地中海アルプス

Alpi del Mediterraneo – Alpes de la Méditerranée

イタリア／フランス／モナコ共通、自然遺産(viii)

 

■クズルウルマク川のデルタ湿原と鳥類保護区

Kızılırmak Delta Wetland and Bird Sanctuary

トルコ、自然遺産(vii)(x)

 

■フランス南半球の大地と海

French Austral Lands and Seas

フランス、自然遺産(vii)(ix)(x)

 

■ヒルカニア森林群

Hyrcanian Forests

イラン、自然遺産(ix)(x)

 

■ゲッボル、韓国の干潟

Getbol, Korean Tidal Flat

韓国、自然遺産(viii)(ix)(x)

 

■中国湾部、黄海－渤海沿岸の渡り鳥保護区群

Migratory Bird Sanctuaries along the Coast of Yellow Sea-Bohai, Gulf of China (Phase I)

中国、自然遺産(ix)(x)

 

■マンタリンガハン山景観保護区

Mt. Mantalingahan Protected Landscape

フィリピン、自然遺産(ix)(x)

 

■ジュベル・カトラニ

Jebel Qatrani

エジプト、自然遺産(viii)

 

 

＜複合遺産３件＞

 

■オフリド地域の自然遺産及び文化遺産

※マケドニアの同名世界遺産のアルバニアへの範囲拡大

Natural and Cultural Heritage of the Ohrid region

アルバニア、複合遺産(i)(iii)(iv)(vii)

 

■パラチの文化と生物多様性

Paraty Culture and Biodiversity

ブラジル、複合遺産(ii)(v)(vi)(vii)(x)

 

■マンデンの歴史遺産群と文化的景観群

Sites historiques et paysages culturels du Manden

マリ、複合遺産(ii)(iv)(x)

 

 

［関連記事］

　※いずれもより以前の関連記事にリンクあり

世界遺産NEWS 19/05/14：ICOMOSが百舌鳥・古市古墳群に登録勧告（続報）

世界遺産NEWS 19/05/21：2019年、世界遺産候補地の勧告結果（続々報）

世界遺産NEWS 19/07/08：速報！ 2019年新登録の世界遺産!!（続々々報）

世界遺産NEWS 19/05/24：2020年の世界遺産候補地

世界遺産NEWS 17/05/25：2018年の世界遺産候補地

世界遺産NEWS 17/07/31：文化庁文化審議会、「百舌鳥・古市古墳群」の推薦を決定

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世界遺産NEWS 17/02/26：古代湖・オフリド湖に迫る危機

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■世界遺産NEWS 18/05/26：セルー・ゲーム・リザーブ周辺の森林が売却・伐採へ

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