世界遺産NEWS 18/04/26:「世界の記憶」登録凍結&制度改革へ

UNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)執行委員会は4月中旬、その政治性や透明性に対して批判が集まっていた「世界の記憶(世界記憶遺産、ユネスコ記憶遺産)」のさらなる制度改革を進める意志を固めました。

これにより2019年の新規登録は事実上、凍結される見込みとなりました。

 

ユネスコ、「世界の記憶」制度改正へ行動計画案発表 7月に改正案作成へ(産経新聞)

 

今回はこのニュースをお伝えします。

 

* * *

世界の記憶に関するニュースは世界遺産NEWSでも何度かお伝えしています。

政治に関するものだけで以下があります(新登録や分担金拠出停止のニュースは除いています)。

 

○世界の記憶の過去の関連ニュース

世界遺産NEWS 15/08/01:南京事件・慰安婦登録に対し反論書簡

世界遺産NEWS 16/10/06:世界の記憶と慰安婦文書を巡る対立

世界遺産NEWS 17/06/11:政治的対立が深まる世界の記憶

 

ここ数年の世界の記憶の活動はヒドいものでした。

もともと世界の記憶には2013年に審議され登録が見送られた「シンガポールの日本占領下における歴史証言コレクション」や、2015年に推薦された「パレスチナ・ポスター・プロジェクトのアーカイブ」のように政治性が問題となる物件はありました。

しかし、以下の2件が中国によって推薦され、2015年に後者の登録が決まるとこの流れが加速します。

 

  • 大日本帝国軍の性奴隷「慰安婦」に関するアーカイブ
  • 南京虐殺のドキュメント

 

世界の記憶はいまだに条約が存在せず、登録作業を行うプロジェクトです。

活動はUNESCOが1995年に発表した「記録遺産保護のための一般指針」に基づいて行われているのですが、目的について以下のように記されています。

 

○世界の記憶の目的

  • 最適な技術によって世界の記録遺産の保存を促進する
  • 記録遺産への普遍的アクセスを支援する
  • 記録遺産の存在や重要性について世界的な認識を高める

 

文書や石碑・地図・製図・絵画・音楽・口承・放送・映画・テープ・写真といった媒体に記録されたデータをデジタル的に撮影・録音・録画して保存するのみならず、それらを定期的に保全・公開し、記録の遺産という概念を世界に普及させることを目指しています。

 

このように保存・公開・普及を目的としているにもかかわらず、「南京虐殺のドキュメント」は推薦時はもちろん登録が決まってからもその内容は公開されず、ほとんどすべての過程が密室で決定されました。

世界遺産の場合は世界遺産委員会という任期6年(実質4年)21か国の委員国がネット中継も行われるオープンな場で決定を行っていることと対照的で、明らかに健全な姿ではありません。

 

さらに2016年には中国・韓国・日本・イギリス・インドネシア・オランダ・台湾・東ティモール・フィリピンの9か国15の市民団体・博物館が慰安婦関係の資料2,744点を集めた「慰安婦の声」を推薦しました。

こうした状況に対して日本は2016・2017年と2年連続で例年4月前後に支払われるUNESCO分担金の拠出を凍結し、制度改革を呼び掛けました。

当時のイリーナ・ ボコバ事務局長、2017年11月に就任したオードレ・アズレ事務局長が制度改革を約束・進展させたことで日本はいずれも年末に拠出を行っています。

「慰安婦の声」の登録については、政治的対立のある物件の判断は保留し、両国の対話を促すということで延期されています。

 

「南京虐殺のドキュメント」が推薦・登録されてから日・中・韓の市民団体は周辺国を巻き込んで競うように政治性の高い物件の登録活動を進めています。

中国・韓国が進める慰安婦や徴用工関連の登録活動や、日本と周辺国で進む慰安婦(中国・韓国と逆の立場からの資料)・通州事件・文化大革命・大躍進政策・チベット虐殺・天安門事件関連の登録活動が一例です。

 

複数国の市民団体が共同で登録活動を進めるのは世界の記憶の登録プロセスに原因があります。

世界の記憶は世界遺産と違って推薦を国家に限っておらず、また複数国にまたがる共同推薦物件の場合、各国の審議枠に入れる必要がありません。

単独でも国とは別に推薦可能ではありますが、年2件の審議枠を争う場合は国や地域の推薦物件が優先されるのが通例です。

つまり、複数国の市民団体が共同推薦を行うことで国を離れて自由に推薦できるようになるわけです。

 

* * *

 

さて、今回のニュースです。

 

産経新聞のニュースによると、UNESCOのアズレ事務局長はUNESCO執行委員会の開催前に改革案をまとめた行動計画案を提出したようです。

この行動計画案の趣旨は以下となっています。

 

  1. 2018年5~6月まで加盟国から意見を聴取してまとめる
  2. 同年7月に改正案を作成する
  3. 10月のUNESCO執行委員会で改正案の合意を行い、審査プロセスを再開させる

 

4月中旬に開催された58か国からなる執行委員会はこの行動計画案を検討し、さらなる修正を求めました。

リンクのニュースによると「拙速過ぎる」「改革過程に加盟国をもっと参加させるべきだ」という意見が相次いだということです。

この結果、修正行動計画案が10月の執行委員会に提出されることになりました。

 

世界の記憶の最大の問題は、審議が不透明・非公開で、中立的な立場から登録が行われていない点にあります。

このため世界遺産委員会のように加盟国が参加できる枠組みを求めているものと思われます。

 

世界の記憶の登録は隔年で開催されるIAC(国際諮問委員会)で決定されています。

前回の第13回IACは2017年11月に開催されており、次回は2019年の予定です。

2019年の登録には同年はじめまでの推薦が必要ですが、登録プロセスが定まるまでUNESCOは登録を受け付けない方針であることから、登録再開は2021年にずれ込むとの見方が優勢です。

 

* * *

 

世界の記憶の政治化は世界中で進んでおり、ユダヤ人虐殺、アルメニア人虐殺、ルワンダ虐殺をはじめ多くの悲劇の登録活動が活発化しています。

こうした悲劇を忘れてはならないという点には同意しますが、政治的に利用され、対立を煽っているのも事実です。

 

UNESCOはふたつの世界大戦の反省から生まれた組織で、「国際連合教育科学文化機関」の名前の通り教育・科学・文化を促して国際平和と人類共通の福祉に貢献することを目的としています。

本末転倒ですね。

 

個人的には世界の記憶の登録作業を完全に停止して、条約化する道筋を作るべきではないかと思うのですが難しいのでしょうか?

そもそも世界の記憶の目的は媒体に記録されたデータの保存・公開・普及で、媒体自体の保存ではありません。

この遺産事業を根本から見直す時期に来ているのかもしれません。

 

 

[関連記事]

UNESCO遺産事業リスト集3.世界の記憶リスト

世界遺産NEWS 17/11/17:2017年新登録の世界の記憶リスト

世界遺産NEWS 17/06/11:政治的対立が深まる世界の記憶(より以前の記事へのリンクあり)

 


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