世界遺産NEWS 18/02/24:ネアンデルタール人が描いた最古の洞窟壁画発見か

スペインの世界遺産「アルタミラ洞窟と北スペインの旧石器時代の洞窟画」の構成資産のひとつであるラ・パシエガ洞窟で調査を行っている国際科学チームは2月22日、同洞窟で発見された壁画が64,800年以上前のものであることをアメリカの科学雑誌『サイエンス』誌上で発表しました。

 

これまで最古と言われていた洞窟壁画は4万年ほど前のものなので、記録を大幅に書き換えることになります。

また、壁画を描いたのはヨーロッパで数多くの洞窟壁画を残しているクロマニヨン人ではなく、旧人にあたるネアンデルタール人と考えられているようです。

 

Neanderthals were capable of making art(BBC Newsより。英語)

 

今回はこのニュースをお伝えします。

 

* * *

これまで世界最古の壁画と言われていたのは、少なくとも40,000年前という測定結果が出ているスペインのエル・カスティーヨ洞窟①や、約37,000~32,000年前とされるフランスのショーヴェ洞窟②の壁画です。

ただ、このふたつの年代は有名なアルタミラ洞窟①やラスコー洞窟③の20,000~12,000年前という年代を大幅に上回っていることから測定結果を疑問視する研究者もいます。

※①世界遺産「アルタミラ洞窟と北スペインの旧石器時代の洞窟画(スペイン)」

 ②世界遺産「アルデッシュ、ショーヴェ・ポンダルク洞窟壁画(フランス)」

 ③世界遺産「ヴェゼール渓谷の先史遺跡群と装飾洞窟群(フランス)」

 

今回、イギリスやドイツを中心とする国際科学チームが『サイエンス』誌上で発表した研究は世界遺産「アルタミラ洞窟と北スペインの旧石器時代の洞窟画」に登録されている18の洞窟のひとつであるラ・パシエガ洞窟で発見された壁画に関するものです。

赤い垂直線と水平線が交わるハシゴのような単純な壁画があるのですが、線の顔料をウラン=トリウム年代測定法(後述)で調べた結果、少なくとも64,800年前のものであることが明らかになったとしています。

40,000年前でも「古すぎる」と言われていたわけですから、とんでもない測定結果です。

 

これ以外にもスペイン国内のいくつかの洞窟のサンプルを測定しており、マルトラヴィエソ洞窟のステンシル手形(手の上から顔料を吹き付けた手形)は66,700年前、アルデレス洞窟の鍾乳石に吹き付けられた塗料は65,500年前、アヴィオネス海洋洞窟の貝殻装飾については115,000年前という結果を発表しています。

 

現生人類(ホモ・サピエンス・サピエンス。新人)のヨーロッパ到達は約4万年前と考えられていますから、この説が正しいとすると、これらの洞窟壁画や貝殻装飾はそれ以前にヨーロッパにいた旧人、ネアンデルタール人(ホモ・サピエンス・ネアンデルターレンシス)によるものということになります。

エル・カスティーヨ洞窟やショーヴェ洞窟の壁画をネアンデルタール人の作品と考える学者もいますが、グッと現実味が増したことになります。

これまでもネアンデルタール人は火や石器や顔料を使用し、埋葬を行っていたことが知られており、すでに「文化」を持っていたと言われ、ムスティエ文化などの例が存在します。

そして彼らの脳の容積は1,600ccで、現生人類の一派であるクロマニヨン人の約1,500ccをも上回っていたようです。

 

先ほどの赤いハシゴ状の壁画ですが、何かを抽象化した象徴表現とも考えられます。

象徴表現は言語に通じる現生人類特有の認知能力とされていましたが、ネアンデルタール人もこの能力を持っていたのかもしれません。

もしかしたらネアンデルタール人が高度な文化を生み出し、現生人類に伝えたのかもしれませんね。

 

それにしてもあまりに古い年代が測定されたわけですが、これらは信頼できる結果なのでしょうか?

 

一般的に考古学では放射性炭素年代測定法という方法が用いられます。

生物が死ぬと体内の炭素が崩壊して別の炭素同位体になる性質を利用して、その含有比で年代を測定する方法です。

このため生物由来の有機物でなければ年代を測定することができません。

 

ところが、今回測定されたのは顔料に含まれる鉱物です。

これは地質学で使われているウラン=トリウム年代測定法の応用で、炭酸塩中のトリウム同位体の含有比を調べることで年代を測るものです。

考古学ではまだそれほど使われていないようですが、50万年前まで信頼性は非常に高いということで、今後さまざまな分野への応用が期待されています。

 

* * *

1か月ほど前に「世界遺産NEWS 18/01/31:カルメル山でユーラシア最古の現生人類の化石発見」という記事を書きましたが、今回の発表も人類史を書き換える可能性があるものです。

 

ラスコー洞窟の壁画はぼくの子供時代の憧れのひとつでしたが、1万数千年前の壁画とされていました。

ショーヴェ洞窟で壁画が発見されると4万~3万年前とされ、今回の壁画は6万5千年前です。

どんどん古くなっていきますね。

 

こうして年代が更新されていくのは新たな発見が続いているのはもちろんですが、年代測定法が変わっていることも原因かもしれません。

もしかしたら既存の洞窟壁画の年代も変化していくかもしれません。

 

 

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