世界遺産NEWS 24/09/25:山形大学、ナスカで303点の地上絵を発見、制作目的の謎に迫る
山形大学とIBM研究所は9月24日、ペルーのナスカで新たに303点の具象的な地上絵を発見したことを発表しました。
同様の地上絵はこれまでに430点発見されていましたが、ほぼ倍増し、さらに500点以上の発見が見込まれています。
坂井正人教授をはじめとする研究チームは論文で地上絵を幾何学的地上絵の線状・面状、具象的地上絵の線タイプ・レリーフタイプの4種に分類し、制作目的にも触れています。
それによると幾何学的地上絵で巨大なネットワークを表現し、宗教的役割を持つ線タイプの具象的地上絵を平地に描き、社会的役割を持つレリーフタイプの地上絵を丘に描いたということになりそうです。
■AIによってナスカ調査が加速したことで、既知の具象的な地上絵の数がほぼ倍増し、地上絵の目的が明らかになった(山形大学)
今回はこのニュースをお伝えします。
なお、「具象的」とは人間や動物・道具など具体的な形を備えているさまを示し、ここでは直線や曲線・多角形といった幾何学的な図形でないものを表しています。
* * *
山形大学と同大ナスカ研究所(以下、山形大)はペルーのナスカ周辺で新たな地上絵を発見しつづけています。
今回の発見までに同地では430点の具象的な地上絵が確認されていましたが、そのうち318点は山形大によるものです。
公式サイトから発見の項目を抜粋し、本サイトの過去記事も列挙してみましょう。
■ナスカ研究所による発見
- 2006年4月:ナスカ台地南部において発見した、新しい動物の地上絵の発表
- 2011年1月:ナスカ台地南部において発見した、2点の新しい地上絵(人間の頭部、動物)の発表
- 2013年4月:ナスカ台地の中心部において発見した、人物2点の新しい地上絵の発表
- 2014年4月:ナスカ市街地の近郊のアハ地区において発見した、17頭のラクダ科動物リャマの地上絵の発表
- 2015年7月:ナスカ市街地近郊において発見した、24頭の動物の地上絵の発表
- 2016年4月:ナスカ台地で新地上絵「舌を伸ばした動物」を発見
- 2019年11月:ナスカ台地とその周辺部で143点の新たな地上絵を発見
- 2022年12月:ナスカ台地とその周辺部で168点の新たな地上絵を発見
■本サイトの過去記事
- 世界遺産NEWS 16/04/25:山形大学、ナスカでまたまた新たな地上絵発見
- 世界遺産NEWS 18/04/14:ナスカ近郊で新たな地上絵50点以上を発見
- 世界遺産NEWS 19/11/17:山形大学、ナスカで143点の地上絵を発見
- 世界遺産NEWS 22/12/11:山形大学、ナスカで新たに地上絵168点を発見
そして今回のニュースです。
山形大とIBM研究所は9月24日、ナスカ周辺で新たに303点の具象的な地上絵を発見したことを発表しました。
430点から一気に1.7倍も増えたことになります。
それだけでなく、今回の成果はわずか半年間のものであり、地上絵候補1,309点の内の約1/4、341点の調査結果にすぎません。
今後も残り968点を調べることで500点以上の新発見が期待されています。
これ以外に幾何学的な地上絵も見つかっており、ナスカ文化の研究が一気に進むことになりそうです。
以下ではもう少し詳細に解説します。
山形大はこれまで衛星写真や航空写真・ドローンを活用したリモートセンシング技術や画像解析、これらを背景とした現地調査によって発見を続けてきました。
近年はこれに加えてIBMが技術提供するAIを活用し、過去の画像を利用したディープラーニング(コンピュータが大量のデータから特徴を見出す機械学習の一種)によって検出アルゴリズムを構築し、地上絵候補を自動的に抽出する方法を採用しています。
これにより約400平方kmというナスカ台地の全域を効率的に調査し、人間の目では判別が難しい消えかけたり埋もれかけたりしている地上絵をあぶり出すことが可能になり、発見率を16倍に引き上げることに成功しました。
そして47,410点の高解像度航空写真をAIで解析し、地上絵の候補として1,309点を検出して可能性が高い順に3つのランクに分類しました。
その中でもっとも有力な341点に関して2022年9月から2023年2月にかけて現地調査を実施しました。
その結果、人間やその頭部、ラクダ科などの家畜、魚や鳥のような野生動物をはじめ303点の具象的地上絵と42点の幾何学的地上絵の確認に至りました。
この研究成果はアメリカ科学アカデミーの機関誌PNASに「AIによってナスカ調査が加速したことで、既知の具象的な地上絵の数がほぼ倍増し、地上絵の目的が明らかになった "AI-accelerated Nazca survey nearly doubles the number of known figurative geoglyphs and sheds light on their purpose"」とのタイトルで掲載されました。
そしてこの論文において、研究チームは地上絵の形状・規模・分布から制作の方法や目的について興味深い考察を展開しています。
まず、地上絵を以下の主要4種に分類しています。
■地上絵の分類
- 幾何学的
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- 線状(直線、曲線、U形、ジグザグ形、螺旋形)
- 面状(台形、三角形、長方形、無定形)
- 具象的
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- 線タイプ(野生動物、植物、道具、動物形)
- レリーフタイプ(人間や人間形、ラクダ科の家畜、野生動物)
地上絵の描画方法ですが、ナスカ台地の砂漠の表面は強烈な太陽光によって暗褐色に変色しています。
この表面の小石を取り除くことで下の白い砂の層が露出し、黒と白の描き分けが可能になります。
線で構成される幾何学的地上絵や線タイプの具象的地上絵はこのように描かれています。
レリーフタイプの具象的地上絵では表面の小石を取り除いて白い面を露出させるだけでなく、取り除いた小石を組み上げて黒の線や面を作り出すこともしていました。
ただ、この作業は多大な労力を必要とするためか、レリーフタイプは平均9mほどの小型の地上絵に限定されています。
よく知られたコンドルやハチドリ、サル、クモ、クジラといった巨大な地上絵はすべて線タイプで、平均90mもの大きさを誇ります。
線タイプとレリーフタイプは規模だけでなく、形状や分布にも大きな違いがあることが明らかになりました。
線タイプでは64%が野生動物をモチーフとしているのに対し、レリーフタイプでは人間や人間に近い人間形、リャマのようなラクダ科の家畜、これらの頭部といった人間に関係したものが81.6%を占めています。
線タイプに人間や家畜の絵がまったく見られない一方で、レリーフタイプでは野生動物の絵が6.9%しかありません。
明らかに描き分けられていたことがわかります。
また、線タイプは直線や台形といった巨大な幾何学的地上絵に隣接しており、300~950mほどの平地に集中しています。
ナスカ台地にはこうした土地が10か所ほどありますが、平地なので地上から絵の全貌を確認することはできません。
これに対し、レリーフタイプは丘の中腹に単独の作品、あるいはなんらかの場面を描いた連続した作品として制作されており、周辺の小道から確認することができます。
これらから研究チームは以下のような仮説を提唱しています。
まず、10kmを超えるような直線や台形の巨大な幾何学的地上絵はカワチ神殿やピラミッド群のあるナスカ渓谷と、ティエラ・ブランカス川とアハ川が合流するインヘニオ渓谷を結ぶ大規模なネットワークを示していると見られます。
両渓谷には聖地のような神聖な役割があり、直線や台形は巡礼路や地下水源、暦や星座、夏至の日没方向といった宗教的・天文学的な意味があったようです。
そしてそれらに隣接して大型の線タイプの具象的地上絵を描き、なんらかの儀礼活動を行っていたと思われます。
もしかしたら歩いて直線や台形の地上絵から線タイプの地上絵に移動し、野生動物を利用した儀式を行っていたのかもしれません。
一方、レリーフタイプの具象的地上絵は曲がりくねった小道の合流地点の丘などに描かれています。
小道は人々が歩いて踏み固めたものと見られ、ここを通る人々の目印になっていたようです。
目印は人間活動に関連したものなので、個人や小集団にとって社会的な役割を果たしていたものと言えそうです。
このように線タイプとレリーフタイプの具象的地上絵はそれぞれ異なる役割を担っていたと考えられます。
主として前者は大規模な宗教的役割、後者は小規模な社会的役割ということなのかもしれません。
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いやー、おもしろいですね!
謎に包まれていたナスカの地上絵ですが、ここまで明らかになっているのですね。
今後、さらに500点以上の地上絵の発見が見込まれているのも楽しみです。
文字を持たなかったアンデス文明では情報を絵の組み合わせで表現し、土器や壁・布などに描いていました。
今後、こうした遺物や地上絵を解析することでナスカ文化の謎が解明されていくものと期待されます。
なお、上記はぼくが英語の論文を大ざっぱに解釈したものですが、正確性を欠いているかもしれません。
興味深い記述がまだまだあるので、一読することをオススメします。
[関連サイト&記事]
山形大学ナスカ研究所(山形大学)
世界遺産NEWS 16/04/25:山形大学、ナスカでまたまた新たな地上絵発見
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世界遺産NEWS 22/12/11:山形大学、ナスカで新たに地上絵168点を発見