世界遺産NEWS 22/08/01:「佐渡島の金山」23年登録を断念、推薦書再提出へ
2023年の第46回世界遺産委員会での世界遺産登録を目指していた「佐渡島(さど)の金山」ですが、UNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)から登録推薦書の不備を指摘されていたことがわかりました。
このため末松文部科学大臣は2023年の登録を断念し、2024年の登録を目指して再推薦する意向を表明しました。
■佐渡金山、来年の世界遺産登録断念 推薦書に不備、再提出へ(産経新聞)
今回はこのニュースをお伝えします。
なお、「佐渡島の金山」の内容や韓国との問題については最後にリンクを張った記事「世界遺産NEWS 21/12/29:文化審議会『佐渡島の金山』を世界遺産推薦候補に選定、韓国は抗議」や、さらに以前の過去記事を参照してください。
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新潟県佐渡市の「佐渡島の金山」ですが、2023年の世界遺産登録を目指して今年2月1日にUNESCO世界遺産センターに登録推薦書を提出しました。
この時点では以下のようなスケジュールを見込んでいました。
■予定されていたスケジュール
○2022年
- 1月:内閣にて推薦を閣議了解
- 2月1日まで:登録推薦書をUNESCO世界遺産センターへ提出
- 夏~冬:ICOMOS(イコモス=国際記念物遺跡会議)が現地調査を含む専門調査を実施
○2023年
- 4~5月:ICOMOSが評価報告書を世界遺産センターへ提出、勧告を発表
- 6~7月:第46回世界遺産委員会で世界遺産リストへの登録の可否が決定
しかし、報道によると、推薦書を送った当月の2月下旬にすでに世界遺産センターから書類の不備を指摘されていたそうです。
内容は、構成資産のひとつである西三川砂金山について、導水路が途切れている部分があり、それに対する説明が欠落していると指摘されたようです。
これに対して文化庁は、途切れている箇所も含めて導水路跡として一体のものであると説明し、オードレ・アズレ事務局長に書簡を送ったり、事務次官を派遣して説得を行いましたが認められませんでした。
予定では、世界遺産センターから文化遺産の調査・評価を行うICOMOSに書類が送られて、今年の夏から秋にかけて現地調査を含む専門調査が行われる予定でした。
しかし、世界遺産センターはICOMOSへ送っておらず、登録プロセスが中止されたことが明らかになりました。
これを受けて今回の報道となったわけですが、2月に発覚した問題をここまで公にしなかったことについて大きな混乱と批判が巻き起こっています。
新潟県や佐渡市の関係者ですら寝耳に水だったようで、関連の議員連盟や自民党県連などが「公式な説明も謝罪も行われていない」「信頼関係が損なわれた」と厳しく非難し、反省と改善・ふさわしい体制の構築を求めて末松文部科学大臣に申し入れを行っています。
文化庁はwebサイトで以下のようなコメントを掲載しています。
■「佐渡島の金山」の推薦書について
- 世界文化遺産として推薦している「佐渡島(さど)の金山」について、今般、ユネスコに推薦書を改めて提出することとしました
「佐渡島の金山」について、ユネスコ事務局から、審査の結果、推薦書の一部に十分でない点があるとの判断が示されました。これに対し、ロシアによるウクライナ侵略を受け、今年の世界遺産委員会のプロセスが遅れている中、ユネスコ事務局にその再考を求め、議論を続けてきましたが、ユネスコ事務局の判断は変わらないことが最終的に確認され、これ以上議論を続けても、審査が前に進まない状況です。他方、今年度から推薦書の様式が変更され、提出には新様式に沿った改訂作業が必要であり、推薦書暫定版の提出期限は9月末とされています。
このような状況の中、ユネスコにおける審査をできる限り早期かつ確実に進め、登録を実現するため、「佐渡島の金山」の推薦書を改めて提出することとしました。今後、9月末までに推薦書暫定版を、来年2月1日までに正式な推薦書を提出します。

このような不手際が起こった一因として、急な推薦が挙げられます。
通常の推薦プロセスでは、7月に文化庁の文化審議会の世界文化遺産部会が文化遺産の推薦候補を選定し、9月に自然遺産候補も含めて世界遺産条約関係省庁連絡会議が検討して推薦物件を決定することになっています。
そして9月末までに暫定推薦書を世界遺産センターに提出し、翌年1月に内閣が閣議了解した後、正式な登録推薦書を2月1日までに提出する運びです。
ところが昨年はコロナ禍や選定基準の見直しなどでスケジュールが乱れ、世界文化遺産部会が2021年12月28日までずれ込んでしまいました。
ここで推薦を決定したのですが、関係者や省庁間でさまざまな綱引きがあったようです。
この物件の推薦を韓国が強く反対していることは過去記事で何度も書いています。
本来、文化庁は世界文化遺産部会の決定を受理し、判断を世界遺産条約関係省庁連絡会議と内閣に任せればよいのですが、このときは「政府内で総合的に検討する」として推薦を明言しないという異例の事態となりました。
背景には韓国との問題があったといわれています。
結局、岸田首相の後押しもあり、2022年1月31日に世界遺産条約関係省庁連絡会議を開催して推薦を確認し、2月1日に世界遺産センターに登録推薦書を送付しました。
これに対して韓国は反対キャンペーンを行い、オードレ・アズレ事務局長に深い懸念を伝え、反対の署名を世界遺産センターや世界遺産委員会委員国に送付しています。
ただ、推薦を急いだ結果として、これまで行っていた暫定推薦書の提出を行うことができませんでした。
暫定推薦書を9月末までに提出すると、世界遺産センターが書類上の不備をチェックして12月末までに返事を行うことになっています。
これができれば翌年2月1日までに提出する正式な登録推薦書に反映させることができたわけです。
なぜここまで急ぐ必要があったのでしょうか?
世界遺産登録は世界遺産委員会の21委員国が行うのですが、2021~25年は日本が委員国となっています。
そして2024年には韓国が参加することが決定しています。
ですから韓国のいない2023年までに登録を決定したかった、というのがひとつの憶測です。
また、安倍首相の時代からの首相マターであり、引けないとする話もあります。
一方で、日本は2021年には推薦を行っていませんから(2022年開催予定の第45回世界遺産委員会では日本の推薦物件はありません)、特に急いではいないという意見もあったりします。
今回の問題に対する韓国の影響ですが、文化庁は無関係としています。
UNESCOが日韓の対立に懸念を示しているという話は耳にしますが、基本的に世界遺産登録は世界遺産委員会が行うものですから、UNESCOの事務局がそのような活動をすることは考えにくいと思われます。
7月28日には末松文部科学大臣が会見を開き、2023年の登録を断念し、2023年2月1日に登録推薦書を再提出して2024年の登録を目指す意向を表明しました。
文化庁は今年9月末までに暫定推薦書を世界遺産センターに送付するとしています。
ただ、2022年6月19~30日にロシアのカザンで開催が予定されていた第45回世界遺産委員会が延期されており、今後のスケジュールも未定です。
このためそれ以降の世界遺産委員会の日程も見通せない状況となっています。
そのうえで暫定的なスケジュールは以下となっています。
■「佐渡島の金山」の今後のスケジュール
○2022年
- 9月末まで:暫定推薦書をUNESCO世界遺産センターへ提出
○2023年
- 2月1日まで:登録推薦書をUNESCO世界遺産センターへ提出
- 夏~冬:ICOMOS(イコモス=国際記念物遺跡会議)が現地調査を含む専門調査を実施
○2024年
- 4~5月:ICOMOSが評価報告書を世界遺産センターへ提出、勧告を発表
- 6~7月:第47回世界遺産委員会で世界遺産リストへの登録の可否が決定
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※各記事にさらに過去の記事へのリンクあり