世界遺産NEWS 21/09/01:アフガニスタンの混迷と文化財保護の呼び掛け
8月中旬にタリバンがアフガニスタンの首都カブールを制圧し、ほぼ全土を掌握しました。
現在は新政権発足の準備が進められています。
タリバンは2001年に世界遺産「バーミヤン渓谷の文化的景観と考古遺跡群」のふたつの磨崖仏(まがいぶつ。岩壁に収められた仏像)を爆破したイスラム教原理主義組織であり、文化財の破壊・略奪が懸念されています。
これに対しUNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)は声明を出し、文化遺産の保全と国際法の遵守を呼び掛けています。
■Afghanistan - UNESCO calls for the protection of cultural heritage in its diversity(UNESCO)
今回はこのニュースをお伝えします。
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いまから20年前の2001年2月26日、タリバンはイスラム教の偶像崇拝禁止の教えに反しているとして6世紀に築かれたバーミヤン渓谷の磨崖仏の破壊を宣言しました。
国連をはじめ多くの国際組織が反対を表明し中止を要求しましたが、3月12日に高さ55mを誇る西大仏と高さ38mの東大仏が爆破されました。
その様子がインターネットで配信されたこともあり、たいへんな反響を呼びました。
そして2021年8月16日、タリバンは首都カブールを制圧し、アフガニスタン全土の多くを掌握しました。
政府を率いていたアシュラフ・ガニー大統領はアフガニスタンをひそかに出国し、UAE(アラブ首長国連邦)に退避しています。
これを受けてUNESCOのオードレ・アズレ事務局長は、「アフガニスタンの文化遺産の多様性の保護および国際法の最高度の遵守、破壊や略奪から文化遺産を守るためのあらゆる必要な予防措置の実施を求める」との声明を発表。
「アフガニスタンの豊かで多様な遺産は同国の歴史とアイデンティティに不可欠であるばかりでなく、人類全体にとっても重要であることから保護されなければならない」と訴えています。
アフガニスタンには現在以下2件の世界遺産があります。
こうした遺跡だけでなく、カブール国立博物館をはじめとする博物館や美術館には貴重な遺物や芸術作品が収蔵されており、これらの安全も懸念されています。
■アフガニスタンの世界遺産
- ジャムのミナレットと考古遺跡群
- バーミヤン渓谷の文化的景観と考古遺跡群
また、日本は破壊されたバーミヤン渓谷の遺跡群の保護・保全に多大な貢献を行ってきました。
文化庁が主導する文化遺産国際協力コンソーシアムも声明を出し、「文化遺産は人類の歴史を語る共有の宝であるとともに,国民の統合とアイデンティティーの拠り所として,また地域や国家の発展のためにも重要な役割を果たすことが広く認識されています。文化遺産に対する略奪や破壊を未然に防ぐために,すべての勢力や個人に対し,節度を保った冷静な行動を強く求めます。また,世界の人々とこのような憂慮を共有したいと思います」としています。
全文は以下で参照ください。
■アフガニスタンの文化遺産保護に関する緊急声明(文化遺産国際協力コンソーシアム)
8月30日には国連の安全保障理事会が外国人とアフガニスタン人の自由で安全な出国を求める決議案を採択しました。
決議案は女性や子供・少数派を含めて人権擁護を要求するものとなっています。
この決議案は15理事国中、13か国の賛成で可決されましたが、中国とロシアは棄権しています。
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タリバンは現在、「シューラ」と呼ばれる評議会を中心とする新政権の発足準備を進めています。
瓦解した政府の関係者や民族・部族の代表らとも協議を進めており、独裁政権ではないことをアピールしているようです。
これにより国際社会に正統な政権としての承認を求めるものと思われます。
タリバンはこの他にも大学への女性の登校を認めるなど以前の政権との違いを強調しています。
しかし、女性や芸能人への虐待や学者への脅迫なども明らかになっています。
また、8月26日にアメリカ兵13人を含む100人以上の犠牲者を出したIS(イスラム国)系過激派組織ISKP(イスラム国ホラサン州)によるテロをはじめ、タリバンと敵対する諸勢力の台頭も確認されています。
これに対するアメリカのドローンによる報復攻撃で多数の民間人犠牲者が出たという報道も出ています。
アフガニスタンは混迷を極めており、先はまったく見えない状況です。
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