世界遺産NEWS 21/05/26:エルサレムで続くイスラエルとパレスチナの衝突

イスラエルとパレスチナが領有権を争っているエルサレム旧市街ではイスラエル警察とパレスチナ人の間で激しい衝突が起きています。

そしてその衝突をきっかけにパレスチナ自治区であるガザ地区で5月10日からイスラム組織ハマスによるロケット弾攻撃が開始されており、イスラエルの攻撃機が空爆で応戦しています。

5月21日に停戦が発効していますが衝突は後を絶たず、予断を許さない状況です。

 

Israel-Gaza violence: The conflict explained(BBC)

 

今回はこのニュースをお伝えします。

 

なお、戦闘のひとつのきっかけとなった東エルサレムの旧市街は「エルサレムの旧市街とその城壁群」として世界遺産リストに掲載されています。

1,121件を数える世界遺産の中で唯一、所属国の書かれていない物件で、同欄には便宜的に「エルサレム(ヨルダン申請遺産)"Jerusalem (Site proposed by Jordan)"」と記されています。

 

* * *

エルサレム旧市街、神殿の丘。イスラエル警察とパレスチナ人の衝突の様子

4月中旬~5月中旬まで、イスラム教圏ではラマダン(断食月。太陽が出ている間は飲食物を口にしない断食・斎戒)が行われていました。

例年、エルサレムの神殿の丘にはラマダンのあいだ多数のイスラム教徒が集まって、岩のドームを巡ったり、アル=アクサー・モスクで祈りを捧げています。

神殿の丘の場所については下の写真を見て確認してください。

 

イスラム教徒には五行と呼ばれる義務がありますが、1日5度行われるサラート(礼拝)は最大聖地メッカのカーバに向かって行われます。

しかし、もともとはエルサレムの神殿の丘に向かって行われていました。

神殿の丘はイスラム教徒にとってメッカ、メディナに次ぐ第3の聖地といわれています。

 

ところで、「神殿の丘」の「神殿」は何を意味するのでしょうか?

 

この神殿は『旧約聖書』に伝わるエルサレム神殿のことで、イスラエル王国の国王ソロモンが紀元前10世紀に創建したと伝わっています(第一神殿/ソロモン神殿)。

紀元前6世紀に新バビロニアに破壊された後、再建され(第二神殿)、紀元前20年頃にユダヤ王国の国王ヘロデによって大幅に拡張されました(第三神殿/ヘロデ神殿)。

 

しかし、エルサレムはユダヤ戦争(66~73年)でローマ帝国に侵略され、70年に神殿は西面の壁、いわゆる「嘆きの壁」を残して徹底的に破壊されてしまいました。

以降の時代もユダヤ教徒は他に神殿を築いておらず、エルサレム神殿はユダヤ教唯一の神殿で、その再建は悲願とされています。

 

その後、1世紀にキリスト教、7世紀にイスラム教が確立され、ユダヤ教をそれぞれ独自に解釈し拡張していきました。

神殿の丘は3教いずれにとっても聖地だったわけですが、691年にイスラム王朝であるウマイヤ朝の第5代カリフ、アブド・アルマリクが占領して岩のドームとアル=アクサー・モスクを建設し、聖地として整備しました。

 

1948年のイスラエル建国を切っ掛けに第1次中東戦争が勃発。

その結果、旧市街を含む東エルサレムをヨルダン、新市街を中心とした西エルサレムをイスラエルが統治することになりました。

 

ところが1967年の第3次中東戦争でイスラエルが東エルサレムやガザ地区、ヨルダン川西岸などを占領し、撤退したガザ地区など一部を除いて現在まで実効支配を続けています。

エルサレムについてはその後、ヨルダンが領有権を放棄しています。

 

* * *

神殿の丘の岩のドーム、アル=アクサー・モスク、嘆きの壁
中央の四角形の壁の内側が神殿の丘。黄金色のドームが岩のドーム、右の銀色のドームがアル=アクサー・モスク、ふたつのドームの間の下辺りに見える壁面が嘆きの壁 (C) AVRAHAM GRAICER

4月中旬にラマダンがはじまってからイスラエル警察はパレスチナ人の集会を制限し、旧市街・イスラム教地区の入口であるダマスカス門をバリケードで封鎖してしまいました。

5月7日のラマダン最後の金曜日以降は神殿の丘で連日、パレスチナ人とイスラエル警察の間で衝突が起きました。

10日にはパレスチナ人のデモが制圧され、イスラエル側に21人、パレスチナ側に331人の負傷者が出ています。

 

同日、イスラム組織ハマスやパレスチナ・イスラム聖戦といった反イスラエル組織はこれらに対する報復としてガザ地区からエルサレムにロケット弾による攻撃を行いました。

ほとんどはアイアン・ドームと呼ばれる防衛システムによって迎撃されましたが、一部はエルサレム郊外に着弾しています。

 

これにイスラエルが対抗して攻撃機によるガザ地区の空爆を開始しました。

ハマスはイスラエルのテルアビブなどに攻撃対象を拡大する一方、イスラエルはガザ地区に100回を超える攻撃を行いました。

こうした大規模な戦闘は2014年以来、7年ぶりとなっています。

 

* * *

ガザ地区の空爆の様子。中盤の町中の爆発はハマスによるロケット弾攻撃によるもの

5月20日、イスラエル政府とハマスはエジプトの仲介を受けて停戦で合意し、21日午前8時に発効しました。

ハマスの攻撃によってイスラエル側では子供ひとりを含む12人が死亡し、イスラエルの攻撃によってガザ地区では子供66人を含む243人が犠牲になっています。

 

イスラエルの空爆によってより多数の人が亡くなっているわけですが、ハマスが攻撃を誘発している側面もあります。

ハマスの拠点は住宅地や病院・報道機関といった攻撃のしにくい場所やその周辺に設置されています。

それに対してイスラエルは事前に空爆箇所を予告して退避を促したうえで、ピンポイントで爆撃を行っています。

ハマスにとって、パレスチナ人の犠牲者が出るのは計算のうえで、空爆後すぐにメディアに取材をさせています。

 

一方で、イスラエルはエルサレムやヨルダン川西岸などで入植を進めており、ユタや人地区とパレスチナ人地区を分ける分離壁を拡大させています。

イスラエルの裁判所は最近、パレスチナ人の土地所有権を否定し、ユダヤ人の所有権を認める判決を続けて出しており、東エルサレムのシェイクジャラ地区でもこの問題が激化しています。

これも今回の衝突の背景のひとつといわれています。

 

イスラエルはエルサレム旧市街についても開発を進めており、たびたび世界遺産委員会でも問題視されています。

「エルサレムの旧市街とその城壁群」は危機遺産リストに掲載されていますが、この理由にも挙げられています。

この辺りは関連記事を参照してください。

 

* * * 

停戦後にドローンで撮影されたガザ地区の空爆跡地 

5月21日に停戦合意が発効して以降、イスラエルとハマスは攻撃を控えています。

しかし、エルサレムでは翌21日には神殿の丘で衝突が起きており、パレスチナ人の投石に対してイスラエル警察が鎮圧を行っています。

 

パレスチナ人が皆、ハマスを支持しているわけではありませんが、ハマスの旗を掲げて支持を表明する人々も現れています。

憎しみの連鎖はさらに続いていくようです。

 

停戦がいつまで守られるのか、非常に心配です。

 

 

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