世界遺産NEWS 20/07/11:文化庁、新型コロナの影響で世界文化遺産候補選定を見送り
6月29日、文化庁は毎年7月に行っている世界文化遺産候補の選定を見送ることを発表しました。
新型コロナウイルスの影響により文化審議会に十分な時間を確保できないためとしています。
■令和2年度の世界文化遺産の推薦候補選定に関する文化審議会への諮問について(文化庁)
今回はこのニュースをお伝えします。
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現在日本は2020年の世界遺産委員会に「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」、2021年に「北海道・北東北の縄文遺跡群」を推薦済みです。
しかしながら新型コロナウイルスの影響を受けて今年6月29日~7月9日の日程で中国・福州で開催予定だった第44回世界遺産委員会は延期されており、日程は決まっていません。
2021年の世界遺産委員会で審議される物件についても今年夏~冬にかけてICOMOS(イコモス=国際記念物遺跡会議)やIUCN(国際自然保護連合)といった諮問機関が現地調査を含む専門調査を行わなければならないのですが、こちらもどうなるかわかりません。
日本国内の物件選定について、世界自然遺産候補は環境省や林野庁が中心となって長期的に準備を行っています。
世界文化遺産候補については毎年文化庁が自治体から立候補を募っており、3月末までに推薦書素案を提出することになっています。
ぼくが知る限り、2020年3月末までに以下3件の推薦書素案が提出されています。
- 金を中心とする佐渡鉱山の遺産群
- 飛鳥・藤原 -古代日本の宮都と遺跡群
- 彦根城
現在、世界遺産委員会への推薦は各国年1件に限られています。
そのため例年7月に文化審議会世界文化遺産部会へ諮問を行い、文化遺産候補を選定しています。
そして9月の世界遺産条約関係省庁連絡会議で日本として正式に推薦物件を決定します。
おおよそのスケジュールは以下となっています。
○登録を目指す世界遺産委員会の2年前
- 3月末日まで:世界文化遺産に立候補する自治体は推薦書素案を文化庁に提出
- 7月:文化庁の文化審議会が世界文化遺産候補を選定
- 9月:世界遺産条約関係省庁連絡会議で日本の推薦物件を決定
- 9月末日まで:可能なら暫定推薦書をUNESCO世界遺産センターへ提出
○登録を目指す世界遺産委員会の前年
- 1月:内閣が推薦を閣議了解
- 2月1日まで:登録推薦書をUNESCO世界遺産センターへ提出
- 夏~冬:自然遺産はIUCN、文化遺産はICOMOS、複合遺産は両組織が現地調査を含む専門調査を実施
○世界遺産委員会当年
- 4~5月:IUCN、ICOMOSが評価報告書を世界遺産センターへ提出、勧告結果を発表
- 6~7月:世界遺産委員会が世界遺産リストへの登録の可否を決定
しかし、今年2020年については十分な準備期間が設けられず審議時間もないということで、文化庁は文化審議会への諮問を行わないことを決めました。
これにより推薦書の評価も行われず、文化遺産候補も選定されないことになりました。
今後のスケジュールも未定です。
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推薦書素案を提出した3件の立候補地の関係自治体はとても残念だったと思います。
「金を中心とする佐渡鉱山の遺産群」は7年連続の提出、「彦根城」は1992年に暫定リストに記載されてからはじめての提出、「飛鳥・藤原 -古代日本の宮都と遺跡群」も今回がはじめての挑戦でした。
特に28年もの歳月を経てようやく推薦に至った「彦根城」については本当にさまざまな思いがあると思います。
推薦書素案を読みましたがその切り口には「なるほど」と思わされました。
早くコロナ禍が落ち着くことを祈ります。
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※各記事にさらに関連の過去記事へのリンクあり
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