世界遺産NEWS 20/02/05:文化庁、首里城火災をユネスコ世界遺産センターに報告

1月31日、萩生田光一文科相(文部科学大臣)はUNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)の要請に応じ、首里城の火災について世界遺産センターに報告したことを発表しました。

世界遺産の構成資産である首里城跡の遺構2か所が被災したものの史跡の0.05%にすぎず、焼損した9棟の復元建造物は資料が残っていて復旧が可能であるため、世界遺産の顕著な普遍的価値に与える影響は軽微であるといった内容であるようです。

 

首里城火災、世界遺産価値への影響「軽微」…損傷部は0.05%(読売新聞)

 

今回はこのニュースをお伝えします。

 

* * * 

初公開された首里城の焼失跡

10月31日未明、世界遺産「琉球王国のグスク及び関連遺産群」の首里城跡で火災が発生し、首里城正殿など6棟が全焼、3棟が一部焼失しました。

当時の様子については過去記事「世界遺産NEWS 19/10/31:沖縄の象徴・首里城正殿が全焼」を参照してください。

 

○全焼した施設

  • 正殿
  • 北殿
  • 南殿・番所(ばんどころ)
  • 書院・鎖之間(さすのま)
  • 黄金御殿(くがにうどぅん)
  • 奥書院

○一部焼失した施設

  • 奉神門
  • 寄満(ゆいんち)
  • 二階御殿(にーけーうどぅん)

 

上の建物はいずれも国営沖縄記念公園の首里城公園に設置された復元建造物です。

復元事業は沖縄の本土復帰記念事業の一環として、太平洋戦争の戦災によって失われた貴重な歴史的文化遺産を復元しようと1986年にはじまったもので、260億円をかけて公園の整備が進められました。

このうち上の9棟の建物の総工費は73億円となっています。

 

世界遺産「琉球王国のグスク及び関連遺産群」には9件の構成資産がありますが、首里城の基壇などの遺構は「首里城跡 "Shuri-jô site"」という名前で登録されています。

首里城跡は1972年に指定された国の史跡ですが、史跡は建物が残っていない歴史上重要な事件や施設があった場所を示すものなので、正殿などの復元建造物は含まれていません。

 

実際、世界遺産の推薦書には以下のように書かれています。

火災に関する記述もあるのでそちらも抜粋しましょう。

 

  • 文化遺産として登録しようとする遺跡には、復元した木造建造物(首里城正殿・識名園御殿等)があり、推薦資産を構成する要素ではないが、特に史跡または名勝の指定地の保存上、防火対策に比重をおいた管理に努めている。現在これらの復元建造物には自動火災報知設備を設置し、周囲には必要な各種消火設備及び避雷設備を完備している

 

世界遺産は国内法で法的に保護されていなければなりませんが、首里城跡は史跡として文化財保護法の保護下にあり、周辺のバッファー・ゾーンについては都市公園法や都市計画法、那覇市都市景観条例で保護・管理されています。

2019年4月のパリのノートル=ダム大聖堂の大火災を受けて文化庁は文化財保護法指定の物件に対して防火対策指針を策定して消火設備の点検や報告を要請していましたが、復元建造物は対象外で盲点になっていました。

 

首里城の火災を受けて文化庁は復元建造物についても防火対策の点検をするよう通達を出しています。

世界遺産の資産内にある復元建造物は意外と多く、一例として鹿苑寺の舎利殿(金閣)、薬師寺の大講堂や西塔・金堂、興福寺の中金堂、平城宮跡の第一次大極殿や朱雀門、高野山金剛峯寺の金堂や根本大塔などが挙げられます。

焼失前の首里城

さて、今回のニュースです。

 

萩生田光一文科相は1月31日、文化庁が首里城の火災の被害状況について29日にUNESCOの世界遺産センターに報告を行ったことを発表しました。

首里城跡については露出していた遺構2か所が被災したものの史跡の範囲に対して0.05%と限られており、焼損した復元建造物は資料が残っていて復旧が可能であるため、「世界遺産の顕著な普遍的価値に与える影響は軽微と考えられる」との報告を行いました。

世界遺産センターからは「諮問機関であるICOMOS(イコモス=国際記念物遺跡会議)と情報を共有し、確認を行う」と返答があったということです。

 

9棟が焼損したのに「影響は軽微」というのは史跡の対象ではない復元建造物であるからです。

もし9棟が直接構成資産だった場合、顕著な普遍的価値に与える影響は甚大でした。

 

今回の報告はUNESCOの要請に回答するものでしたが、危機が報告された世界遺産について、UNESCO世界遺産センターやICOMOS、IUCN(国際自然保護連合)といった諮問機関が調査を行うことがあります。

これを「リアクティブ・モニタリング」といいますが、すべての世界遺産に義務づけられた6年に一度の「定期報告」と別に行われています。

 

文化庁の報道資料から今回の被害状況報告の概要を紹介しましょう。

 

1.資産の概要

  • 首里城跡において,遺構は世界遺産の顕著な普遍的価値を持つ要素であり,遺構上に作られた復元建造物は顕著な普遍的価値を可視的に表現し伝える施設である。

2.火災の概要

 (1)発生から鎮火までの経緯

  • 首里城正殿を含む9棟の建造物が全焼した。
  • 出火原因は電気系統によるものが有力だが引き続き調査中である。

 (2)被害状況

  • 正殿において展示・研究のために露出していた部分の遺構2か所が被災した。
  • 石材表面に生じた劣化が確認されているが,損傷状況については詳細調査を実施中である。

3.顕著な普遍的価値に与える影響

  • 今回損傷した正殿の露出遺構の面積は,史跡範囲に対し約0.05%と一部に限られる。(露出部分以外の遺構は盛土層で保護されており火災による影響はないと考えられる。)
  • また,全焼・一部焼損した復元建造物についても,前回の復元に関する資料が残っており,復旧は可能。
  • 以上により,世界遺産の顕著な普遍的価値に与える影響は軽微と考えられる。

4.今後の復旧に向けた基本方針

  • 首里城復元に向けた基本的な方針(令和元年12 月11 日首里城復元のための関係閣僚会議決定)に基づき,取組を進める。
    • 首里城の今般の復元に向け,詳細な時代考証に基づく前回復元時の基本的な考え方を踏襲して首里城を復元していくこととする。すなわち,首里城正殿について,1712 年に再建され,1925 年に国宝指定されたものに復元することを原則とする。
    • その上で,前回復元後に確認された資料や材料調達の状況の変化等を反映するとともに,今般の火災を踏まえた防火対策の強化等を行う。
    • 前回の復元計画にできる限り沿って復元できるよう,政府一丸となって木材や漆などの資材調達に取り組むとともに,沖縄独特の赤瓦の製造や施工等について,前回復元時から沖縄県内に蓄積,継承されている伝統技術を活用するための支援を行う。
    • これまで復元に携わってきた沖縄の有識者の方を含めた技術的な検討の場を内閣府沖縄総合事務局に設け,国土交通省等の関係省庁と連携しつつ,沖縄県民の意見を十分に反映できるよう沖縄県の参画を得ながら検討を進める。
    • 政府として,引き続き,国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)と緊密に連携しながら進める。
  • 本年度内を目途に,政府は首里城正殿等の復元に向けた工程表の策定を目指す。

 

「出火原因は電気系統によるものが有力だが引き続き調査中である」としていますが、1月29日に沖縄県警は出火原因の特定には至らなかったと発表し、捜査を終了しています。

配線46点を採取して科学捜査研究所で鑑定したり、68台の防犯カメラの映像を分析したりしましたが、原因はつかめませんでした。

ただ、放火などの可能性はなかったと判断しています。

 

また、捜査終了を受けて、正殿周辺がはじめて報道陣に公開されました。

最初の映像はそのときの様子です。

 

今回の報告で、日本は世界に対してハッキリと首里城の復元に言及しました。

今後はUNESCOやICOMOS、世界遺産委員会と連携しながら具体的に復元作業を進めていくことになります。

 

 

[関連記事]

※各記事にさらに関連の過去記事にリンクあり

世界遺産NEWS 19/10/31:沖縄の象徴・首里城正殿が全焼(前回の記事)

世界遺産NEWS 20/06/13:カスビのブガンダ国王の墓の神殿が焼失

世界遺産NEWS 20/04/15:ハイチのミロ大聖堂のドームが火災で倒壊

世界遺産NEWS 20/01/29:オーストラリアのブジ・ビムの火災で古代の水路跡を発見

世界遺産NEWS 19/04/18:パリのノートル=ダム大聖堂で大火災が発生

世界遺産NEWS 18/02/19:チベット・ラサの聖地ジョカン寺で火災

 


News

★姉妹サイト「世界遺産データベース」を制作中です。現在、ヨーロッパの世界遺産を執筆しています。

★世界遺産カテゴリー "WORLD HERITAGE" にて新シリーズ「世界遺産で学ぶ世界の建築」を立ち上げました。世界遺産を通して世界の建築を学びましょう。

 →世界遺産で学ぶ世界の建築

★世界遺産カテゴリー "WORLD HERITAGE" にて新シリーズ「世界遺産検定攻略法」が始動! 最難関の1級とマイスター攻略を中心に、受検戦略や学習法を紹介します。

 →世界遺産検定攻略法

E-book

■Amazon Kindle

■楽天Kobo

自然遺産候補地「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」の魅力を解説
自然遺産候補地「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」が5月に登録勧告を得て7月の正式登録が確実なものとなった。その内容を紹介する。クリックで外部記事へ
文化遺産候補地「北海道・北東北の縄文遺跡群」の魅力を解説
2021年7月に世界遺産登録の可否が決まる文化遺産候補地「北海道・北東北の縄文遺跡群(北海道・青森・岩手・秋田)」の魅力を解説する。クリックで外部記事へ

Topics

 

・All About 世界遺産 新記事

 北海道・北東北の縄文遺跡群

 奄美・徳之島・沖縄島・西表島

 2019年新登録の世界遺産

 ンゴロンゴロ/タンザニア

 イエローストーン/アメリカ

 

・その他

『朝日新聞 世界の扉』記事執筆。『Fine』自然遺産特集執筆。『地球の歩き方 MOOK 世界のビーチBEST100』『ノジュール』に旅のスペシャリスト・達人として参加。『PEN』でアフリカの世界遺産執筆。『MONOQLO』世界遺産特集取材協力。『女性セブン』で日本の世界遺産を解説。エクスナレッジ『聖地建築巡礼 世界遺産から現代建築まで、73の聖地を巡る旅』、洋泉社ムック『負の世界遺産』執筆。RKBラジオ、FM TOKYOで世界遺産特集出演。その他企業・大学広報誌等。

New articles

<旅論:たびロジー>

1.あなたは幸せですか?

.麻薬は悪? ゴキブリは汚い?

.裸とワイセツ

 

<エロス論:エロジー>

.遊びの本質

.おいしい、美しい、気持ちいい

.文化SM論

 

<絵と写真の話>

.アートと魂~抽象画とポロック

.ロスコの扉 ~ロスコ・ルーム~

10.写真と抽象芸術~グルスキー

 

<哲学的探究:哲学入門>

1.哲学とは何か?

2.「正しい-間違い」とは何か?

3.証明とは何か?

4.わかる・理解するとは何か?

5.力とは何か? 波とは何か?

6.物質とは何か?

7.見る・感じるとは何か?

8.空間とは何か?

9.時間とは何か?

10.物質と時間を超えて

以下続く。

 

<哲学的考察:ウソだ!>

.無と偶然

.ことだま-はじめに言葉ありき

10.物質とは何か?

11.神とは何か?-一神教と多神教

 

<世界遺産NEWS>

世界遺産最新情報/ニュース

 

<世界遺産ランキング集>

登録基準に見る世界遺産

世界の七不思議

国内集計の世界遺産ランキング

海外集計の世界遺産ランキング

世界遺産国別ランキング

 

<UNESCOリスト集>

日本の遺産リスト

無形文化遺産リスト

世界の記憶リスト

世界遺産リスト

ユネスコエコパーク・リスト

世界ジオパーク・リスト

創造都市リスト

世界危機言語アトラス・リスト

 

<世界遺産の見方>

知性的鑑賞法

感性的鑑賞法

異文化理解の方法論

正しい・間違いの基準

星と大地と古代遺跡

 

<味わう世界遺産>

.王様のワイン トカイ

.命の水 テキーラ

.ポルトガルの宝石 ポート

.神の贈り物チョコレート

 

<世界遺産で学ぶ世界史>

01.宇宙と地球の誕生

02.大陸の形成

03.地形の形成

04.生命の誕生

05.生命の進化

06.人類の夜明け

07.文明の誕生

08.エジプト文明

09.インダス文明

10.中国文明

以下続く。

 

<世界遺産で学ぶ世界の建築>

01.建築の種類1:城と宮殿

02.建築の種類2:宗教建築

03.建築の種類3:メガリス

04.木造建築の基礎知識

05.石造建築の基礎知識

06.ギリシア建築

07.ローマ建築

08.ビザンツ/ビザンチン建築

09.ロマネスク建築

10.ゴシック建築

以下続く。

 

<世界遺産写真館>

1.文化交差路サマルカンド1

2.文化交差路サマルカンド2

3.アッパー・スヴァネティ

4.グラナダのアルハンブラ宮殿1

5.グラナダのアルハンブラ宮殿2

6.コトル

7.プレア・ヴィヒア寺院

8.福建の土楼1

9.福建の土楼2

10.フォンニャ=ケバン国立公園1

以下続く。

 

<世界遺産攻略法>

1.世界遺産検定攻略の理念と背景

2.世界遺産検定の概要

3.試験戦略の一般論

4.試験戦略の理念

5.世界遺産検定の受検戦略

6.試験勉強の3要素

7.世界遺産検定 最効率学習法

8.時事問題・世界史・検定講座

9.マイスター試験の概要

10.マイスター試験問1・2対策

11.マイスター試験問3対策

12.マイスター試験時間術&解答術

Blog

Link

Search

Site map

○Travel[旅]

○World heritage[世界遺産]

○Art[芸術]

○Logic[哲学]

○Library[私的図書館]

○Profile[プロフィール]

○Work[仕事について]

○Inquiry[お問合せ]

○Blog[ブログ]

※本サイトはリンクフリーです