世界遺産NEWS 19/08/15:リオ・プラタノの森林、21世紀に入って10%以上が消滅
ホンジュラスの世界遺産「リオ・プラタノ生物圏保存地域」で森林伐採が進んでおり、衛星写真を解析した結果、2001~2017年の間にその10%が失われた模様です。
特に近年の伐採が酷く、その1/3以上は過去3年間に起こっているようです。
■Rainforest destruction accelerates in Honduras UNESCO site(Mongabay。英語)
森林の違法伐採は以前から知られており、「リオ・プラタノ生物圏保存地域」は2011年に危機遺産リストに搭載されています。
しかしながら森林の消失は減速どころか加速している事実が明らかになっています。
今回はこのニュースをお伝えします。
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「リオ・プラタノ生物圏保存地域」はホンジュラス北東部、標高1,300mほどの山岳からカリブ海沿岸にかけてプラタノ川流域に広がる自然遺産です。
熱帯雲霧林、熱帯山地林、熱帯降雨林、湿地林やマングローブ林といった多様な森林が広がっており、こうした豊かな植生がジャガーやオオアリクイ、オセロット、ベアードバクといった豊富な動物相を育んでいます。
内部の研究はいまだ不十分で、未知の種が多数潜んでいると考えられています。
世界遺産リストへの登録は1982年で、入植者による森林伐採や過剰な漁業が問題になって1996年に危機遺産リストに加えられましたが、2007年に懸念が取り除かれたということで解除されました。
ところが2011年、ホンジュラス政府は状況がふたたび悪化したとして自ら危機遺産リスト入りを求め、これが認められました。
原因は入植者による土地の不法占拠や違法伐採・違法漁業などで、同地には麻薬カルテルが暗躍しており、政府のガバナンスが十分に行き届いていない状況であるようです。
メリーランド大学が分析した衛星写真によると、2001~2017年にかけて森林の10%以上が失われており、特にその1/3は直近3年以内に起きていることが明らかになりました。
さらに2018年には伐採されたエリアが拡大し、2019年には新たな場所でも広い消失が確認されています。
伐採の原因は域内におけるウシの放牧のための開拓や、マホガニーやスギの違法伐採などで、周辺の大地主たちは貧農や移民たちに移住を奨励して牧場経営や林業を行っています。
記事によるとこうした地主の多くは麻薬カルテルとつながりがあるようです。
麻薬カルテルはもちろん違法ですが、地主たちは麻薬カルテルの支援を受けてペーパーカンパニーを設立し、保護地域には立ち入らない合法的な会社として活動しています。
麻薬カルテルとしてはマネーロンダリング(資金洗浄)に利用でき、地主は資本を得ることで事業が拡大・独占できるという仕組みです。
そしてこれらの会社に政府が承認を与えることで、結果的に政府が伐採を後押しするような形に陥っています。
違法に土地を占拠し、放牧・伐採を行う人々を取り締まるホンジュラス軍
保護地域で軍のヘリコプターによってトラクターが運ばれた事実も判明しており、政府や軍の関与も指摘されています。
麻薬カルテルは「死の部隊」と呼ばれる暗殺部隊を保有しており、地方の政治家や環境活動家を殺害するなど強硬手段も併用し、水面下で勢力を伸ばしています。
昨年11月にはアメリカでフアン・オルランド・エルナンデス大統領の兄弟が麻薬や木材の密輸容疑で逮捕されており、大統領の関与も疑われています。
大統領はこうした疑惑を否定し、同月、麻薬カルテルの暗躍と森林伐採を阻止するために「SOSホンジュラス」というプロジェクトを立ち上げています。
残念ながら、いまのところこのプログラムの効果は見られていないということです。
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世界的に森林の減少が問題になっていますが、途上国や中進国においてはこのような土地の不法占拠による違法伐採や密猟が各地で問題になっています。
世界遺産でいえばイエメンの「ソコトラ諸島」やインドネシアの「スマトラの熱帯雨林遺産」、メキシコの「カリフォルニア湾の島々と保護地域群」、ブラジルの「中央アマゾン保全地域群」、「ガランバ国立公園」をはじめとするコンゴの5件の世界遺産、中央アフリカの「マノヴォ-グンダ・サン・フローリス国立公園」、マダガスカルの「アツィナナナの雨林」、タンザニアの「セルー・ゲーム・リザーブ」など枚挙にいとまがありません。
残念なのは、こうした地域が年々増えている点です。
世界を旅していて実感するのですが、10年前・20年前と比べて訪ねられる地域が明らかに減り、危険な地域が増えています。
こうした地域に住む人々が自然保護より自分の生活を優先するのは当然です。
環境問題や世界遺産保護の問題の多くは最終的にこうした格差問題に行き着きます。
非常に難解な問題です。