世界遺産NEWS 19/07/22:宇検村、奄美大島の世界遺産登録を目指し村花を伐採へ

奄美大島に位置する鹿児島県の宇検村(うけんそん)は、村花であるハイビスカス約820本の伐採に乗り出すことを決定しました。

 

宇検村は来年2020年の世界遺産登録を目指す「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」の構成資産である奄美群島国立公園の一部を有する自治体です。

これまで村はハイビスカスを村の各地に植樹するなどしてきましたが、今年に入って環境省などから外来種の指摘を受けたため、保護地域については伐採を行うということです。

 

世界遺産登録で村花除去へ 宇検村(南海日日新聞)

 

今回はこのニュースをお伝えします。

 

* * * 

宇検村は鹿児島県の奄美大島中西部に位置する人口約1,700人の村です。

同県の奄美市、大和村、瀬戸内町とともに奄美群島国立公園を構成する自治体のひとつで、同公園は2020年の夏に中国・福州で開催される第44回世界遺産委員会で世界遺産リストへの登録を目指す「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」の構成資産となっています。

 

宇検村では1986年に村で一般的に見られたハイビスカス(ブッソウゲ/仏桑花)を村花として指定しており、各地に植樹を行ってきました。

村民歌でもハイビスカスが歌われており、県道85号線はハイビスカス・ロードの異名を持つほどです。

 

しかし、ハイビスカスはもともと奄美大島の在来種ではなく、江戸時代以前には存在が確認されていない品種です。

原産地は明らかではありませんが中国南部、東南アジア、あるいはオセアニアと考えられており、1600年前後に薩摩藩主・島津家久が徳川家康に献上した記録があることから、日本への定着はそれ以降とみられています。

 

外来種といっても日本に完全に根づいた種も少なくありません。

たとえば日本人の主食である米を産するアジアイネもインドから中国辺りの原産といわれています。

稲作が日本に伝来する過程でアジアイネは帰化植物(栽培逸出)として定着し、同時にオオバコやミミナグサといった多くの草花が日本に入り込みました。

 

ハイビスカスですが、いまでは奄美大島全域で見られ、園芸種を含めれば約5,000種が存在するといわれています。

このハイビスカスに対し、世界自然遺産の評価・調査を行っているIUCN(国際自然保護連合)が外来種であることを指摘し、環境省が村に対して世界遺産の資産(プロパティ。登録範囲)予定地に近い保護地域のハイビスカスの伐採を要請する形となったようです。

 

今回、対象となったのは保護が必要となる奄美群島国立公園の第一種・第二種特別地域(国立公園の中心をなす特別保護地区に準ずる地域)にあたる村道・湯湾大棚線沿いの約3kmで、およそ820本を伐採予定です。

村はこの要請に応え、環境省は伐採許可を出し、両職員が協力して伐採を行うとしています。

 

村では植樹された村花を伐採することに対して反対の声が上がっている一方で、国立公園指定前からあった問題を解決する英断との評価もあるようです。

元山村長は、「村民はハイビスカスのことを『湯湾花』と呼ぶほど、広く親しんできた花。仕方がないが、奄美・沖縄全体の取り組みに協力したい」と述べています。

といっても奄美大島全域で伐採が行われるわけではなく、今後議論となりそうです。

 

* * *

奄美大島はこれまでさまざまな外来種と戦ってきた島で、近年はノネコ(野猫。山などで野生化したネコ)の問題でも注目されました。

ノネコがアマミノクロウサギなどの希少動物を襲うことからイエネコ(家猫。飼いネコ)の登録やマイクロチップの埋め込み、ノラネコ(野良猫。町で人に依存して生活するネコ)に対する不妊・去勢手術などが進み、ノネコ捕獲作戦が展開されています。

詳細は下の関連記事を参照ください。

 

世界遺産NEWS 18/03/21:奄美大島でノネコ減少計画をスタート

世界遺産NEWS 18/09/04:世界遺産と奄美大島とノネコ問題

 

他にもノイヌ、ノブタ、ノヤギ、マングース、アフリカマイマイ、ティラピアなどの移入が確認されており、それぞれ対策がとられています。

 

陸続きでない奄美大島でこれだけ問題になっているのですから、陸続きの場所で外来種がいかに大きな問題となっているかは想像できると思います。

生物多様性や絶滅危惧種の生息域として評価された世界自然遺産で、外来種が問題となっていない物件はおそらく存在しないでしょう。

 

こうした被害を未然に防ぐために、日本では2004年に外来生物法(特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律)が制定されています。

そして環境省は「外来種被害予防三原則」を定めて啓蒙活動を行っています。

この三原則はすべての人が心に刻んでおくべきものだと思うので紹介しておきましょう。

 

○外来種被害予防三原則

  1. 入れない:悪影響を及ぼすおそれのある外来種を自然分布域から非分布域へ「入れない」
  2. 捨てない:飼養・栽培している外来種を適切に管理し、「捨てない(逃がさない・放さない・逸出させない)」
  3. 拡げない:既に野外にいる外来種を他地域に「拡げない(増やさない)」

 

注意したいのは、外国だけでなく、日本国内でも生物の移動は基本的にひかえるべきであるという点です。

ひとつの理由は国内外来種の問題で、奄美大島にはもともと琉球諸島にいなかったニホンイタチやニホンイノシシが定着していますが、日本の在来種でもその地域に生息していなかった生物が侵出するのは問題です。

 

もうひとつの理由は遺伝子の問題です。

近年は種や亜種といったレベルだけでなく、遺伝子レベルの多様性も守る必要があると考えられています。

たとえばヒメアマガエルというカエルは琉球諸島に広く分布しています。

仮に奄美大島のヒメアマガエルの生息数が減ったとしても、沖縄本島や西表島のヒメアマガエルを安易に導入するべきではないとされています。

種や亜種を構成するほどの違いはないとしても遺伝子レベルでは違いが確認されるためで、今後別の種や亜種に分化する可能性があるからです。

 

今回は村花にもなったハイビスカスの伐採ということで大きなインパクトを残しましたが、もともとは個人の素朴な思いから持ち込まれたものなのでしょう。

ノネコ問題に見られるように移動・運送手段の発達で個人の意識を高めなければ防げない状況になっており、海外に住んでいるぼくも帰国する際にはとても気を使うようになりました。

 

こうしたニュースを機に問題意識を持つ人が増えるといいですね。

 

 

[関連記事]

※各記事にさらに過去の関連記事へリンクあり

世界遺産NEWS 19/10/10:奄美大島でマングースの根絶確認へ

世界遺産NEWS 19/01/25:奄美・沖縄2020年、縄文遺跡群2021年の登録を目指し推薦へ

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