世界遺産NEWS 19/01/07:オオカバマダラとトナカイに迫る気候変動の脅威

12月下旬、NATIONAL GEOGRAPHICは北アメリカ大陸を縦断するオオカバマダラと呼ばれる蝶が、メキシコでは過去20年で80%以上も減っていると発表しました。

また同月上旬、NOAA(アメリカ海洋大気局)はトナカイ(北アメリカのカリブー)が過去20年で56%も減少した事実を公表しています。

いずれも気候変動による気温上昇の影響が疑われています。

 

Climate change, pesticides put monarch butterflies at risk of extinction(NATIONAL GEOGRAPHIC。英語)

Reindeer Numbers Have Fallen by More than Half in 2 Decades(EcoWatch。英語)

 

オオカバマダラはメキシコの「オオカバマダラ生物圏保存地域」、トナカイはスウェーデンの「ラポニアンエリア」やロシアの「コミ原生林」、カナダの「ナハニ国立公園」など多くの世界遺産が関係しています。

今回はこのニュースを紹介します。

 

* * * 

オオカバマダラは "Great migration(グレイト・ミグレーション)" と呼ばれる北アメリカを縦断する大移動で知られています。

 

彼らの多くは夏、カナダ南部やアメリカ北部の涼しい地方で誕生します。

夏の間に花の蜜をたっぷり吸って肥え太り、9~11月に入って寒くなってくるとそのエネルギーを使って南下をはじめます。

そしてフロリダやカリフォルニアといったアメリカ南部や、メキシコやキューバといった中央アメリカに到着すると、集団でまとまって休眠し、越冬を行います。

メキシコには主要な越冬地が14ありますが、そのうちの8か所をまとめた世界遺産が「オオカバマダラ生物圏保存地域」です。

 

寒さが緩む3月頃になると再び北上をはじめますが、北上する個体は南下する個体に比べて寿命が短く、2~4世代をかけてカナダ南部やアメリカ北部に到達することが知られています。

現地の人々が「毎年同じ木に集まってくる」と言うように、一族の集団は毎年だいたい同じようなルートをたどって往復しているようです。

移動距離は5,000km近くに達する例もあるということですが、日本の本州の全長が1,500kmですから驚きます。

なかには迷う個体もいるようで、イギリスや日本で迷チョウが発見された例もあったりします。

 

オオカバマダラの大移動については謎が多く、その理由も方法も正確にはわかっていません。

 

たとえばその起源について、幼虫のエサであるトウワタという植物が農場に適応してその周辺に繁茂したことから、これが大移動をもたらしたという仮説があります。

大移動がはじまったのは大規模農園が普及した大航海時代以降の数百年前ということになりますが、遺伝子の調査から数百万年前にはすでに移動していたとする科学者もいます。

今回のNATIONAL GEOGRAPHICの記事によると、今年カリフォルニアで冬を越したオオカバマダラは20,456匹で、2017年と比べて86%も減ったようです。

メキシコで越冬した東部の一群も15%落ち込んでおり、過去20年で80%以上も減少しているということです。

オオカバマダラの激減は以前から報告されており、2000年代にも90%以上減っているという複数の報告があったりします。

 

原因として挙げられているのがトウワタの減少と気候変動です。

 

トウワタの減少について、記事はトウモロコシや大豆の耐性が増したことで、トウワタを一掃する除草剤が普及したことを指摘しています。

気候変動については、温暖化によって移動距離が増しており、その証拠として翅(はね)が過去100年で4.9%大きくなっているとの報告を紹介しています。

それだけでなく、温暖化は干ばつなどの影響でトウワタの生息域を狭めているだけでなく、トウワタが持つ化学成分の変化がオオカバマダラに影響を与えている可能性にも言及しています。

 

そのうえで、今後20年でオオカバマダラが回復不可能なまでに数を減らす可能性を11~57%とし、その可能性を半減させるためには個体数を500万以上に増やさなければならず、またトウワタも10億本以上が必要になるとしています。

 

詳細はぜひ記事を読んでみてください。

 

* * *

続いてトナカイです。

 

最初に紹介したEcoWatchの記事はNOAA(アメリカ海洋大気局)の報告書を引用して、北アメリカやシベリア、グリーンランドなどに生息しているトナカイ(カリブー)の個体数が過去20年で470万頭から210万頭へ56%も減っており、特にアラスカやカナダでは90%減少している地域もあるとしています。

個体数の減少は以前から指摘されていたもので、2016年には過去20年余で40%も減少しているとしてIUCN(国際自然保護連合)のレッドリストに危急種として登録されています。

 

記事では原因として気候変動による温暖化を挙げています。

 

トナカイは雪を掘って地表のコケをはじめとする地衣類を食べているのですが、気温が上昇することで雪よりも雨が増えたり雪が解けて地表が凍結し、コケを食べることができなくなっています。

また、雪の少ない地域では草や木の生息域が増えて地衣類が減っており、また虫が増えていることもトナカイの健康に影響を与えているとしています。

 

上の動画はスカンジナビア半島北部、ノルウェーのラップランドの様子ですが、地表の様子が以前とまったく違っていると指摘しています。

トナカイたちは自分でエサを探すことができず、そのため人間がエサを与えるという狂った状況が続いているそうです。

トナカイは数が減っているだけでなく、身体は小さくなり体重も減っています。

ラップランドでは過去150年で平均気温が1.5度も上昇しているという報告もあったりします。

 

* * *

 

気候変動が原因と思われる生物の危機的状況を知らせるニュースが本当に多くなっています。

 

本サイトでも何度か取り上げているグレートバリアリーフやベリーズバリアリーフのサンゴ礁もその一例ですし、ガラパゴス諸島でも水温の上昇によってイグアナやアシカが減っているというニュースが最近流れていました。

 

現在、世界は2017年に定められたパリ協定の2020年履行を目指しています。

パリ協定の掲げる2つの目標が以下です。

  • 世界の気温上昇を産業革命以前の2度以下に保ち、1.5度に抑える努力を行う
  • 温室効果ガス排出量を減少に転じ、21世紀後半には排出量と吸収量を均衡させる

 

2018年12月2日~15日にかけて、ポーランドのカトヴィツェでCOP24(気候変動枠組条約第24回締約国会議)が開催されました。

2020年のパリ協定履行のための実行プログラムの採択期限ということで大きな注目を集めました。

 

パリ協定の画期的な点は、先進国にも途上国にも同じ義務が課され、世界が一丸となって取り組むというところにあります。

しかし、これに対する反発は両サイドからあがっており、アメリカのトランプ大統領は離脱を宣言しています(正式な離脱は2020年以降)。

 

しかしながら190か国以上が参加したCOP24では一部の合意断念や延期はあったものの、なんとかルールの採択に成功し、2020年の履行が見えてきました。

気温上昇を産業革命以前の1.5度に留める点について合意は見いだせませんでしたが、各国の削減目標の上積みは検討することで一致し、2019年にすり合わせが行われる予定です。

日本は2030年までに2013年比で26%削減を公表していますが、政府内で検討されることになりそうです。

 

今年は9月に気候変動サミット、11月にCOP25が開催され、いよいよパリ協定の履行がはじまります。

ぜひ注目してみてください。

 

 

【関連記事】

世界遺産NEWS 19/02/11:世界遺産シャーク湾で加速する生態系の変化

世界遺産NEWS 18/12/11:クイーンズランドの熱波とグレートバリアリーフの再生計画(より以前の関連記事へリンクあり)

 


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