世界遺産NEWS 18/01/20:メキシコで世界最大の水中洞窟発見
1月10日、 GAM(Great Maya Aquifer Project。大マヤ帯水層プロジェクト)の探索チームが約1か月にわたる探査を終え、サク・アクトゥンとドス・オホスと名づけられたふたつの洞窟系がつながっており、合わせて215マイル(346km)あることを発表しました。
その結果、これまでの記録を大幅に抜いて世界最長の水中洞窟となりました。
■World's Largest Underwater Cave Discovered
この洞窟系自体は世界遺産ではありませんが、いくつかの世界遺産を絡めながら紹介してみようと思います。
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これまでの世界最長の水中洞窟はメキシコのオクス・ベル・ハ洞窟系の約269kmとされていました。
しかし、この洞窟系の周辺には洞窟が縦横無尽に走っており、数十km単位の洞窟がいくつも存在していることが知られていました。
世界で2番目に長いとされているサク・アクトゥン洞窟系(約262km)や、4番目に長いドス・オホス洞窟系(約84km)も近郊にあり、いずれもユカタン半島北東部、トゥルム遺跡周辺に位置しています。
サク・アクトゥンとドス・オホスはほぼ平行しており、これをつなぐ通路があるのではないかと言われていました。
探索チームのディレクター、ロバート・シュミットナー氏はこの通路を14年間も探索しており、今回悲願の発見となりました。
正式に確認された場合、346kmを誇る世界最長の水中洞窟系となり、ドス・オホスはサク・アクトゥンに吸収合併されることになります。
トゥルム遺跡周辺にはこのような洞窟系が358もあり、短水路の総延長は1,400kmに達します。
シュミットナー氏はさらに3つの洞窟系との接続路を探索する予定で、水中洞窟はさらに延びていきそうです。
それにしても、なぜユカタン半島にこれほどの洞窟系が広がっているのでしょうか?
ユカタン半島北部は石灰岩地層を特徴としているカルスト地形が展開しています。
石灰岩は非常に水に溶けやすく、雨が降ってもすぐに地中にしみ込んで地底湖や地下河川が発達します。
そのため地底湖や地下河川に地面がしばしば陥没するのですが、こうしてできた陥没井戸を「セノーテ」と呼びます。
ユカタン半島には大きな川がありませんが、このセノーテが淡水を供給してマヤ文明の都市群を支えていました。
今回の探索では「すべてのセノーテの母 ""the mother of all cenotes"」と呼ばれる全長約18kmの洞窟系も発見されています。
サク・アクトゥン洞窟系では「ナイア」と名づけられた数千年前に遡る人骨が発掘されていますし、トゥルム遺跡の南80kmほどに位置する世界遺産「シアン・カアン」のセノーテや、北東120kmほどにある世界遺産「古代都市チチェン・イッツァ」のセノーテからはマヤ文明の遺構や遺物も発見されています。
特に雨の神チャックに捧げられたチチェン・イッツァのセノーテでは生け贄が捧げられていたようで、財宝と共に多くの人骨が見つかっています。
遺跡だけでなく洞窟系は生物多様性にもすぐれており、独自の進化を遂げた生物も少なくありません。
まったく探索がなされていない場所も少なくないと言いますから、今後の探索・調査が非常に楽しみですね。
ちなみに、6,600万年前の恐竜絶滅を引き起こしたと考えられているチクシュルーブ・クレーターはユカタン半島の北端に位置します。
クレーターの落下地点はカリブ海中ですが、クレーターの1/3から半分は半島内にあり、クレーターの縁に沿ってセノーテ・リングと呼ばれるセノーテ群を生み出しています。
これらは「ユカタン半島、チクシュルーブ・クレーターのセノーテ・リング "Ring of cenotes of Chicxulub Crater, Yucatan"」という名前でメキシコの世界遺産暫定リストに掲載されています(今回の洞窟系は関係していません)。
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今回は世界最長の水中洞窟でしたが、「水中」に限らないとどこになるのでしょうか?
答えはアメリカの世界遺産「マンモス・ケーヴ国立公園」の洞窟系で、651.8kmを誇ります。
世界最大の地下空洞はマレーシアの世界遺産「グヌン・ムル国立公園」のサラワク・チャンバーで、世界最大の通路はベトナムの世界遺産「フォンニャ=ケバン国立公園」のソン・ドン洞窟(上の動画)で発見された通路となっています。
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