世界遺産NEWS 17/08/05:欧州司法裁、ビャウォヴィエジャ伐採停止を命令
「ヨーロッパ最後の原生林」と言われるベラルーシ、ポーランド共通の世界遺産「ビャウォヴィエジャの森」。
昨年、ポーランド政府が一部伐採の決定を下しましたが、環境保護団体が賛成・反対に分かれてデモを行う事態に発展していました。
これに対して欧州司法裁判所は7月下旬、政府に対してただちに伐採を停止する命令を下しました。
■Poland must end logging in Bialowieza forest, Europe's oldest, court rules(BBC NEWS)
今回はこのニュースをお伝えします。
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ポーランド政府は2016年3月に世界遺産「ビャウォヴィエジャの森」の周辺部の大幅な伐採拡大を表明し、5月下旬には180,000立法メートルに及ぶエリアを伐採する決定を下しました。
理由はヤツバキクイムシの被害です。
上の動画にも出てくる体長4~5mmほどの昆虫なのですが、現在ビャウォヴィエジャの森でヤツバキクイムシが大発生しており、多くの木々が食い荒らされて枯れ木だらけになっているようです。
伐採計画は被害拡大を最小限に食い止めるためのもので、倒木による観光客の被害を防ぐことなども目的としています。
これに対してポーランド国内のみならず世界中から賛成・反対双方の抗議活動が巻き起こりました。
今年7月上旬にポーランドのクラクフで開催された第41回世界遺産委員会でも、賛成・反対双方のデモ隊が会場周辺で活発な活動を展開しました。
反対派の意見は、最終氷期の終わりから1万年かけて形成された森林にとってこうした危機は珍しいものではないのに対し、人の手が入ることは1万年間で1度もなかったことで、生態系に不可逆的な影響を与えかねないし、そもそも伐採の効果も検証されていないというものです。
これに対して賛成派は、地球温暖化によってキクイムシの被害は過去例がないほど拡大しており、人間が手を加えて積極的に保護しなければそれこそ不可逆的な被害を招きかねないとしています。
たしかにキクイムシの被害はアメリカ大陸などでも大問題となっており、たとえばカナダのブリティッシュ・コロンビア州では半数のマツが死滅する危機を迎えましたが、それが本当に地球温暖化の影響によるのか否かは証明されていません。
これまでのところWWF(世界自然保護基金)やグリーンピースなど、伐採に反対する団体が優勢であるようです。
自然遺産の調査・評価を行っているIUCN(国際自然保護連合)も事態に懸念を表明しており、これまでのところ資産(プロパティ。世界遺産の登録範囲)では伐採が行われていないものの、危機的な状況から危機遺産リスト入りの可能性も示唆しています。
この問題、第41回世界遺産委員会の場でも審議され、「ビャウォヴィエジャの森」を危機遺産リストに加えるか否かで議論が紛糾しました。
伐採に反対する委員国が多かったものの決定打を欠き、結局1年間の調査期間を設けることで落ち着きました。
ポーランドは2018年12月までに報告書を提出するものとし、2019年の第43回世界遺産委員会で検討されることになりました。
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この問題に対してEU(欧州連合)も注視しており、欧州委員会は「伐採は絶滅危惧種をはじめ生物多様性に大きな影響を与える可能性が高い」との声明を出し、伐採計画を中止するようポーランド政府に要請しました。
しかし政府はこれに応じず計画を進めたため、欧州委員会は鳥類や生息地の保護に関する条約に反するということで、7月13日に伐採中止を求めて欧州司法裁判所に提訴し、同時に伐採差し止めの仮処分を申請しました。
そして7月下旬、欧州司法裁判所はこの訴えを認め、伐採の即時中止と暫定的な差し止めを命ずる決定を下しました。
この決定が確定した場合、ポーランドは400万ユーロ以上の罰金と、中止するまで毎日制裁金が科される可能性があるということです。
※追記
この判決を受けてポーランド政府は伐採を中止しました。
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キクイムシの被害やサンゴの白化、台風やサイクロンの大型化、山火事や洪水被害の拡大など、世界規模の環境問題の多くは気候変動に起因すると考えられています。
気候変動は生物多様性に深刻な被害をもたらしており、環境省は2009年に発表した生物多様性白書で、現代を約160万の種が滅びつつある「大量絶滅時代」と位置づけているほどです。
こうした問題に人類はどのように対処していけばよいのでしょうか?
根本的な問題が解決されない限り、同様の問題は今後も各地で議論されることになりそうです。
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※各記事にさらに関連の過去記事にリンクあり
世界遺産NEWS 16/06/10:ビャウォヴィエジャの原生林、一部伐採へ(前回の記事)
世界遺産NEWS 22/02/20:ポーランド、ビャウォヴィエジャの森を二分する国境壁の建設を開始
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