世界遺産NEWS 17/05/25:2018年の世界遺産候補地

2018年夏に開催される第42回世界遺産委員会で世界遺産リストへの登録を目指す世界遺産候補地のリストが公表されました。

今回はこのリストを紹介します。

 

* * * 

「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の大浦天主堂
「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の大浦天主堂

簡単にこのリストの概要を解説しておきましょう。

 

まだ2017年の世界遺産委員会もはじまっていないのに、なぜ2018年の世界遺産候補地のリストが公表されているのでしょうか?

 

世界遺産に物件を登録するためには、登録を目指す年の前年2月1日までにUNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)の世界遺産センターに登録推薦書を送らなければなりません。

2018年の登録に対しては2017年2月1日が〆切で、本リストはその時点で立候補の表明があった物件ということになります。

 

ただし、以前の世界遺産委員会で「情報照会」の決定を受けた物件(3年以内に情報を提出した場合は再審査が可能)や、緊急的登録推薦(明確に普遍的価値を持ち、危機的状況にある物件の例外的な緊急推薦)の物件が入ってきたりすることがあるため、このリスト外から審議される物件もあったりします。

また、書類の不備等から審査に及ばない物件や、推薦を取り下げる物件も相当数出てきます。

 

第42回世界遺産委員会までの日程は下記のようになっています。

なお、世界遺産委員会の諮問機関であるICOMOS(イコモス=国際記念物遺跡会議)は文化遺産、IUCN(国際自然保護連合)は自然遺産、複合遺産は両組織が調査・評価を行います。

 

○2017年

 夏~:ICOMOS、IUCNが現地調査を含む専門調査を実施

○2018年

 4~5月:ICOMOS、IUCN、勧告を記した評価報告書を世界遺産センターに提出

 6~7月:評価報告書を参考に世界遺産委員会で登録可否が決定

 

* * *

「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」の西表島マリュード滝
「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」の西表島マリュード滝

いくつか注目点を紹介していきましょう。

 

日本からは2件が推薦されています。

2020年の世界遺産委員会から各国年1件までの推薦に制限されるため、2件の推薦は今回が最後となるでしょう。

登録された場合は文化遺産として17件目、自然遺産としては5件目となります。

2件の構成資産を紹介します。

 

1.文化遺産「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の構成資産

  • 原城跡(長崎県南島原市)
  • 平戸の聖地と集落[春日集落と安満岳](長崎県平戸市)
  • 平戸の聖地と集落[中江ノ島](長崎県平戸市)
  • 天草の﨑津集落(熊本県天草市)
  • 外海の出津集落(長崎県長崎市)
  • 外海の大野集落(長崎県長崎市)
  • 黒島の集落(長崎県佐世保市)
  • 野崎島の集落跡(長崎県北松浦郡小値賀町)
  • 頭ヶ島の集落(長崎県南松浦郡新上五島町)
  • 久賀島の集落(長崎県五島市)
  • 奈留島の江上集落[江上天主堂とその周辺](長崎県五島市)
  • 大浦天主堂(長崎県長崎市)

 

2.自然遺産「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」に関連する国立公園

  • 奄美大島:奄美群島国立公園(鹿児島県奄美市、大和村、宇検村、瀬戸内町)
  • 徳之島:奄美群島国立公園(鹿児島県徳之島町、天城町、伊仙町)
  • 沖縄島北部:やんばる国立公園(沖縄県国頭村、大宜味村、東村)
  • 西表島:西表石垣国立公園(沖縄県竹富町)

 

いまのところ、今回はじめて世界遺産登録に挑戦する国はありません。

一方、この記事を書いている5月下旬時点で世界遺産最多保有国であるイタリア(51件)は2件、第2位の中国(50件)も2件の推薦です。

2017年7月の世界遺産委員会でイタリアに1件か2件、中国に2件の世界遺産が誕生すると見られます。

首位争いがとても激しくなっていますね。

もっとも、世界遺産リストの不均衡の是正が叫ばれる中で「これでいいのか」という批判もあったりします。

 

不均衡の是正は1994年に採択された「世界遺産リストにおける不均衡の是正及び代表性・信用性の確保のためのグローバルストラテジー」以降、地理的・時代的・内容的不均衡を是正するため各国に積極的な対応が要請されています。

そのため世界遺産を数多く持つ国に自粛を呼び掛けたり、非保有国の登録を推進したり、これまでに登録が少ない分野、たとえば産業遺産・文化的景観・20世紀建築・先史時代の遺跡といった分野の開拓が奨励されています。

もっとも、産業遺産や文化的景観・20世紀建築等々の登録はむしろ多数の世界遺産を保有する国が積極的に進めており、地理的な不均衡の是正は進んでいないのが現状です。

 

今回の推薦でも産業遺産、それも欧米のものが目立っていますね。

タイプライター工場を中心とする20世紀の工業都市・イヴレーア、スパークリングワイン・プロセッコで知られるコネリアーノとヴァルドッビアーデネ(以上、イタリア)、アルプス山脈に築かれたグロースグロックナー山岳道路(オーストリア)、チェコのビール文化を支えるザーツのホップ関連遺産、金鉱山で知られるロシア・モンタナ(ルーマニア)、交易都市ジャカルタ(インドネシア)、ワインとオリーブ生産で知られるクレミサン渓谷(パレスチナ)、開拓時代にゴールドラッシュで揺れたトロンデック-クロンダイク(カナダ)などが推薦されています。

 

グローバルストラテジーでは多すぎる分野のひとつとしてキリスト教関連の遺産が指摘されていましたから、「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」に対して「禁教・潜伏に焦点を絞るべき」という指摘にも理がある気がします。

日本はICOMOSの提言に従って構成資産を絞ってテーマ・ストーリーを変更し、名称も「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」に変更しています。

英語では "Hidden Christian Sites in the Nagasaki Region" となっていますね。

 

パレスチナは2件を推薦していましたが「ヘブロン/アル・ハリル旧市街」については緊急的登録推薦とし、2017年の審議に前倒しされたようです。

パレスチナは2件の世界遺産を保有していますがいずれも緊急的登録推薦で、ICOMOSは「緊急性がない」として不登録勧告を行いましたが、逆転で登録に成功しています。

世界遺産委員会の政治性が非難されましたが、まったく同じパターンですね。

 

個人的なことですが、今回、珍しいことに訪ねたことのある物件がひとつもありません。

毎年放っておいても訪問世界遺産が2~5か所くらい増えていくのですが、はじめてのことかもしれません。

別にいいんですけれど。

 

* * * 

中国「梵淨山」の新金頂
中国「梵淨山」の新金頂 (C) Mande5255881

それでは2018年の世界遺産候補地37件(範囲変更2件含)のリストです。

内容は、文化遺産29件、自然遺産5件、複合遺産3件となっています。

 

順番は、文化遺産→自然遺産→複合遺産で、それぞれはヨーロッパ→アジア→オセアニア→北米→南米→アフリカ、さらに国別五十音順です。

 

日本語名は私が適当に訳したものです。

勘違い等あるかもしれませんがご容赦ください。

正式な推薦名称は英語の表記になります。

名称や登録基準は今後変わる可能性があります。

 

 

■2018年に世界遺産登録を目指す物件一覧表

 

<文化遺産29件(範囲変更1件含)>

 

■イヴレーア、20世紀の産業都市

Ivrea, industrial city of the 20th century

イタリア、文化遺産(ii)(iv)(v)

 

■コネリアーノとヴァルドッビアーデネのプロセッコの丘

Le Colline del Prosecco di Conegliano a Valdobbiadene

イタリア、文化遺産(iv)(v)

 

■グロースグロックナー山岳道路

Großglockner High Alpine Road

オーストリア、文化遺産(i)(ii)(iv)

 

■ベネヴォレンス植民地群

Colonies of Benevolence

オランダ/ベルギー共通、文化遺産(iii)(v)(vi)

 

■ザフラー宮殿のカリフの都

Caliphate City of Medina Azahara

スペイン、文化遺産(iii)(iv)

 

■ザーツ-ホップの町

Žatec - the Town of Hops

チェコ、文化遺産(ii)(iii)(iv)

 

■アシヴィスイット-ニピサット、氷と海に覆われたイヌイットの狩猟場

Aasivissuit – Nipisat. Inuit Hunting Ground between Ice and Sea

デンマーク、文化遺産(iii)(v)

 

■ヘーゼビューとダーネヴィアケの考古学的景観

The Archaeological Border Landscape of Hedeby and the Danevirke

ドイツ、文化遺産(iii)(iv)

 

■ハンブルク-アルトナのユダヤ人墓地

The Jewish Cemetery Hamburg - Altona

ドイツ、文化遺産(ii)(iii)(iv)

 

■ギョベクリ・テペ

Göbekli Tepe

トルコ、文化遺産(i)(ii)(iii)(iv)

 

■ニーム、現代における古代

Nîmes, l’Antiquité au present

フランス、文化遺産(ii)(iv)

 

■第一次世界大戦の葬祭・追悼場[西部戦線]

Les sites funéraires et mémoriels de la Première Guerre mondiale (Front Ouest)

フランス/ベルギー共通、文化遺産(iii)(iv)(vi)

 

■マフラの王宮-宮殿、バシリカ、修道院、城壁庭園および狩猟場

Royal Building of Mafra - Palace, Basilica, Convent, Walled Garden and Hunting Grounds

ポルトガル、文化遺産(i)(ii)(iv)(vi)

 

■ロシア・モンタナ鉱業景観

Roșia Montană Mining Landscape

ルーマニア、文化遺産(ii)(iii)(iv)(vi)

 

■古代プスコフの建造物群

Monuments of Ancient Pskov

ロシア、文化遺産(ii)(iv)

 

■シャルジャ:トルーシャル・オマーンへの玄関口

Sharjah: the Gateway to the Trucial States

アラブ首長国連邦、文化遺産(ii)(iii)(vi)

 

■ファールス地方のササン朝の考古学的景観

Sassanid Archaeological Landscape of Fars Region

イラン、文化遺産(i)(ii)(iii)(iv)(v)

 

■ムンバイのヴィクトリア様式とアール・デコ様式の建造物群

Victorian and Art Deco Ensemble of Mumbai

インド、文化遺産(ii)(iv)

 

■栄光のカカティーヤ朝寺院群と関門-インドのルドレシュワラ(ラマッパ)寺院、パランペット、ジャヤシャンカール・ブーパルパリー地区、テランガーナ州

The Glorious Kakatiya Temples and Gateways - Rudreshwara (Ramappa) Temple, Palampet, Jayashankar Bhupalpally District, Telangana State, India

インド、文化遺産(i)(ii)(iii)

 

■交易の時代:ジャカルタ旧市街[旧名バタヴィア]と4つの島嶼部[オンルス、ケロル、シピル、ビダダリ]

Age of Trade: Old Town of Jakarta (formerly Old Batavia) and 4 Outlaying Islands (Onrust, Kelor, Cipir and Bidadari)

インドネシア、文化遺産(ii)(iii)(iv)(v)

 

■古代都市カルハット

Ancient City of Qalhat

オマーン、文化遺産(iii)(v)(vi)

 

■山寺(サンサ)、韓国の仏教山岳僧院

Sansa, Buddhist Mountain Monasteries in Korea

韓国、文化遺産(iii)(iv)

 

■アハサー・オアシス、進化する文化的景観

Al-Ahsa Oasis, an evolving Cultural Landscape

サウジアラビア、文化遺産(iii)(iv)(v)

 

■古代泉州の歴史的建造物と遺跡

Historic Monuments and Sites of Ancient Quanzhou (Zayton)

中国、文化遺産(ii)(iii)(vi)

 

■長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産

Hidden Christian Sites in the Nagasaki Region

日本、文化遺産(iii)

 

■クレミサン渓谷の文化的景観

Cultural Landscape of Cremisan Valley

※「パレスチナ:オリーブとワインの地-エルサレム南部バティールの文化的景観(2014年、文化遺産(iv)(v))」の拡大

パレスチナ、文化遺産(iv)(v)

 

■ヘブロン/アル・ハリル旧市街 →緊急的登録推薦で2017年の世界遺産委員会の審議へ

Hebron/Al-Khalil Old Town

パレスチナ、文化遺産(ii)(iv)(vi)

 

■マハスタンガルとその周辺

Mahasthangarh and its environs

バングラデシュ、文化遺産(ii)(iii)(iv)

 

■トロンデック-クロンダイク

Tr’ondëk - Klondike

カナダ、文化遺産(iv)(vi)

 

 

<自然遺産5件(範囲変更1件含)>

 

 

■ビキン川渓谷

Bikin River Valley

※「中央シホテ・アリン(2001年、自然遺産(x))」の拡大

ロシア、自然遺産(x)

 

■アラスバーラン保護区

Arasbaran Protected Area

イラン、自然遺産(ix)(x)

 

■梵浄山

Fanjingshan

中国、自然遺産(vii)(ix)(x)

 

■奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島

Amami-Oshima Island, Tokunoshima Island, the northern part of Okinawa Island, and Iriomote Island

日本、自然遺産(ix)(x)

 

■バーバートン=マクホンワ山地

Barberton Makhonjwa Mountains

南アフリカ、自然遺産(viii)

 

 

<複合遺産3件>

 

 

■ピマチオウィン・アキ

Pimachiowin Aki

カナダ、文化遺産(iii)(vi)、自然遺産(ix)

 

■チリビケテ国立公園-ジャガーの生息地

Chiribiquete National Park - “The Maloca of the Jaguar”

コロンビア、文化遺産(iii)(viii)、自然遺産(ix)(x)

 

■パラチの文化と生物多様性

Paraty Culture and Biodiversity

ブラジル、文化遺産(ii)(v)(vi)、自然遺産(vii)(x)

 

* * *

 

2018年4~5月にICOMOS、IUCNの勧告結果が出たら速報します。

お楽しみに!

 

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