世界遺産NEWS 17/05/13:UNESCO事務局長、ルワンダ虐殺記念館を訪問

5月10日、UNESCO(ユネスコ=国際連合教育科学文化機関)のイリーナ・ ボコバ事務局長はルワンダ虐殺の舞台となったキガリ虐殺記念館を訪れ、犠牲者たちに祈りを捧げました。

 

UNESCO boss backs Rwanda’s quest to include Genocide memorials on World Heritage list

 

ルワンダは同国初となる世界遺産候補として虐殺記念館の登録計画を進めています。

ぼくはこれまでさまざまな「負の遺産」を訪ねていますが、ルワンダの虐殺記念館ほど強烈な印象を残した場所は他にありません。

 

今回はこのニュースと虐殺記念館の概要を紹介します。

 

* * *

最近、世界遺産を目指している物件で気になるものがたくさんあります。

特に注目しているのが来年早々の推薦書提出を進めているミャンマーのバガン遺跡と、今回イリーナ・ ボコバ事務局長が訪ねているルワンダの虐殺記念館です。

 

ルワンダは現在、世界遺産も無形文化遺産も世界の記憶も登録がありませんが、UNESCO遺産第一号として虐殺記念館の登録を目指しており、2012年に暫定リストに「虐殺記念サイト:ニヤマタ、ムランビ、ビセセロ、ギソチ」を登載しています。

 

○暫定リスト記載物件概要

虐殺記念サイト:ニヤマタ、ムランビ、ビセセロ、ギソチ

Sites memoriaux du genocide : Nyamata, Murambi, Bisesero et Gisozi

ルワンダ、登録基準(iii)(vi)

構成資産:ニヤマタ、ムランビ、ビセセロ、キガリ(ギソチ)の各虐殺記念館

 

ルワンダ虐殺とは、1994年4~7月にかけて行われたフツ族によるツチ族の大虐殺で、わずか3~4か月の間にツチ族の7~8割、50万~100万人が殺害されたと言われています。

 

ぼくは現地でツチ族の一家にお世話になっていろいろと話を聞いたのですが、もともと両者は憎しみ合っていたわけではなく、長い間一緒に暮らしていたということでした。

両者の間に溝ができる原因となったのがドイツとベルギーの植民地支配です。

 

19世紀以降、欧米列強は市場獲得のため植民地拡大政策を採っていたのですが(帝国主義)、広大な植民地を支配するために現地の少数民族や少数部族を利用して統治しました。

 

ムランビ虐殺記念館に並べられた頭蓋骨
ムランビ虐殺記念館に並べられた頭蓋骨

 

ルワンダの場合だと、ベルギーは少数民族だったツチ族を政府や企業の要職に置き、教育・税・労働・教会等々、さまざまな場面で差別待遇を取り入れました。

多数派のフツ族はこうした差別に反発するわけですが、その反発はベルギーに向かわず、ツチ族に向けられました。

こうして現地の民族や部族が互いに憎み合うように仕向け、自分たちへの反乱や暴動を防ごうとしたわけですが、実はアフリカやアジア・中南米の多くの内戦がこの「分割統治」に起因します。

 

ルワンダ独立を巡ってフツ族とツチ族の確執は強まり、1962年にフツ族が政権を発足させて独立しますが、その後も内戦が続きました(ルワンダ紛争)。

1994年に対立は決定的なものとなり、「ツチ族を殺せ」というラジオ放送をきっかけにフツ族は手に手に銃や斧・ナイフを持って近所のツチ族の人々に襲いかかったと言われています。

 

その虐殺の証拠が虐殺記念館群です。

ぼくはキガリ虐殺記念館とムランビ虐殺記念館を訪ねたのですが、悲惨のひとことでした。

特にムランビ虐殺記念館の壮絶さといったら……

 

もともと学校だったのですが、5万人といわれるツチ族がこの地で殺害され、その遺体が掘り起こされて机の上に無造作に並べられていました。

遺体は腐らないようにケミカル処理されていたのですが、鈍器で殴打されて頭が陥没していたり、ナタで手足を切断されていたり、助けを求めるように手を前に差し出したまま亡くなっていたりと、殺害時の様子を生々しく伝えるものでした。

 

とてもカメラを向ける気にならなかったのですが、スタッフは「写真を撮ってくれ」と声を掛けてきます。

この事実を世界中の人たちに知ってもらいたいんだ――

 

下はそのときの写真の一部です。

ムランビ虐殺記念館に並べられた遺体の数々
ムランビ虐殺記念館に並べられた遺体の数々

 

イリーナ・ ボコバ事務局長はこの惨状を見てこう語っています。

「深く心を揺さぶられました。人は虐殺記念館を訪れることで、ここで何が起きたのか、それ以上にいったい何が原因だったのか、その理由を考えずにはいられません」

もちろん、ぼくもそうでした。

 

50万~100万人を殺害するためには数十万人、数百万人が手を貸さなくてはなりません。

つまり、虐殺は異常な人たちによって起こされたのではなく、ぼくたちと変わらない普通の人たちが突如、人を殺して回ったことを意味します。

状況が同じなら、ぼくにも、あなたにも、人を無残に殺すことができるのです。

 

どこの世界でも「人を殺すことはいけないことだ」と教えられるのに、なぜ、人は人を殺すことができるのでしょうか?

 

それは、人を殺すことが善であり、正義だったからです。

長年虐げられてきた人々、たとえば家族を殺されている人にとって、相手を殺すことが善であり正義だったからでしょう。

 

人は悪を成すことができません。

すべての行動は正当化されたのちに引き起こされます。

ということは、戦争や虐殺は本質的に正義や善では防げないことになります。

実際に、正義や善を増やし悪を減らすというアプローチが成功しているとは到底思えないのです。

 

そのうえで。

人が人を殺さないためにはいったい何が必要なのでしょうか?

これがぼくが哲学上の大きなテーマのひとつになりました。

テリー・ジョージ監督『ホテル・ルワンダ』予告編。 この作品やマイケル・ケイトン・ジョーンズ監督『ルワンダの涙』などでルワンダ虐殺は一般に知られるようになりました

 

イリーナ・ ボコバ事務局長はこう言います。

「このサイトが世界遺産リストに登録されることによって、現在および将来の世代がこの悲劇を学ぶためのよりよい教材となり、二度とこのようなことを起こさないための教訓となるでしょう」

そして虐殺を学ぶための質の高い教育プログラムを推進するということです。

 

20世紀、文明がもっとも発達した世紀の先進国でふたつの大戦が勃発し、中国やロシア、カンボジアでは同民族・同宗教であっても粛清・虐殺が行われました。

昔の話だから、自由や人権が守られてる時代なら、同民族なら、同宗教なら、正義や善があれば……

そんな幻想は簡単に吹き飛ばされました。

 

改めて考えてみる必要があるはずです。

なぜ人は人を殺すことができるのでしょうか?

どうしたら戦争や虐殺を防ぐことができるのでしょうか?

 

ぜひ、みなさんも考えてみてください。

 

ぼくにはひとつの答えが出ています。

いずれどこかで語り合える日が来ることを願っています。

 

なお、ルワンダ政府は世界遺産リストへ推薦するため2018年中にすべての準備を終わらせたいとしています。

登録の見込みについて事務局長は「専門家が評価し、世界遺産委員会が決めること」と明言を避けていますが、「きわめて重要なこと」と評価しているようです。

 

 

[関連サイト]

世界遺産と世界史49.世界分割

なぜアフリカでは戦争と飢餓がなくならないのか?

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