世界遺産NEWS 16/09/15:軍艦島/端島をめぐるふたつの課題

9月13日、長崎市は軍艦島に約108億円を投じて整備する方針を表明しました。

 

軍艦島は「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の構成資産のひとつで、『進撃の巨人』や『ハシマ・プロジェクト』のロケ地となり、『007 スカイフォール』に登場する島のモデルとなったことでも知られています。

2009年4月に上陸が解禁されてツアーが組まれるようになると人気観光スポットに急成長し、世界遺産に登録された昨年は前年比44.9%増の伸びを記録して26万6,620人が訪問し、16年4月には累計で100万人を突破しました。

簡単に軍艦島の歴史を紹介しておきましょう。

 

軍艦島は長崎港の南西約18kmに浮かぶ外周約1.2kmの小島で、正式名称を端島(はしま)といいます。

19世紀に石炭が発見され、1890年に三菱が所有権を得ると炭鉱の開発が急ピッチで進みました。

採炭量は年25~40万トンに達し、石炭は主に八幡製鉄所で鉄鋼の生産に使われて、欧米以外で初となる産業革命や明治から昭和にかけての経済成長に大きく貢献しました。

 

20世紀はじめには鉄筋コンクリートの高層住宅が次々と建設され、神社や庭園・浴場・食堂・映画館などを備えた町に成長し、最盛期には5,000人以上が暮らしていました。

島の中央にビル群がそびえるその形が戦艦に似ていたことから「軍艦島」の通称が付きました。

 

1974年に閉山してその役割を終えると島はゴーストタウンと化しました。

しかし、日本の近代化に貢献した産業遺産としての側面と、廃墟としての美しさで知られるようになり、長崎市は2007年より約1億円をかけて整備し、09年4月に上陸を認めてツアーが開始されました。

2015年には「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の構成資産のひとつとして世界遺産に登録されています。

世界遺産にはなりましたが、実はいくつか条件が付けられています。

 

文化遺産の調査・評価を行っているICOMOS(イコモス=国際記念物遺跡会議)は、優先順位を示した保全計画の策定や来訪者の上限の設定、モニタリングの実行などを要求し、2017年12月1日までに報告書を提出し、18年の世界遺産委員会で審議することを指示しました。

 

軍艦島について特に問題とされているのが「保全」です。

 

軍艦島の高層住宅群は日本最古級の鉄筋コンクリート建築で、最初に建てられた30号棟は1916年の竣工なのでちょうど築100年になります。

鉄筋コンクリート造のビルの寿命は40~70年、耐用年数は100~150年前後と言われています。

そろそろ限界が近づいているうえに潮風や地震などの影響もあって、一部のビルは倒壊の危険があると考えられています。

 

動画を見てもかなり傷んでいるのがわかりますね。

世界遺産に登録される以前から、これらを抜本的に解決し、半永久的に保護・保全することなどできないのではないかと疑問視する人もいました。

 

今回、長崎市は約108億円の拠出を決め、2018年から護岸や炭鉱を中心に整備を開始するようです。

しかしながらすべての高層住宅を修復するためにはさらに数百億円、場合によっては500億円以上必要であるとする試算もあったりします。

 

世界遺産に登録するということは、保有国が人類を代表して保護・保全に永久に責任を持つということです。

今後も大きな課題となりそうです。

 

世界遺産「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」はICOMOSが指摘した課題の他にもうひとつ、主に韓国に対して課題を背負っています。

 

韓国は日本がこの物件を推薦する以前から登録に反対してきました。

構成資産の7件の施設で韓国人徴用工が働かされており、「国民の痛みが立ち込める場所」であるからです。

 

しかし、2015年6月に外相会談を開いて合意に至り、7月の世界遺産委員会では問題なく登録される予定でした。

ところが韓国は直前になって反対のロビー活動を展開。

日本はこの対応に追われ、結局、自らの意思に反して連れてこられ、厳しい条件で労働を強いられたという事実を認め、インフォメーション・センターなどで徴用について表記することを約束しました。

そして世界遺産委員会では討議をいっさい行わないという前代未聞の形で登録に成功したのです。

 

徴用というのは戦時中に国の強制的な指示のもとで労働に就くことで、太平洋戦争中は1939年7月に国民徴用令が公布され、数百万人の日本人が徴用されて工場などで働いていました。

当時日本人であった韓国人に対しても1944年9月から徴用がはじまり、終戦となる翌年8月まで約1年間続けられました。

朝鮮日報の報道では、長崎造船所に約4,700人、軍艦島に約800人が徴用工として送り込まれたということです。

 

徴用が行われたのは事実ですが、労働内容の認識については日韓の間に大きな隔たりがあります。

韓国側は "forced labor"(強制労働)という表現を用い、多くの労働者が奴隷状態にあったと主張しています。

最近、"comfort women"(慰安婦)を "sex slave"(性奴隷)と表現していることと重なりますね。

そのため韓国紙は軍艦島を「監獄島」と表現したりしています。

 

徴用といっても一般的な会社と同じように給金が支払われていました。

ただ、敗戦直前になるとその条件は著しく悪化します。

といっても、あらゆる国民の生活が極貧状態に陥っていたのも事実です。

 

軍艦島のような炭鉱労働者については比較的高額な給金が支払われていました。

このため韓国人志願者も少なくなかったとも言われています。

 

長崎市は6月上旬、軍艦島の徴用に関して市の関係部署やツアー会社などに文書を配布しました。

それによると、「半島からの徴用者は端島炭坑をはじめとする日本各地の生産現場を支えた。炭鉱は落盤、出水など危険な職場であったが、現場では労働者として協力し、一緒に働いた」とし、「徴用という政策の性質上、一般論として意思に反して連れて来られた者もいたことは否定できない」としつつ、「島民は、共に遊び、学び、そして共に働く、衣食住を共にした一つの炭鉱コミュニティであり、一つの家族のようであったといわれている。島は監獄島ではない」としています。

 

韓国紙はこの問題をたびたび取り上げており、軍艦島をはじめとする構成資産を訪ねては「いまだに徴用についての説明がない」と非難しています。

「監獄島ではない」とする主張に対しても、事実を矮小化するものと反発しています。

長崎市のような主張を続けていく場合、今後も強い反発が予想されますし、2018年の世界遺産委員会で韓国や中国がなんらかの動きを示すことも考えられます。

 

徴用問題については、韓国で韓国人徴用工が日本企業を訴える裁判が相次いでおり、賠償を認める判決も複数出ています。

日本政府は一貫して1965年の日韓請求権協定で「完全かつ最終的に」解決されたとしており、日本企業に補償・賠償の義務はないとし、ICJ(国際司法裁判所)への提訴も視野に入れています。

 

この問題、韓国は引くに引けなくなっているような印象です。

日本側は首尾一貫した主張を続けていますが、世界遺産については徴用問題をアナウンスする約束ですから、なんとか着地点を見つけなければなりません。

 

保全にしても徴用にしても、非常に難しい問題です。

長崎市や長崎県だけでなく、日本としてどのような対応を取るのか注目されます。

 

 

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